『お零れ話』

影狼

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番外編

少女の諦めー祓幽の神様と哀愁ー

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こんな辺鄙な『劇場』においで下さりありがとう存じます。
『劇場』の【案内人】を務めさせていただきます、『劇場のもの』でございます。
「同じく『劇場』の【案内人】を務めさせていただきます、『劇場のもの』です!」

「よぉ、また来たぜ【案内人】。
もう一人のもよろしくな。」

「よろしくお願い申し上げます、フリニロチシ男爵。」
男爵とあろうものがそんな言葉遣いをしてはなりませんよ。
「細かいことはいいだろうが。
いつもは居酒屋のマスターを演じているんだしたまにははっちゃけたいもんよ!」
はぁ、本当に貴方は自由奔放ですね……。
「はは、いいことですよ。
それと話変わりますが、マドモアゼルノフィリメとお嬢さんは何処にいらっしゃいますか?」
「あー……すぐ来るぜ?それがどうした?」
「今回の演目に御二方が出るものでして……」
「ふむ……まああいつらなら大丈夫だろう。」
ええ、大丈夫です。
「えぇー!!なんでそんなに御二方落ち着いてらっしゃるのですか?!」

貴方がまずは落ち着きなさい、その者の真髄を見極めなさい。
「は、はいぃ……。」
「………………来た。」
ありがとうございます、カフィ・ジモセ。
「………………なんてことはない。」
「ようこそ、麗しき剣士よ。」
「ようこそおいでくださいました、麗しき剣戟と能舞の上手い『かの舞手様』。」
「……………………ああ。」
さて、お席にお座り下さいませ。

「今回も私たちがご案内しますね!暗いので足元にご注意くださいますようお願いいたします!」

コツ、コツ、コツ、コツ……。
カツン、カツン、カツン、カツン……。

四つの足音が、静かに響きます。
ひとつは落ち着いていて、一糸の乱れもない洗練された足音でいて流麗な動きでございます。
もうひとつは素直な方なのだと、足音で分かるかと思います。
大股で、それでいて逸る気持ちを抑えきれぬままお客様をお席まで、ご案内しているようです。
お客様のうちのお一人は、大股でいて堂々としながら冷静沈着な動きをしています。
お客様のうちのもうお一人は、周りを警戒しているのかゆっくりめに歩きますね。
それでいて流麗な動きをしまして、流石『かの舞手様』だと分かるかと思います。
劇場の中を、その者らの音で満たしますね。

「どうぞお座り下さいますよう、よろしくお願いします!」
「ああ、わかった。」
貴女はスタンバイを、お願いいたします。
「ああ、わかった。
後で剣舞に付き合ってくれ。」
はい、必ず。
彼女、『かの舞手様』は微笑みその場から消えました。

「お待たせいたしました、【案内人。】」
私の方も準備OKです。
「はい、わかりました。
それではご注意点を申し上げます。」
・全ての小説は、二次創作対象になります。
・オリジナルキャラが出演いたします。
・キャラ崩壊がある可能性がありますので、ご注意くださいますようお願いいたします。
・回想シーンが頻繁に、挿入されるので事前にご案内致します。
・暴力シーンがある可能性がございますので、お嫌な方は劇場からご退場していただければ全額返却いたします。

ご注意点は以上になります。
それでは一ベルを鳴らさせていただきます。

リィイィィイィイイィイイイィン……。










本ベルを鳴らさせていただきます。

リィイィイイィィィィイイイィン……。





「演目名を告げますね。」
『少女の諦めー祓幽の神様と哀愁ー』でございます。
之より、始めますはある少女が祓幽の神様と出会って何かを変える物語でございます。
それでは演じ(始め)させていただきます。
「開幕致しますー、開幕致しますー。」
ーーー演目開始いたします。ーーー



あれ、ここはどこなんだろう。

……わたしは、誰なんだろう……。

このちっちゃい手はわたしの手、かな?

ああ、いたい。

いたい、いたい。
体がいたい。
体がいたい。
動かない。
動きたいのに動けない。
動かない。
そして黒いなにかが、わたしの中をむしばんでいく。
やめて、やめて。
入ってこないで、わたしの頭の中をぐちゃぐちゃにかきみださないで……くるしい……くるしい、いきができない。
くるしい……くるしいくるしい……いきが、できない。
いきをしたくない、いきをしたくない。
なんで?なんで?なんで?どうして?どうして?
いきをしなきゃいけないのに。
いきをしなきゃ、死んでしまうのに。

どうして?ねぇ、どうして?
何で?
どうして?ねぇ、どうして?
何で『生きてる』んだっけ?
わたしは、どうして息を止めてるんだっけ?
いきをしたくない、いきをしたくないから、そうしなきゃ…………。
そうしなきゃ……そうしなきゃ……。そうしないと……
そうしなきゃ……。
そうしないと…………。
いやだ、いきをしたくない、いやだ……いや、いや、いやだ、いきをしたくない……。
いきをしたくない、いきをしたくないから、やめて。
いきをしたくない……。
どうか。
どうか。
どうか。
どうか。
そう思っているのに、なみだがポロポロ出てくる。
どうか。
どうかやめて。
どうか……。
じごくへはもどりたくない。
いやだ。
どうか。
ここにいさせて。
じごくへは……どうか。
『じごく』へはいいけれど、「じごく」へはもどりたくない。
「じごく」はいきがつまる。
「じごく」はわたしにとっての、生きじごくだってことは分かってるから。
「じごく」はとてもくらい、くらいの。
「じごく」はね、とてもさむいの。
「じごく」は、なにもないの。
「じごく」はおどろくほどに、なにも。
「あるのは」ただいたい、くるしい、かなしい、いきがつまる、「生きていたくない」。
ただそれだけが、「ある」んだよ。
あそこがわたしにとっての、じごくだから。
どんなばつでもうけるから、「じごく」には行きたくない。
……『じごく』がいい、「じごく」はいやだ。
いきをしたくない……。
やめて、やめて、いきをしたくないから、いきをしたくない……いきをしたくない……いきをしたくないから、やめて。
やめて、やめて、くるしい、くるしい、やめて、くるしいよ、やめてよ。

くるしい……くるしい、やめてよ、やめてよーーーー。

ーーー彼女の膿(ノイズ)に到達。ーーー
ーーーこれより、回想シーンに参ります。ーーー

『あんたってさ~、ほんっとに鈍いよね。
いつまでもトロトロしてて、ここで生きていられるの?』
おかあさんのタバコ、くさい……。
わたしに、ふきかけるのやめて……においがひどいよ…。
やめて、わたしなにもしていないよ。
『ああ、お前の言う通りだな。
お前はとろいんだから、あっという間に野垂れ死にするかもな?
ハハッ……!
……今日もやっちゃうか?』
…………ッ。
おとうさん、なんでそんなにわらうの。
なんで、そんなにつめたい目で見るの。
『おー、いいね。
やっちゃおうか。
ほら、こっちにおいで。
沈めたげるから。』
………………ッ……どうして『わたし』を見てくれないの?
どうして、つめたい目で。
そんな風にわらうの。
何も、していないのに。
どうして?
何で?
どうして?
どうしてそんな風にわらうの?
どうして『私』を見てくれないの?
どうして、そんなつめたい目をするの?
なんで、そんなふうに力を入れてわたしをつかむの?
(…………ああ、もしかして『わたし)は、『あい』されていないのかな。
……くやしいなあ、……それ以上にかなしいよ。
なんで、そんなふうにわらったのかな。
…………。
もうかんがえるのやだなあ……。
…………………………。
……もう何もかんがえていたくないよ……。)
そうしてわたしは、一すじのなみだをこっそりとながした。
(…………………………へんなの、なみだは出るなんてね……。)

『やだ!
いたいのやぁ!
くるしいのもやだ!
たすけて、だれかたすけて!』
少女の悲鳴が、一角の部屋から響きました。
壁が薄いので、殴る音も蹴られる音も丸聞こえでしたがここのアパートの住人全員は、見て見ぬふりでした。
その頃、アパートの住人に集るモブが沢山いました。
彼らはそれの、弊害を背負うことになりました。
大家さんだけはなにか対策を講じていましたがまあ、手遅れでございましょう。
彼女の親は、所謂毒親でした。
ここまでのお話は在り来りなお話でございますが……「彼女」が、幽霊となるきっかけをこれからお話いたします。

水の中、くるしい……おかあさん……おとうさん……やめて、『わたし』になにをこれ以上もとめるの?
水の中からだされて、おかあさんとおとうさんに見つめられた。

『お前なんて、産まれてこなきゃ良かったのに。』
『お前がいなければ俺達は幸せになれたはずだ。』
『『……邪魔をするな、ーーー。』』
え?何を言っているの?どうしてそんな風にいうの。
おかあさん……おとうさん……どうしてまた、そんな風に……わらうの?
それから『わたし』は、また水の中に沈められいしきをおとした。
ーーー膿(ノイズ)の回想シーンを終了いたします。ーーー

そうして、わたしは目覚めた。
それからわたしは、わたしに問いかける毎日が続いた。
いつの間にか、記憶はなくなっていたけれど……。
どこに行こうかな……。
……そもそも、ここはどこなんだろう。
「……何もないところ。
…………まあ……ーーーよりはマシか。」
そうして何もない所をさまよっていると、いつの間にかさくらがさいているところに出た。

ながめていると、ふわりと花びらがいっぱいとんできて、目をあけたらお面をつけているふしぎな感じの人がいた。
「おや、こんなところでどうしたのかな?」
…………ふしぎな服。
「ああ……この服が気になるんだ。
この服はね、狩衣といって昔の人が着ていたものなんだよ。」
「…………なんでわたしのかんがえていること……。」
「………………さあ、何でだろうね。」
…………ふしぎな、ひと。
「…………ふふ。
さあ、私達の館に行こうか。
『祈訵曦』ちゃん。」
名前を言われた気がするけれど、強い風が吹いて聞こえなくてさくらの花びらが舞って口元が、見えなくなった。
……………………?…………………。
ふしぎな風。

………………やかた。
そこにいけば、なにかかわるかな。
「うん、そのために俺がここにいるんだから。」
………………おとこの、ひと?
「うん、そうだよ。
……名前はあるけれど、知りたい?」
「………………うん、きかせて。」
「わかった、『鬼神鬼喜丸』と言うんだ。
お見知りおきを、『祈訵曦』ちゃん。」
…………!
…………………もしかして。
………………………わたしの、新しい名前?
「うん、そうだよ。
きみはどうしたいの?」
「…………とりあえず、あなたについていく。」
「うん、わかった。
目を閉じるの?」
「このあと、やかたに行くんでしょ?」
「……うん。
じゃ、行くよ。」
「……もういいよ、目を開けて。」
「うん。」
「……………………わぁ…………………。」

ーーー視点変更いたします。ーーー

少女『ーーー』改め祈訵曦ちゃんは、目の前にある光景に目を開いて目に光が灯って興奮したように動いてそれが、冷めやらぬまま空いた口が塞がらない様子だった。
「………………きれい、ここがやかた?」
「…………丁度ここで舞う予定なんだ。
だからそのついでにきみも浄化しようかなって思ってね。」
そう、祈訵曦ちゃんは穢れで黒いものが身体にまとわりついている。
ドロドロしていて異臭を放つそれは、記憶を失っている間についた。
…………それよりここも、長い長い時、いやウン何百年も変わっていないな。
桜の花に、梅の花が舞い散るのは圧巻だろう。

『…………さて、『果春』。』
『何ー?『鬼喜丸』。』
『舞うぞ。』
『あれか~、わかった。』
念話魔法で言葉を交わして、祈訵曦ちゃんに話しかけた。
「行こうか、祈訵曦ちゃん。」
「うん。」
そうして俺は小さな小さな身体をしていて可愛らしい、それでいて強く脆く心が大きくやさしい『女の子』の、手を優しく握って館の中に入ることにした。
……………………『館』のものたちには『幼き童をここに、館であるここに連れてくるとは何たる……連れてくるとはなんとおいたわしきかな……。』と同情の目で見られたが誤解は何とか解けた、ということは『祈訵曦』ちゃんにはまだ分からないだろう。





そうして俺達は館の中に入り、祈訵曦ちゃんには待って貰って着替えた。
「いやー……ちょうど良かったね。
ここに来る途中で、あの子を拾うとはね。」
「………………ああ。」
幣は手に持って、扇子を腰に差し込んだ。
「……………………行くぞ、果春。
『皆様方』を待たせちゃいけないからな。」
「うん!」

「…………かしこみかしこみまをす。」
祝詞を唱え終え、本格的な踊りを舞った。
面を着け力強く、足を踏み込み鈴を振りながら踊り続けた。
時々、見に来てくださっている神様も沸いたように歓声をあげた。
炎が踊るように激しく、水が湧き出るように流麗に緩やかに、木の葉がさわさわと揺らぐようにゆったりと、土のように堂々と、それでいて脆く、踊った。
『果春』はゆったりと女性的に、艶やかに踊った。
『果春』は黒髪の、長髪が綺麗な女性で『巫女』の『人形』を操っていた女性だ。
舞い踊っている途中で、神様の中に紛れ込んでいた幽霊たちとあやかし達が祓われたようで身体と顔に纏わりついて不快な音を出して蠢いていた、黒いものが四散し光に還元されたところを見た。

「今回も成功だねー。」
「ああ、そうだな。」
そうして喋っていると、幽霊たちやあやかし達の何百名かにお礼を言われた。
「ありがとうございます……『祓幽の神様』。」
「感謝申し上げます。」
「ありがとう……。」
「身体が軽くなったよ、ありがとう。」
「ありがとう。」
「本当にありがとうございます。」
「貴方方がいなくては、私達も頑張れないもので……。」
「ありがとう、ありがとうございます。」

「………………すごい、神様ってこんなふうにみんなの期待を背負ってやり遂げてみせるとは思わなかった。
わたしたちの世界の神様も、こんなふうに……やっていたのかな?」
「…………そうだよ、祈訵曦ちゃんのいる世界の神様もこんなふうにやっている方が多いかな。」
「うんうん、まちまち違うだろうけどねー。」
「………………祈訵曦ちゃんの身体の黒いもの、消えたね。」
「あら、ほんとだ。」
「あ、気づかなかった……。」




ーーー演目終了いたします。ーーー

皆様方、ご覧になっていただきありがとう存じます。
「『かの祓幽の神様』もとても凄いですね!」
ええ。
「続きはないのですか?
私、また演じたいのですけれど……。」
そんな名残惜しそうな顔をしなくても、そのうち貴女方もまた演じれますよ。
「マドモアゼルノフィリメ、お嬢さん。
そして『かの舞手様』。
お疲れ様でした!」
「ええ、お疲れ様でした。」
「なんで私が妖怪役を……ブツブツ……。」
「お疲れ様です。」
「あはは、可愛らしいお嬢さんですね。」
手を何回か叩いて、気を取り直させます。

それでは、当劇場においでになって下さった皆様方、また当劇場においでくださいますよう。
「お待ちしております!」
(【案内人】が言いまして、45度に腰を曲げてお辞儀致します。
元気に言った案内人が、爽やかな笑顔をあなたに向けるでしょう。
そしてそれに倣うように、【もう一人の案内人】が45度に腰を曲げてお辞儀致します。)
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