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裏。ー影。ー
魔を統べる王の傀儡。ーひとの味はいかほどかな?ー
しおりを挟むそんなこんなで、カロリータ・フロワッチ=ヴェンデッタは鬱々とした森を歩いていた。
一族の彼岸……いやいや。
間違えたよぅ。
悲願達成の目的のために、彼女は毒草採取をしようとしていた。
そこにうさぎ型の魔物が現れたが、カロリータでも倒せるような弱小なものであったから。
安心して倒せた。
……食べられたような、噛み跡や傷があった事すらも気づかない矮小な『人の仔』で、出会ったのが運の尽きだよ。
『カロリータ・フロワッチ=ヴェンデッタ』。
ぬるり、と手に付いた血が気持ち悪くて彼女は吐いた。
その直後にまぶたから斜めに、五センチは切られた。
そして大きく傷をつけられ、あまりの衝撃に仰け反った彼女。
追い討ちをかけるように、剣が真っ直ぐ腹部を貫通した。
素早い剣筋に、正確無比の計算し尽くされた軌道に、翻弄されながらも。
彼女は、いつもこうだいつの間にか狂者に追い抜かれる、どうして静を渇望する?既に総てを喰らい尽くしたくせに、まだ強襲すると言うのかまた、私たちから全てを喰らうのか!何故死者は死者らしく鏖にされていてはくれないのか。
『喚くのはやめたようで、嬉しく思う』
亡霊は滅せよ!と、少女のその眼は確かに奢っていたのだろうけれど。
(……ノイズが酷くなっていきますね。
……映像が途切れてしまいました。
……『何者』かの妨害でしょう。
……『女性』と『皆様方』は、落ち着いた様子で誰かの名前を呼びました。)
『枸、来てくれるかのぅ。』
それから、“何処かにいる”であろう女性が男性の傍で呟くのです。
金色のネックレスを着け、陽の光に反射させつつ和服をきちんと着ており、白い布を付けております。
『……恐れながら、今宵は何かが起きそうな予感がするのです。』
『……懐かしい何方かが、お仲間を伴って彼処へ来ると、そんな予感が。』
『“恐ろしい姿をし、侵入者を食らう守護者が集う彼処”へ。』
駆り出された感情は。
『虚虚虚虚虚虚虚虚虚虚虚虚虚虚虚虚虚虚虚虚……。
思はむ子共々いとほしけれ。
仔らは、ここまで落ちぶれ、落胤した末に。
…………嗚呼。
こうして漆身呑炭と唄い、烙印を押すと云うのか…………………………………。』
駆り出された感情は、そうだな。
ただ虚ろ、虚無のみ。
『………………』(沈黙)
そこはただ姿もなく、魔を統べる王の傀儡になったとの伝説を持つモノが、食らう処。
管理者、とでも言おうか。
培った手腕を振るうのも、そう遠くもない訳だが。
……「ひとの仔」の味はいかほどかな。
……おいしいかい?ねえ、君に聞いているんだよ。
『元裏切り者』さん。
「アンクェリッタ」をも食べた感想をね。
……その問答は、そっけなく無視され。
彼女をあっという間に組み伏せるが、でも『カロリータ』は気づかない。
『たったこれしきを、耐えられず。』
『あの方に戴いた『偽名』を、易々と棄てられるものか。』
『沈黙は私の武器だ、阻むのならば。』
白華を奪え。
リィィィィィィィィーーーーーーン…………。
リーンゴーン………………。
リーンゴーン………………。
リーンゴーン………………。
リーンゴーン………………。
リーンゴーン………………。
『……森の奥深くに、または遠い所にありそうな花と言えば……』
……ふふ、恥ずかしがり屋のあの人に遭いそうな花でも摘んで行こうかしら。
『………ああ、また貴方が。』
……、顔も声も思い出せないけれど。
…名まえだけはおぼえていて?
ぼくらの名まえだけね
『おひめさま』
『貙不知のひめ君、良く来てくれた。』
『……今日は何をしたい?』
『あそぼーよ、おひめさま!』
『けものしらず』
それを知るや知らずや。
剣に力がこもる。
赫月の光が身を蝕み、そのうちに。
『今宵も残夜もその先も可惜夜が明けるなら。』
『それを許さない為に。』
『穿鑿すらも。』
『制約すらも傀儡の身すらも』
すると、カロリータが口上中に蹴りを食らわせた。
『喰らおう、全ては私の為に。』
『あの方のかつて光で満たすことを希い、求めた世界を護るが私の力めよ。』
『我が名、「擬態名」……『エリック』……推参者であるが。』
『古の王の守衛に並び立つ双剣になるが為に』
『その力を借り受けよう、その名を借り受けよう』
『守と共に。』
【我が身は偽りの現身なれども、この身に染み込んだ血の香りと共に更なる叡智を求めて、深淵へ、死の影の溢るる谷へ、その先へと堕ちよう】
『ルールルールールルールルルールールルールルールルルールールルールールルールルルールールルールルールルルールールルールールルールルルールールルールルールールールルールールルールルルールールルールルールルルー……』
「影狼」に誓うと風が荒れ狂うように吹いて、間を置かないうちに歌が響く。
この森は広大な森だ、そうそうやすやすとはやられたくなかろう。
びくともしないだろう、当然だ。
『…………『かの卑しい小娘』。』
『なっ……!!どうして、あいつが呼ばれるはずだったのに……。』
傷口を抉るように剣を振るうと、痛みに顔を歪めるであろう彼女の顎を掴み、一度引き寄せた。
そのまま手を離して、身体のバランスを崩した隙に。
蹴りを食らわせ、彼女の小さな身体が地面に陥没するだろう。
『………』
冷ややかな視線を感じる『カロリータ』。
『カロリータ』は焦りと痛みを感じていた。
あまりにも力が強い、『傀儡』だとしても限度ってものがあるだろう……!
『哀れかな、哀れ………。』
『カロリータ・フロワッチ=ヴェンデッタ』。
『かつて悪魔の申し子と謳われた今は我らの傀儡へと堕ちたモノ』、と呼ばれるモノが姿もなく。
『一族郎党…………は。』
『は。』
『は、は。』
『其の覚悟も、なし崩し的になぁ?』
………おかげで、御前の一族、潰滅寸前だろ?ん?
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