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段々と進む。ーペーピルダ。ー

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おいおい、なんてこった!
こりゃアタシのモンじゃねえか!
返してくれよっ!

『やだね、『レディ』。
こんな「役立たず」にゃあおまえはもう綺麗にしてやれないよ、では聞こう。』
『汚れて虫食いの状態の「ティアーべリ」を、魔物たちが食べたいと思ってくれるのかと。
そう聞いているんだが?』
……。
あーあー、お貴族サマにゃアタシらの大切なもんが見えてないようだね。
『ふむ、それは良かった。きみたちは落としてあげようと思っていたところなんだ。』
は?彼処にか?はあーあ……『レディ』の名を廃らせちまったようだな。

『悦びたまえ、彼らもきみたちを歓迎してくれはするだろうから。』
そうして真っ逆さまに堕ちていった『レディ』であった。

相手の顔を見る時間も与えられることなく、意識は闇の中へと。

貴族風の格好をしたモノは、何かを呟いたようだ。

そして薄い唇がゆっくりと、三日月状に歪められる。
それは美しかった、が。
半笑いをしているようで、その途中でもその細い指が空中をなぞる。

それは、さも慕情に焦がれているようだ。
偽りでも真実でも、きっと自分の慕情を焦がすのだろう。

堕ちていく中で何もかも、奪われていくのかと『レディ』は思った。

すまん、ダンナサマ。約束したのに。

さて、少女の、声を形をしたモノは「少年」と遭った。

不運なことに、破滅的に、弄られたようだとげんなりした。
今頃は、と。
……そのことを想像すると殊更に当たりたくなるほど、憎く思った。

そう思考しながら、「少年」と言葉を交わした少女の声の心情は、無念に違いない。

さぞや悔しいだろうが、ここは舞台だ。

笑顔を貼り付け、言葉の裏にある欺瞞や劣情を押し付け合う場。

それから彼らはまったくもって。

まったくもってやさしくないので、情報収集の遮断や妨害なども当然ありえる。

『ここで何をしているの?
『落ちこぼれの凶人さん』。』
『また会ったね!『リージェリ』。
なぁに?僕のこと知ってくれているんだね!
嬉しいなあ!』

気分がいいのでしょうか、「少年」の声が少々高いですね。
それを聞くと、少女の声は再び落胆することとなった。

『ああ、それはいいの。それで、『落ちこぼれの凶人さん』は何をしているのかしら?
んん、良い香りね。』
『そうなんだ!『リージェリ』!聞いてくれるかい?
薬を作っているんだよ!ついでに料理もね!そろそろティアーべリが出来上がるよ!これは果物と薬を合わせた料理!魔物たちは、果物と野菜を詰め合わせた料理で勘弁してくれ、と言ってきたようでね!仕方ないから、カンムナギライタとタヤカイヘカチはもちろん、ギナフマオ辺りをすりおろして調合してみたよ!それからヘマカタサギナフや、ヤタヌカサラモルカーネユをちぎって湯につけておくと、すごく効果あるからね!これをよかったらどうぞ!美味しいよ!』

『リージェリ』、と呼ばれた少女の声は差し出された『ティアーべリ』を一口食べ、一言告げます。

『美味しいわ』
ほわほわ、と空間の周りに花が飛び散ります。
なん とも可愛らしい声が ここか ら、聞こえますなァ。
まあ、美味しいのならそれでよろしいのでしょう。

『それはよかった!』

あとは当然全て、ペットが平らげてしまいました。
ペットは大喜びのようですよ。

『さて、『リージェリ』。なんのようでここに来たの?』
『あぶない事じゃないよね?むしろ、僕らを探りに来た様子のようだけどそこのところどうかな?』
『さあ、損なんて今のところしていないからよく分からないわね。』
『それに、いえ。
今不躾なことを言いそうになったの、謝罪するわ。
本当にごめんなさいね。』
『いいよ!』
慌てて謝罪、という雰囲気ではなく上品でゆったりとした謝罪ですね。
それはもうにっこりと笑って、赦して下さった「少年」にございます。

『『レディ』、お前に頼みがある。』
『アイツ』が頼みをしてきたっけな。

『お前さんが頼みなんて水臭いぞ。なんだ?』
『森にある薬草を取ってきてはくれないか?』

そうそう、こんな風に気づいた時にはふと手を触れる程度だったんだ。
『ああ、そうだ。それとできたら水晶の護送もお願い出来るか?』

『合点!それなら、薬草はあそこの森でいいんだな?』
『そうだ、『レディ』。』

頼みを了承して、しばらくお互いの手を握っているだけで幸せだったよ。
お前の肌が傷つくのは俺としては、困るのだが。

『このこの~、『ハーベハ・リ・ヴェスタ』!』
『むぅ………『レディ』、その呼び方は止めてくれ。』

『困ってしまう。』
『え~!お前さんもだよ!』

『アタシを『レディ』って呼ぶじゃないか!』
『お前は俺の中で特別な存在だからな。』

『くぅ!何故か悔しいぞ!『ハーベハ・リ・ヴェスタ』!』
『はは、そんな所も特別な存在の理由だぞ。』

『『レディ』。』
『ん?どうした?『ハーベハ・リ・ヴェスタ』。何かあったか?』

『いや、大好きだと言っておこう。『レディ』。』
『なんだよそれ……ずりぃよ。アタシを舐めてんのか?』

『いや。『レディ』。』
『お前を特別扱いしたくて我慢していたのだ。』

『以前からな。』
『俺は元来こういう奴だ。』

『それでも認めてくれるか?『レディ』。』
『ぐぉぉ……『ハーベハ・リ・ヴェスタ』ぁぁ!!』

『はははは!そんな所も特別な存在らしさが溢れているぞ。』
『むぅ~………!!『ハーベハ・リ・ヴェスタ』、これでも大丈夫か?』

そうだったな、この時に手の甲にキスを軽くしたんだ。

『……………。』
『な、ダンナサマ。大丈夫か、と言っただろ?』

髪をかきあげて、意地悪に笑い声をあげるお前と言ったら。

『……………くっ、ふはははははははは!』
『……なっ?!どうした?!?』

可愛くて可愛くて、「どうにかなりそうだった」ぞ?

それだのに、襲撃を受けるとは思わなかった。

約束したのに、叶えられなかったのが口惜しい。

『本に囲まれ共に居たい』、それだけだったと。

『ハーベハ・リ・ヴェスタ』は、願いを認めた。

元々はあの辛気臭い場所に、いたくなかったようだ。
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