可笑しな漫画家が異世界転生した模様。ーただの神様達と神獣や少女で漫画家を困らせるようです。ー

影狼

文字の大きさ
上 下
69 / 301

睿感。ー敔托ー

しおりを挟む

『哀しいな、○×』

そんな言葉をすらすらと言っているのは、白衣ノ男。
妙に耳に残る声でそっと蒔く。
そうしてその白い指先に髪を絡めながらも、やさしく撫でていつものように懐柔した後。

くるり、と背を向けてわたしに、やはりすらすらと告げた。
『今日も宜しく頼むよ、芥の所をまわっておくれ。』
無辜の民の矜恃、それさえも踏み躙るのですか。
『サー。仰せの通りに』
一礼して背を向け、その場を後にした。

『そうだ、あの子の方はどうだい?』
去ろうとしていたのに、この方はとことん間が悪い。
故意的か、そこがまた改めて嫌いなのだとふっと笑った。
そして意地が悪いのは仕方ないだろう、とぐっと抑えることに。
声がかかったのを吟味しつつ、慎重に言葉を発した。
その間も「○×」に優しく声をかけていた。
全くもって、不愉快になった。
それはそれとして。

『概ね順調です、それはいかがしましょう?』
『それなら良かった。
ダメだよ、それよりもあの子を逃がすつもりで申請した訳じゃないだろうね。』

『たった少しの時間でも閲覧履歴が残りますので、それこそ貴方ほどの方でも。』
『ふうん、ヤツらにバレたくない理由でもあるの?』

『書跡が残りますが、それでよろしいでしょうか?』
『それはそうだね。うん、構わないよ。』
続けてでも、と声をかけて来た。
『君が、満足するならそれが一番だ』
『お気にかけて下さり至極光栄です、貴方に欅月の駆けが向きますよう。』
『ありがとう、無盃の民善に筺笥を。』

そんな会話を終えて、廊下に出て一礼した。

芥、と。
………。

『哀しいな。ふふ、「○×」きみはどうなりたい?』

声をかけていたから、気づかなかった。
侵入者へようこそ。
素晴らしい、後ろ姿だね。
と、そう声を掛けられていた。
何故気づいて…!
『垂涎巴』
……ッチ!
広範囲に変形した刃が拡散するように彼の身体を、切り始めた。
それは、まるで柔い地面を掘削するようで気味が悪いと侵入者は恐ろしく思った。

だが、嗤った。

侵入者へ、あるいは白衣の男へ。
声が聞こえる。

喧騒が騒がしい、そろそろ撤退しなければとは思うが。
この出不精に泡を食う出来事を、起こしてやりたい。

そうと決まれば、どこからかいつまんでやろうか。
侵入者の彼は、念の為すぐ脱出できるように足先を窓の向こうにやりながら退屈そうな仕草をしていたけれど。
白衣の男へ、細い声らしき音が微かにあって。
嬉しそうな声が聞けたのかみっともなく頬を綻ばせていた。

『ありがとう、○×』

……ただ、そうだな。
彼は、笑い方が下手だ。嘲るのなら喜んで嗤うだろうが、笑うのはどうにもいかないんだそう。

だからか傍から見たら、によによと気持ち悪い笑みを浮かべてるように見えるのが玉に瑕だが。

そんなことなどどうでもいい、はぁ。

肩を竦め、どこか愉快な心持ちで内情を話してやることにした。





『はー…………あの方は何を考えてらっしゃるのか。』
呟いた。ぼやきに来たのか、この坊やは。
囁いた。アイツに聞こえないように耳元で、話した。
耳聰いからねぇ、あの眼鏡優男は。

嘯く事になったとしても、わたしゃ関係ないよ。

『ありがとうございます、魔女様』
そう言って彼女は笑う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...