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鏡月ー逸る気持ちー
しおりを挟むそうですか、あなたはそのような選択をーーー。
『……おっ、いい天気だ。
……花、か。』
『えぇ、今日はどんな花がいいでしょうか?』
平凡な男性、ーーー疲れたような顔に、へらりと気が抜けるような笑顔を浮かべつつ咳払いをしました。
そして照れ隠しをするように、それでも親しげに花屋の店員さんと会話をしていました。
『あら。お疲れのご様子ですね、それではどんな風にしましょうか。』
『………こほん、失礼した。うーん、それでは…。』
それから、恋人かあるいは親しい人にあげるのか明るい色の花を、何種類か選びました。
会計をし店を出る直前に、気が抜けるような笑顔を崩さずに耳元に口を近づけて一言二言囁き、店員さんの顔色が悪くなるのを「見届けずに」、顔を前に向けて去りました。
その男性は先程の顔ではなく、口元によく見なければ分からないほど薄く底意地の悪い笑みを浮かべていました。
ほくそ笑んでいるのがバレないように、『何方かか』を名指ししながらも気の抜ける笑顔を貼り付けていたのです。
意図はなんだったのでしょうか、けれどそれは……。
………彼のことです、意図を分からせないことも逸らすこともそうするように誘導するのです。
『ありがとうございました』と言う店員さんの声を聞くとほくそ笑んでいました。
………ふふ、ああしてあの方々に水を差されたのですがね。お楽しみは後に取っておきませんと、私の喜びは私の喜びになりませんのでご了承くださいませ。
閑話休題としましょうか。男性の囁き声が脳内に反芻されます。
暗に脅迫をされた様子ですが割愛いたします。
その時が訪れる時迄後悔など決してなされませんように、『私達』は「万が一の事が起きないようにいたします」。
「眠りの時が我らを呼ぶ、ならば呼ばれざるモノ共よ。」
「静かに遅くとも治めよ。
虚の慮る処を、あるいは。」
「呼べ、呼べ。呼ばれざるモノ共よ、悦びを享受せよ。
呼べ、悦びを与えられたならば。」
「亡びを与えよ。亡びを呼べ。
我らの「花」は壊さぬように丁重に扱え。」
「嗚呼。
『お前達』を忘れてくれるなら丁度良いのだが、……『華』を壊すことも赦さぬ。」
カーテンの向こう、若しくは……いえ、いえ。
我が【マスター】、申し訳ございません。
……そんなつもりは 御座いませんよォ 。
あっしの現に免じて赦してやってくだせェ、あっしらの【マスター】 サマァ。
えェ、感謝申し上げまさァ……その代わり に、彼等に珠を取りに行かせますねェ。
……………………失礼、いたしました。
ですがね、貴方サマは ちぃーっとばかし「化かし愛」を。それも「冷たい愛」を差し上げよう ってんです?それも極上の一物を添えるとはァ、あっし らの【マスター】サマも中々に喰えない御方でさァ。
…………シルエットが元の場所に戻りました。
……そうですねェ、あっしは 貴方サマ の傍にこれまで通りに 侍りますよォ。
ある男性は花束を持って道を歩き続けます。
愉快げに、または嬉しそうに。
その日は太陽がギラギラと照りつける蒼穹が清々しくも鬱陶しい夏のある日、でした。
その時に後悔などなされませんように。
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