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消え行く魔物に祝福を。ー終ぞ見かけないとある王への敬意を。ー
しおりを挟む「俺」は唯の、「魔物」だった。
息も絶え絶えの、『キイエティ』……。
“前世”は矮小な蟻だった。
前前世は、何処かに小さな幸せのあった小国の王。
それ以外にも色々な、『生』を受けた。
動物だったり、一国の民だったり、放蕩をしたがる商人だった。
日本人だったりもしたな。
様々な生き方をしたのだ。
死因も様々だったが。
…………今回は、彗星の流れ弾……による圧死か、焼死か。
今回、そうなったのには何かしら意味があるのだろうか?
九死に一生もないだろうが上手く生き残れたとて、待っているのは……。
「敵方」の雑兵との接敵だろう。
それよりも、原状を整理しなければ。
まず、回復は見込めないだろうな。
「魔物」の体は丈夫と言えど、残念ながら自然治癒力はそこまで高くもない。
だから回復は見込めない。
それでも「下級魔物」の俺に、何ができるだろうか。
……何をしようか、いや。
“何をすべきかもう分かっているのだろう”………?
そう「頭の中」に浮かんだ「文字」が。
『キイエティ』を微かに、鼓舞した。
その鼓舞に感銘を受けると同時に、何故か「畏怖」を彼は、覚えた。
そう、覚えて“しまった”のである。
それでも心に留めるべきだと、そう思ったことだろう。
この整った綺麗な文字を、綴るは。
彼の“絶対的支配者”である、と。
………とは言っても、安心するなかれ。
“絶対的支配者”の機嫌次第で直ぐにでも、殺されてしまいかねないのだ。
……それに『この地』、そう。
「この世界」の文字なのだから、「万が一の事」も。
熟慮しておかなければいけない。
様々な問題を片付ける前にできそうなのは、まず。
認識違い。
解釈違い。
つまり認識の齟齬を、明確に区別すること。
『彼』はそう思い、行動に移すことを誓った。
“…………”
さあ、『期待』に応える時だ。
…まずは先程も思ったが、何処からかやってきた「彗星」、基『NC級魔法』。
……はは、あれにも過程があるのだろうな。
まずは「街を壊し」、敵方、『俺ら』の所属する組織のあるいは下っ端の俺らが、情報を得るために重要な役割を果たす建物を破壊し、また優秀な人材の殺害をするような過程が。
さらに事前に『彗星』に、かけておいた魔法で。
その情報を、俺達を率いている御方へ、渡せないように。
“わざと”遮断させる。
もう既に「した」か、または術者が自ら「する」か……。
……自らはありとあらゆる情報を得て、自分達の『仲間』に。
情報整理をした上で譲渡及び共有し、『撹乱という目的』を。
達成するためだろう。
…………ああ、この世界も。
変わらず、「美しい」。
『名を知らない、あまつさえ顔も知らない。』
『そんな私の、私達の仕える王に。』
『一度は逢って見たかったと矮小な蟻だった。』
「魔物」の、小さな願い。
『………そんなことをしなくてもいいと、何時でも会えると思っていたのですが。』
『結局、逢えなかったですね。』
遭えないではなく?
ケゥ、ケゥ、と『キイエティ』特有の細い鳴き声をあげる。
遭えないではなく。
さては声を出しすぎて、掠れてしまったか?
……まぁ、『人の仔』“ら”ならまだしも「魔物」には、そんなこと関係ないか。
殊更、「魔族」にも。
2mの細くも力溢れるであろう「キイエティ」の体躯は、「人間」ならほとんど太刀打ちができない。
人間と同じような、けれど稀に別の強さを持つ個体が生まれる“だけ”の、ごくごくありふれた「下級魔物」なのだが……さて、どう「巡る」ことかな。
今は力が上手く入らない上に、巨躯だ。
その巨躯、もとい体をばたつかせる。
片翼だけになった翼で、ふらふらと浮かびながら。
『彗星』をギリギリで受け止める。
『キイエティ』は、『キイエティ』な種族。
5mの、細い体でありながら巨体を誇る種族。
『種族の名称』はあれど『個体名』。
つまり、名はない。
とは言えど、例外は何時でも湧き出てくるだろう。
翼は宍色で、微かに赤いラインが入っている。
その体躯に合った、大きな大きな片翼はもう空の彼方に。
あるいは、遠い場所の地面へ散っていることだろう。
拝啓、親愛なる王へ。
……紫翠の、それでいて苦境にもめげない美しさを放つ自然溢れるこの街に、彗星が降ってきました。
叶えては下さらないのだろう、きっと。
あなたは……。
……………敬意を。
…………終ぞお目通りが叶わなかったのは、………。
降り注ぎ、建物を破壊し、地面を穿ち、巨躯に穴を空けながら「キイエティ」の命を吸い取っていきます。
どう、 か。
……仔らの 守護者へ 慈悲を。
この
哀れな 魔物を ……滅ぼして……
大小関係なく、種族の関係などないかのように。
ただ、在るのは。
王…… よ…… 『我が君』の処へ。
先に……行く、事を。
お赦しください…。
滅亡のみだと、思うことだろう。
………これ“が”。
いいのでしょう? ………。
『我が、君』……お望みの「『世界』」へと……なっていたら、……。
綺麗だ、な 友よ。
その憧憬や光景を最後に、彗星が巨躯へと激突し、名もなき『キイエティ』は息絶えた後に身体から粒子が現れ消滅するのだった。
…………消えゆく魔物に、祝福を。
“授けよう、愉しませてくれた礼だ。”
そうして消滅した後に、赤い粒子が浮きながらその上で回転し始めると茶色のもやが漂い始めた。
蛇のようにとぐろを巻いた十五m弱もある魔物らしき姿が現れた。
その魔物は、軽く頭をもたげて、地面に下ろす。
満足しているように、あるいは。
「アレ」に関われたことへの最大限の感謝を示している、と言うべきだろうか。
“絶対的支配者”……「世界」に仇なすモノは遅くとも早くとも、ことごとく『喰われる』か『爪痕を残される』か……悲惨な「終幕」を迎えるというのだから、空恐ろしく思う者共は、「この世界」にも少なくともいるのだろう。
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