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幸せで夢のような物語、そして柔らかい拒絶でございます。ー亡失の底で眠る誰かの記憶ー
しおりを挟むギルドにある二階の端にある部屋を出る時に、ふと気になる本を見つけたので『アリア』は許可を貰って『本棚』に戻そうと思い至り『クローリア・ススピリ』に声をかけた。
『……あの、クローリア、さん。
…この本、タイトルがないのですが本棚に戻したいと思うのです。
……タイトルがないというのがその、気になっていて。』
「そんなにわたしを呼ぶのが怖いのか?
『クローリア』でいいぞ。
……………そうか。
その本は『D3』、三段目の右端に。」
しばしの沈黙が流れ、『クローリアさん』と呼ばれた『女性』が落ち込んだ表情をし、『クローリア』と呼んでほしそうに柔らかい声を出した。
『タイトル』がないと聞くやいなや沈黙をし、どこか切なげな表情をしながら『本棚』のどこにあるか『アリア』のそばに近寄ると、指で指し示しながら場所を教えた。
ブロンドの髪がさらりとなびく。
彼女、『クローリア・ススピリ』の容貌も美しく精巧な人形のように、目鼻立ちがくっきりとしていて尚且つ整っていた。
そして星が瞬くような輝きを伴う綺麗な『ネイビー』の目をしている。
唇は薄いが、ほんのり赤みがあり形も綺麗だと近づかれて改めてアリアは、密かに憧憬の気持ちを持ったのだった。
『クローリア』さんは身長も高く、人外のように思えるほど人並外れた美しさを持っている。
そして『ギルド』の長として接してくれた上に、私の実力を見極め認めてくれた。
この『ギルド』の全体像を見た限り、『彼女』以外の『職員』も相当の実力者だ。
だが、『ギルドマスター』には遠くもないし近くもないちょうどいい塩梅を見極め、その上で『秘匿魔術』を行使しているのだろう。
……アリアは分析力が高い。
それ故にこれ以外にも新たに考え、思うことになるだろう。
けれど、今は目の前の出来事に集中することにしたようだ。
『三段目の右真ん中』に一冊分の隙間があった。
そこに、カタンと微かな音を立てて差し込んだ。
「ありがとう」
耳に届くか届かないかの小さな低い声がした。
『この場』には『男性』は居ないというのに、だ。
それはまるで鯨のように、深くて深い中に寂寞感の残る『声』だった。
……何故だろうか、この声を聞いたことは無いのに懐かしいと思ったのは。
そんなことはすぐ頭から消え去った。
「いいぞ、ありがとう。」
クローリアの柔らかい声が感謝を告げるのが耳に届いたからだ。
……そして、その声と先程の『男性』の声が柔らかな拒絶のサインであったことは『ススピリ』以外の誰もが知る由もないだろう。
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