可笑しな漫画家が異世界転生した模様。ーただの神様達と神獣や少女で漫画家を困らせるようです。ー

影狼

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揺蕩う獣の想い。ーかの神様の微かな苦悩でございます。ー

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『………………ふ……………ふー………………ふー……。
……………………ふー………ふー
…………ふ………。』
壁にもたれかかった獣が徐々に人の形になると、苦しげに息を切れさせながら、鮮やかなエメラルドグリーンの楕円形の入った透明な薬の小瓶を懐から取り出しました。

それの蓋を開け、薬を一粒手に取りました。
それから、薬を飲み込みました。
喉の乾きがまだ収まりません。
一秒待つと、僅かに収まりました。
『…………………………。』
沈黙をして微かなため息をついて、昏い昏い倉庫の中でドアの前に移動してから座り込みました。
『主、大丈夫ですか?』
壁1枚隔てて、反響しないもう一人の男性らしき低い声が聞こえてきました。
念話魔法でも使っているのでしょうか。

その声を聞くと、男性は念話魔法で答えました。
『そうでしたか、私共も安心致しました』
低い声ながら安堵の滲んだ声に変わりました。
『……それの効果は絶対ではございませんが、その都度変えてもらいましょうか?』
拒否しました。
『そうですか……。』
すると、1枚隔てて何やら不安を掻き立てるような、微かな罅の音がしました。
そして、息遣いが荒くなった神であり、主である男性の声を聞いて、慌てて部屋に入ろうとしたお方でしたがバリアが張ってあり、ドアから手が弾かれました。
槍が一瞬のうちに現れ、動いてその方の喉笛に突きつけられました。
『……ッ……命じる。
……ハアッ……ふ、フゥ……ふー……俺の、許可を得るまで入、…………ふ……るな、…フゥ……ッ……ヒューイ。』
『………ッ………承知しました、『主』。』

カタリ、と音がしました。
ドアの傍にあった木箱が、揺れる音でしょうか。
『ヒューイ』と呼ばれた長身の男性が探知魔法を使用すると、少女が入っていました。
今の『主』は薬なしでいると危険なので、少女の入っている箱ごと転移魔法を、かけることにしたようですね。

『………ッ……ふー……ふ、……ハアッ……ッ……ハアッ……ふー……。』
どんどん息が荒くなる『主』の声を聞いて、不安になるヒューイでした。
(…………可愛い、可愛い……『ーーー』………。
…………愛しい、愛しい………『…ーーー』……。
君がここに居たなら、俺はどんなに楽になるだろう……。
会いたい、逢いたい。
……今すぐ逢いたい、会いたいよ。
…………………可愛い、可愛い『ーーー』……。
……………………愛しい、愛しい『ーーー』………。
だけど、会えない。
逢いたくても逢えない。
会いたい、逢いたい、でも会えないんだ、すまない。
会いたいのに、逢えないから。
苦しい、苦しい、そう思っていてもそう思っているだけじゃ、喉の乾きは止まってくれない。
苦しい、苦しい…喉の乾きが徐々に迫ってくる。
喉の乾きが徐々に、俺を蝕んで行くんだよ。
苦しい、喉乾いた……苦しい、苦しい、苦しい、苦しい……。
……………可愛い、可愛い……『ーーー』……。
…………愛しい、愛しい………『ーーー』………。
とても逢いたい………………会いたくて堪らない……。
…………可愛い、可愛い……ーーー……。
…………愛しい、愛しい……ーーー……。
…………また愛しい君と平穏な日々を……。)

主はその状態のまま眠ったのか、微かな寝息が聞こえてくる。
槍は俺の喉元に、突きつけられたままだ。
バリアに向かって、手を翳す。
極小さな魔法陣が手に現れ、術式を構築しながら回っていく。
バリアの強度を高めているが、恐らくこれでも主には敵わない。

『主に安寧を、安らかな眠りを。
せめてもの救いになることを祈ります。』

『……ヘルウンデ・シャーロット。』
柔らかな琥珀色の光が、徐々に現れ眠っている主の身体の周りに漂いますね。

すると、主の身体の強ばりがなくなって浮遊しました。
それから、風が窓もないのに主の髪をさらりと撫でました。
そうして『主』は転移魔法をかけられ、暗い暗い今は使われていないであろう空き部屋の隅にあるベッドの上にふわり、と寝転がる形で転移してきました。
ただ、主は眠ります。
もちろん、『ヒューイ』はかけたバリアもバリアの強度強化魔法も移していました。
『………………『リペネ・ミーツ=セリソネオ』、いや。
『フィヴィ・シャロヴァ・ルーロヴセス』、次はない。』
『くくくっ……ふふふふっ…ありがとうね?
『かの獣人さんに恋焦がれている獣の従者さん』?
今度は『獣』を弄ぼうかね……。
『獣』にとっての『毒』で、さ。』
『貴様ッ……主に何をするつもりだ!』
『吼えたって無駄だと思うけれどねぇ?『ヒューイ』くん。』
『ほれ、薬だよ。
『獣』くん、飲んでおくれ。』
『おや、先客の薬があったようだよ。
新薬かな?
…………まあ、こんな気持ち悪い色している薬なんて飲みたがらないようだしこの紅い薬を飲んでくれるといいな。
ね?『かのシスターさんに恋い焦がれている獣神さん』。
そして存分に踊って欲しいよ。』
アンティーク調の装飾が施された綺麗な落ち着いたちずいろ小瓶の中に、琥珀色の薬が机の上に置かれていたよ。
一粒、なくなっているね。
『かの専属』が飲ませたか?
それとも『Codename.作者』の差し金かなぁ?
紫の茨が巻かれているような模様をしている紅いひし形の薬を取り出し魔法で取り出しましたね。
『少女』は高揚したような笑顔で、笑いました。
『その気持ち悪い口調をやめろ。
主に触るな。
それを飲ませるな。
『かの王族に非常にまつわる家系の血を引き継ぐ彼女の一族によってかつて剣の中に封じられた愚かな悪魔』が。』
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