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第4話 ハルタンとご主人様の特訓

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――次の日

俺は計画を実行する為、ご主人様を外に連れ出すことにした。

「きゅう~ きゅ~ 『ご主人様、外に行こう! 散歩に行こう!』」

と声を掛け、口でスカートの端を咥え、外に出るよう促した。

「あら、ハルタン?どうしたの?お外に行きたいの?」

ご主人様は昨日とは違う、明るい笑顔とやさしい口調で俺に聞いてきた。

「きゅう~ 『そうだよ!外へ行こう!』」

「ん~、わかったわ。レイニーも一緒に行くわよね?」

「わかりました。お嬢様。只今準備してまいります。」

こうして、2人と一匹で散歩することになった。



散歩の途中で俺は全力で走りご主人様たちを置き去りにして、目の届かない所までやってきた。

――変体中は人間に見られるのはご法度なのだ。これは掟だからしょうがない!
周りを見渡し誰もいない事を確認する。周りに人間の気配は無い。今だ!



『へ~ん・たい<変体>!』

『トォッ!』

白い煙が立ちこめる。そして、煙が消散しそこに現れたのは……



『じいさん神様、もとい天地創造の神、ネキザ・アニウス』だった!


「さぁ、開演の時間だ!」

これは、いつものルーティーンである。


ここは、イケメンじゃないのか!? と批判されると思うが、じいさん神様の姿の方が警戒心が薄れると思ったからだ! あと、魔法使いらしいからな!

じいさん神様の姿になりご主人様の元へ向かった。ご主人様は急に俺が居なくなったから心配して探している所だった。 

――ご主人様、ごめんなさい。

そして、2人に声を掛けた。

「そこのお嬢さん、少し良いかい?」

「――!? 何者? そこを動くな!」

レイニーがご主人様の前にナイフを持って立ち塞がる。 さすが専属メイド! ご主人様愛がハンパない! そもそも、そのナイフ、どこに隠してた……

「儂は、怪しものではない。そこのお嬢さんの魔力が膨大過ぎて、未来の大賢者になる器の持ち主だと感じたんじゃ」

「えっ!? 私がですか? 私魔法が苦手で…… 魔法が使えないんです!」

そう、ご主人様は答えた。 俺は続けて、

「あぁ、そうじゃな…… それはの~魔力が膨大過ぎてうまく体の中を循環できんからじゃな」

「そんなこと初めて聞きました!」

「うむ、儂がお嬢さんに魔力の循環の仕方を教えてやろう。 ――どうじゃな?」

レイニーは、俺を警戒していたが、ご主人様はとてもうれしそうな顔をして、

「私でも魔法が使えるようになるんですね? 教えて下さい! お願いします!」

俺は、ご主人様のこれまでの絶望的な想いから、これからの希望に満ちた言葉に、涙が出そうになった……


「では、始めるとするかの。じゃ、そこに座りなさい。」

「ハイ!」

先ずは、気を静め、集中させる為に『座禅』の姿勢に座らせて、目を軽く閉じらせた。


――数分が経ち


「へその下に温かい物は感じるかの?」

ご主人様は軽く頷いた。

「他に感じるものはあるかのぉ? 例えば頭にイメージが浮かぶとかじゃ」

「白色、赤色、青色、緑色、黄色、水色、紫色、灰色、茶色、黒色と眩《まばゆ》い光の太い紐が複雑に絡み合っている感じがします」

「それが魔法属性と魔力の元じゃ、集中力が落ちて来ておるぞ。鼻から静かに空気を吸って口から静かに吐き出すんじゃ」

「おぉ、そうじゃ、そのまま絡み合った紐を解いていくのじゃ、難しいかもしれんが、お主には出来るはずじゃ」


――さらに数十分が経ち


ご主人様の絡み合った魔法属性と魔力の元は徐々にではあるが解けていった。そして、魔力は全身に巡り回ろうとしている。

まさか、こんなに早くここまで出来るとは思わなかった。100年に一匹の天才の俺でもここまで来るのに半年はかかったぞ!

――ご主人様の潜在能力の高さに俺は驚愕した……

「もう、全身が温かくなってきておるじゃろ?」

「ハイ、何故か体がポカポカします」

「そうじゃろ、それが魔力の循環じゃ、この修行を毎日続けて行くのだぞ! そうすれば短時間で魔力を循環させ、お主なら無詠唱で魔法を発動出来るはずじゃ」

「ハイ、続けます!」

「うむ、それで良い! 長時間同じ姿勢だったからのぉ、足が痺れれとるはずじゃ、足を崩してよいぞ」

「ハイ!」

ご主人様は、今までの事がスッキリしたかのように明るく元気な声だった……

「お主に見えていたのは魔法属性と魔力の循環させるパイプじゃ、まずは、白は治癒魔法、赤は火炎魔法、青は時空魔法、緑は風魔法、黄色は雷魔法、水色は氷魔法、紫は重力魔法、灰色は爆裂魔法、茶は土魔法、黒色は闇魔法、光は聖魔法じゃ、儂が知る限りのすべての属性魔法をお主は使えるようじゃのう」

「私がですか!? 信じられません!?」

「殆んどの者は1つか2つ、多い者でも4つの属性を持っておるがお主は11属性じゃ、人智の領域を遥かに超えておる。それ故に魔力を循環させるパイプが複雑に絡み合い魔力の流れを止めておったんじゃな。それで、今まで魔法が使えんかったんじゃ! もっと魔力の循環ができようになれば、ちょっと言いにくいが体型も改善され無理な食事制限もしなくてもいいぞ! これは覚えておきなさい。お主は500年いや1000年に一人の大賢者になるであろう!」

「そんな!? 私が1000年に一人の大賢者に!? では、今の私は魔法を使えるようになったんですか? それに、この体も痩せる事が出来るんですか?」

ご主人様は興奮したように質問を繰り返した。

「あぁ~勿論じゃ、魔法も使えるし、体型もほっそりするじゃろうて。ところで、お主の名前は何と申す」

「申し遅れしました。ティーファンド王国、フォンティーヌ公爵家長女エリス・フォンティーヌと申します。」

さすが! ご主人様。優雅で美しく気品に満ちたカーテシーで挨拶をしてくれた。

「では、エリス・フォンティーヌよ! 天地創造の神、ネキザアニウスの名において命ずる! これよりは、世の為、人の為に正しく魔法を使うのじゃ! お主の力は強大である。その力で人々を幸福にも出来るが、間違った使い方をすれば、人々を不幸にもしてしまう。そのことを忘れてはいかんぞ!」

俺は、最後に魔法の正しい使い方を教えたかった。間違った使い方は周りを恐怖に貶め、不幸にする。ご主人様には、悪になって欲しくはない! じいさん神様の名前を出せば一応、歯止めにはなるだろう。

「ハイ!私、エリス・フォンティーヌは、世の為、人の為に正しく魔法を使用する事を誓います!」

俺は、ご主人様の覚悟を聞き安堵した……

「それじゃ、儂の隣に立ってもらえるかのぉ」

「ハイ! 先生! これで良いですか?」

ご主人様は、俺の事を先生と呼んでくれた。たぬき冥利に尽きる。

「あぁ、それでいいぞ! あの木に人差し指を差してごらん」

「こうですか?」

ご主人様は一本だけ立っている木に向けて人差し指を差した。

「良いか?儂に続けて詠唱してみなさい」

「火の神よ 我が願い 聞き届けよ 火炎」

小さな火の玉が気に向けて飛んで行った。木に触れると同時に火の玉は消えた。
かなり威力を押さえた結果だったが、ご主人様はどうだろうか?

「火の神よ 我が願い 聞き届けよ 火炎」

人差し指から巨大すぎる火の玉が木に向けて飛んで行った!

『ズズッズドォォォーン』

巨大な火の玉が木に触れた瞬間、木、その物が消滅し、木があった場所の周り一面は強烈な炎で燃え上がっていた。

――!? なんじゃ!こりゃあぁ! 何が起こったぁぁ! 火炎は火属性でも最弱な攻撃魔法だぞ!

俺は急ぎ水魔法で炎を消した。

ご主人様を見るとご主人様の顔は青く引き攣っていた。 レイニーさんも青くなっていた。ついでに俺も青くなった。



「ゴホォン! ついに魔法が発動できるようになったのぉ…… しかし、しばらくは魔法は禁止じゃ、魔力の制御が出来るようになってから魔法発動の修行をするようにのぉ」

俺は褒めて伸ばすをモットーにしているが、この魔法はダメだ! 危険すぎる!





「うぅわわわわわわーん!」 

ご主人様が突然泣き出した!? ついでにレイニーさんも泣いていた。

「怖かったのぉ、安心しなさい。火はもう消したからの」

ご主人様は顔を横に振り

「は、はじめて、ま、まほうがぁぁぁぁ!」

「おじょうさまぁぁぁぁ! 良かったですねぇぇぇぇ!」

二人はその場に座込み泣きながら抱きしめていた……
生まれて初めて魔法だったのだろう。二人共、どれだけ嬉しかったことか……

ご主人様が泣いている隙をついて俺はその場を離れた。さすがに変体の限界だった。
魔力回復の為、ヤモリ、イモリ、ヘビの干物を持って来て良かった!

たぬきの姿に戻り、ご主人様の元へ戻った。いきなり、抱き着かれ

「ハルタン、聞いてよ! 私、初めて魔法使えたんだよ! これで、みんなに魔法が使えないってバカにされないよぉ!」

苦しい……

「先生! どこに行かれたのですかー! まだ、お礼申し上げていませんのに……」

ご主人様とレイニーさんは俺が変体したじいさん神様を探していたがもう出会うことはなかった。


これ以降、ご主人様は毎日欠かさず魔力循環の練習をしている。気にしていた体型も少しずつだが改善が見られてきた。学校に戻る頃にはある程度、魔力の循環、制御は出来るようになっていたが、魔法発動の練習はしていない。

まだ、魔法が暴発する可能性があるからだ。

何よりも基本が大事なのだ! 基本を馬鹿にしてはいけない。これを疎かにする者は、いつか越えられない壁にぶつかりその壁を超えることは出来ない。基本を大事にする者も壁にぶつかることもあるが、また基本に立ち戻り、その壁を越える事が出来るのだ!
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