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第2章・第3騎士団と魔道師団

28,嫌な予感

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地竜は何者かに倒された。それは、私が感じた嫌な予感な気がする。

まだが、こちらの様子を伺っている気がするのだ。

「おらよ!」
鋭い爪の攻撃。

私は直ぐに避けた。
「今の攻撃を避けるとはな。」

紫色のメッシュが入った黒髪に、碧瞳をした大男がいた。

恐ろしく感じる程、美しくそして恐怖を感じる程の魔力量。

「魔族か。」
アビトさんが呟く。

「いいや、悪の種って言ったら貴様らには伝わるか?」

この場にいる一同は、驚愕の眼差しを大男に向ける。

冗談でも自分の事を悪の種などと、口にする種族はいない。

それは、お伽話にも伝わっていて、幼い頃から身分問わず、教えられるから。

最悪の闇の物語である。大昔から言い伝えられる物語を馬鹿にする者はいない。

「皆さん、下がりましょう。撤退です。」
「そう言うなよ。もっと語ろうぜ。」

恐ろしいまでの言葉の圧に、私は下がるべきだと思い振り向く。

すると、アビトさん達は大男を見たまま固まっていた。

恐怖で体が震えている。まあ、それが普通だろう。

魔力量もそうだが、肌で感じる威圧が凄まじいからね。

私も恐怖で冷や汗が出るが、腰を抜かす程ではない。

正直、恐ろしい。あれは別格の領域だと思う。

私は大男に向く。
「皆さん、走って下さい。」

「レイラ……。」
「走って下さい!」

「皆、撤退だ!」
走り去る足音がする。

「貴様は逃げないのか?」
「何してる!」

「貴方が素直に逃がしてくれるとは、思えませんので。」

「分かってるな。その通りだ。」
にっこりと笑う大男。

すると、私の前にアビトさん達が立つ。
「な、何を……。」

「それは、こっちの台詞何だけど。」
「ああ、逃げるなら全員でだな。」

「ほう、面白い子等だ。そうでないと、戦いを楽しめないからな!」

振り下ろされた爪を、私達は避ける。その時、大男に魔法攻撃が。

シオン団長・グレン団長・ルネス団長達が到着したのだ。

それと、虎の獣人もいる。あの人って、毒でボロボロだった……。

青髪に灰色の瞳をした、髭のあるダンディな美形さん。

確か、隣国のレイフィス獣王国の第1騎士団団長だった筈。

名前は知らない。ティナ団長も参戦して、大男を囲む団長達。

彼等の鋭い攻撃が、大男を追い詰める。あの人達は、可笑しいと思う。

「貴様ら、只者ではないな。人の子らも驚きだが、此奴らが影響しておるのか……。」

ニヤリと笑う大男。
「今日は引くとしよう。」

「待ちなさい!何者かも分からぬ者を、逃すと思いますか。」

「成る程な。では、人の子らにも告げたが、悪の種だ。」

「「「「「!?」」」」」
団長達も驚くよね。

その隙に、大男は姿を消した。何は、ともあれ助かった。

「取り逃しましたか。不覚ですね。皆さん、怪我はありませんか?」

「大丈夫ですか?怪我をしていたら治しますよ。レイラさん。」

「お断りします。」
「しかし、良く動けたな。」

そりゃあ、あの殺気の様な圧は動けなくなりそうだよね。

「シオン団長が怒った時の方が、余程恐ろしいです。」

正直な心の声が漏れていたのだろう。シオン団長が満面の笑みで、肩に手を置く。

目は笑っていない。器用だな。
「冗談です。」

「貴女、冗談を言える様な人でしたか?」
「これから私達は、どうすればいいですか?」

「話を逸らそうとしても、駄目ですよ。後で、報告して貰いますからね。」

「だそうですよ。アビト隊長。」
「貴女にも言っているんですが?」

「はははは、面白いな!気に入ってぞ!レイラ!」

「レイラ殿、先日は助かった。感謝する。」
「いえ、お気になさらず。」

それにしても、獣人の回復力恐るべし。あの傷と毒を2日で完治するなんて……。

やはり、獣の血が流れているからか。いやはや、とても興味深い。

「ちゃんと報告して下さいね?」
「……」

?」
「……はい。」

脅して来たよ。やっぱりさっきの言葉、間違ってないと思うんだよね。

?」
「何でもありません。」

シオン団長って、心を読むスキルでもあるのかな。


まあ、魔物討伐の件は片付いた。皆、一生懸命に戦った事でね。

何故か新人達の8人の間に絆が生まれたが、いい事と割り切ろう。

アトリシア王国に戻ると思いきや、隣国のレイフィスで宴が開かれる事に。

私達の感謝の宴だそうだ。つまり、令嬢達がいない騎士団だけの宴。

つまり、酒などで騒ぐ席になる。絶対に行きたくない。

と言う事で、与えられた2人部屋で本を読んでいる。

ミリヤちゃんも宴に参加していない。
「聞いてる?!」

「うん、気になる人が出来たんですね。」
「でも、振り向いて貰えなくて……。」

私は本を閉じる。お友達として、慰めなくては駄目なのだろう。

だが、生憎私は恋愛経験は豊富ではない。前世の経験?ほっとけ!

となる訳だ。だが、落ち込んでいる人間をほっとく程、非道でもない。

「その方は今日の宴に参加するんですか?」
「しないよ。アトリシア王国にいるから。」

「どんな方なんですか?」
「第2騎士団所属だよ。」

まじか。特徴を聞けば、私でも分かるのではないだろうか?

「突っ走るんだけど可愛くて……その、明るくて元気をくれるんだ。」

全く分からない。関わった事があるなら、新人かな?

一目惚れの場合もあるしな。
「その、イスタ君が好きなの!」

好きな人暴露しちゃったよ。でも、イスタ君をね。

「作戦はあるんですか?」
「ないからレイラに聞いてるの!」

「私ですか?」
首を傾げる私に大きく頷くミリヤちゃん。

「そうよ。作戦考えるのうまそうだし、同じ第2騎士団所属でしょ!」

作戦を考えるのが、得意かは置いておいて、同じ第2騎士団所属なのは頷ける。

「私なら、貴女達を2人きりには出来ますが……。」

「そんな事、出来るの!?誰にも邪魔されない様に!?」

「ええ、ですが協力者は欲しいですね。それに、私はイスタ君の事を詳しく知りませんし。」

「そ、そんな!」
「まあ、それは何とかしましょう。」

「流石はレイラ!」
抱きついて来るミリヤちゃん。

「服装はどうするべきかな!」
「考えるのが早いと思います。」

「それなら、レイラの恋バナは!」
「ないですね。」

「即答!あるでしょ、2人に求婚されてるし、何かあるでしょ!」

「私の様な人を好きになる人は、そういませんよ。」

「レイラ……自分の噂知らないの?」
「興味ないですからね。」

何で、残念な子を見る様な顔をされるのだろう。理解できない。

「レイラって、何に興味があるの?」
「趣味ですか?」

「うん。薬草とか花とかが好きなの?それ共、本とか?」

「薬草や花は知識として取り入れますね。本は好きですよ。」

「レイラの事が知れて、嬉しい!」
そんな時、大きく扉が開かれた。




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