最強の戦士ここにあり

田仲真尋

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激闘ブレイズ御前試合~前編~

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私がブレイズの王都トレス・トライアルに到着したのは、陽が西へ傾きだした頃だった。

夕刻の街は人々で賑わっていた。

最初は、お祭りでも開催されているのかと思ったが、どうやらこれが、この国の日常であるらしい。

街中には物が溢れている。

その豊かさは、アトラスやレガリアの比ではなかった。

「さすがは、大陸一裕福な国だ。」


街を徘徊していると、やたらと張り紙が目についた。

(第六十九回ジャンケン大会、出場者募集。)

(大食い大会グランプリ決定戦。)

(最強腕相撲大会。集えクソ野郎共!)

「この国の人々は、大会好きなのだろうか?」

色々な大会の告知を見ているのも、なかなか楽しいものだった。

そんな中、一枚の張り紙が目に留まった。

(御前試合のお知らせ。我こそはという者は〇月×日にトライアル広場へ集合されたし。尚、今大会では一切の魔法の使用を禁ず。)


「ほう。面白そうだ。」

私は、御前試合に関する情報を集めるため酒場へと足を運んだ。


酒場に入り、酒を注文して待っている間、いつもの地獄耳を発動した。

すると、私の耳に飛び込んできたのは、この御前試合というものが想像以上にビッグなイベントだということだった。

「聞いたか、今度の御前試合に、とんでもない奴が出るらしいぞ。」

「とんでもない奴って誰だ?」

「そらは分からんが、とにかく凄い奴らしい。」

「なんだよ、それ。」

そんな会話が、あちらこちらから聞こえてきた。

「そういえば、国王様が見に来る予定だったんだが、お身体の調子が悪いらしくて欠席するらしいな。」

「本当か?それじゃあ御前試合に、ならないだろ?」

「それが、どうも代理人としてカモミール姫が出席するらしいんだ。」

「そ、そうかカモミール姫か。もしかして婿探しでもするつもりなんじゃないか。」

「ハハハ。あり得るな。」

――地獄耳終了。

「姫……か。」

私は決断した。

「御前試合に出場するぞ!」と。

しかし、どうして男子は「姫」という肩書きに弱いのだろうか?

いや、男子だけではない。

女の子も、お姫様に憧れていることが多い。

なんにしても、魅力的だ。

「……もし見初められたら、どうしよう。」

そんな淡い期待が、私の中に渦巻いていたのであった。



――御前試合当日。

私は早起きして、会場を目指した。

そこで私が目撃したのは、予想以上の人の列であった。

「こんなに多いのか!」

俄然やる気が出てきた。

そして、その列に並んだ。

しばらくすると、受け付けが開始された。

私は、そわそわしながら順番を待った。

「はい、次の方。」

「わ、わたしだ。」

突然、襲いかかってくる緊張感。

「では、そこに名前を書いてください。」

「な、なまえ!?――しまった!」

そう、私は前もって名前を準備するのを忘れてしまっていた。

「ど、どうする……とりあえず何か書かなくては。」

こんな状態の時は、頭が真っ白になり何も浮かんでこないのが人の常である。

私は全身に変な汗を流した。

「どうしました?出場されないのですか?」

係りの急かした言葉に、私の身体は熱くなっていく。

「あ、あつい。まるで砂漠のようだ――!」

不意に思い立った。

「これでどうだ――格好いい名だ。」

「えーと、デザートイーグルさん、ですね。それでは、どうぞ中へ。」

なんとか闘技場の中へ入る許可を得て、一安心である。



――私が去った後の受付場。

「お、おい聞いたか。さっきの奴の名前。」

「聞いた!あいつが、あのデザートイーグルか。」

「俺、棄権する。」

「俺もだ。あんなのと戦う気がしねぇ。」


私は闘技場にて、他の出場者と共に開始の時を待っていた。

面々を見ると、どいつもこいつも強そうだ。

「いい!この雰囲気。腕がなるぞ」

そんな出場者の中に数人、特に気になる者が居た。

まず一人目は、獅子の紋章の入った盾を持つ騎士。

「あの紋章は確か、レガリアで出会ったラッシュ兄弟と同じ物だな。あれは一体――。」

私が、その男に注目していると、

「こりぁ。しょにょけぃきぃは、わしにょもにょらぞ、みゅーんよ。」

「ごめんなさい、師匠。また買ってあげますから、そんなに怒らないでくださいよ。」

「……やつらか。」

トンボ師匠と、その弟子ムーンである。

私は、素知らぬ顔で二人から遠ざかった。


他にも気になる男がいる。

しかめっ面で腕を組んで座っている、無精髭の男。

「あれは――師匠のダンテ・ライオンだ。」

彼は私の、剣の師である。

まるでライオンの様な、モサモサの髭が特徴的だ。

彼は強いが、とにかく気性が荒く口が悪い。

「おいこら!今、俺に当たっただろうが、ああん!謝れ。今すぐ地面に頭を擦りつけて、額から血が出るまで謝れ。」

私はダンテ・ライオンから遠ざかり、白い布を覆面の様に巻き付けた。


そして、もう一人。

気になって気になって、仕方のない者が居る。

長い足に、くびれたウエスト、そしてちょうど良い大きさの胸。

さらにいえば、浅黒い肌に長い赤毛。

セクシーな女戦士である。

「なんと素敵な格好だ。」

彼女の露出度は高く、それはまるで下着姿に近かった。

「動きやすいからだな。うん、たまらん!」

私は彼女を、ひたすら見続けていた。

「なに見てんだ、このエロおやじ!」

私は、さりげなく視線を外した。

「ふう、危ない。ばれたかと思ったが、私はオヤジではない。助かった。」

「おい。なに、すっとぼけてんだ。お前だよお前、顔に白い変なの巻いてる、お前だよ。」

「私のことか!?」

私は怒りに身を任せ、低級魔法を唱えようとした。

「おのれ!こんなピチピチの若者に対して、エロおやじなどと――」

すると、

「止めておきなさい。この大会では魔法は禁止されているのですよ。」と、声がした。

その男は、いつの間にか私の前に立っていた。

獅子の紋章の騎士である。

私は冷静さを取り戻し、一旦落ち着いた。

「お初にお目にかかります。私はグリフォンブルーの騎士、ディルクと申します。」

――グリフォンブルーの騎士だったか。

それでは、あのラッシュ兄弟も同じくグリフォンブルーの騎士なのであろう。

「失礼ですが、貴方のお名前も聞かせて頂けませんか?」

私は、この騎士にだけ名乗らせてしまったことに、恥ずかしさがこみ上げてきた。

しかし、

「偽名でもいいですか?」とは、勿論言えない。

どうする!?

その時、

「皆様、お待たせ致しました。どうぞこちらへ。」と、救いの声。

「始まりましたね。また後ほど、では失礼。」

私は頷いて、ディルクと別れた。


案内されたのは、だだっ広い闘技場であった。

今にも暴れ牛でも出てきそうだ。

集まった参加者は、八十名ほど。

「あれ?私の後ろにも沢山、人が居たのだが、とうしたのだろうか?」と、首を捻る。

「今から皆様に説明致します――申し遅れました。わたくし今大会の一切を任せられております、ベンと申します。」

会場内では、まばらな拍手が起こった。

「では、まず今の人数から八名に絞りこませて頂きます。その八名が御前試合に出場できると、いうことになります。」

会場内は、ざわつき出す。

そして誰かが、

「その八名は、どうやって決めるんだ?まさか、バトルロワイヤルで生き残った奴だけ、なんてことはないよな。」

それに対し、恰幅のいいベンは言った。

「それに近いかもしれません。今から皆様に行ってもらうのは、狩りです。」

狩り?

「まさか、人間を狩れというのか?」と、私は思った。

「これより、獰猛な猛獣を八体放ちます。その猛獣を捕らえた八名が御前試合に出場と、なります。猛獣の生死は問いません。」

「なるほど。早い者勝ち、というわけか。」

参加者全員の目の色が変わった。

「よし、いつでもいいぜ!」と、一人の男が先頭に立ち、声を上げた。

「そうですか――というより、もう始まっているのですがね。」

そう言い残すと、ベンは素早く闘技場から逃げ出した。

「おい!始まっているって――ぐわっ!」

突然、闘技場のあちらこちらからから、叫び声が上がる。

「これは!?」

私は動かずに周囲の状況を把握するため、目に集中力を集めた。

「……見えた!」

高速で移動する猛獣は、「ニンブリィウルフ」で、ある。

奴らの動きは、まさに目にも留まらぬ早さであった。

しかも、それだけじゃない。

ニンブリィウルフは狂暴極まりない動物として、知られている。

面白半分で参加していた者は、リタイアして闘技場の隅のセーフティゾーンへと、退避していた。

私は、うつ伏せで地面に伏せた。

そして息を殺し、その時を待った。

私は狩人だ。

そして、すぐ側の土が跳ねた瞬間、

「ここだ!」と、手を伸ばす。

「とった!」

ニンブリィウルフの前足を掴んだ私は、そのまま奴を仰向けにひっくり返し、頭を押さえつけて噛まれないよう対処した。

そして、脇に頭を挟み込み力を入れて、気を失わせたのであった。

「よし、一番乗りだろう。」

獲物を抱え、私は意気揚々とベンの元へ。

「おめでとうございます。四番目の出場者が決定致しました。」

「なに!四番目だと!?」

私より先にクリアした面子を見てみると、ダンテ・ライオン、トンボの二師匠に加え、グリフォンブルーの騎士ディルクの三者で、あった。

「さすがに私の師だけのことは、ある。しかし、あのディルクという男も、なかなかやるものだ。」と、私は感心した。


その他のクリアしたメンバは、以下の通りである。

トンボ師匠の弟子で、魔王討伐の際、共に戦った槍使いのムーン。

美しくセクシーな、アマゾネスみたいな女戦士、キキ。

どうやら彼女は、弓と短剣の使い手らしい。

見た目が厳つい大男、斧使いのローマン。

そして、最後の一人。

もう、全てが謎に包まれた男……いや、性別不明。

というか、まず人なのかどうかも疑わしい。

頭と目が大きく異常に大きく、顎が弱そうな奴、グレイタイプ。

以上の四名を加えた、計八名が御前試合に出場決定となった。


私たちはベンの案内のもと、大きな会場から、一回り小さな闘技場へと移った。

「さあ、皆さん。今日は国王様不在ではありますが、我がブレイズが誇る、カモミール姫が御覧になっております」

ベンが手を向けた先に姫が、いる。

一同は姫へ、向かい膝まづいた。


「本日は父上が病の為に欠席していますが、このカモミールが皆の武勇を、しかと見届け父上に報告させて頂きます。この場に国王様が居られるものと思って、励みなさい。」


「ははっ!」

私は膝まづいた状態で、チラリと姫を見た。

美しい、真っ赤なドレスが目に入ったが、肝心のお顔は拝見できず。

姫は階段を十段ほど上った場所にある、大きな椅子の前に居た。

その席は、日射しが丁度あたるようで、日避けに侍女が大きな傘のような物を広げている。

それが、姫のお顔を隠していたのであった。

「くそ!お顔を、お見せください、姫。」と、切に願うばかりだ。


開幕の合図である角笛が景気よく、吹き鳴らされると、詰めかけた観客からは大歓声が上がる。

「それでは只今より、御前試合を開始したいと思います。第一試合、デザートイーグル殿、グレイタイプ殿、前へ。」

「いきなり、私の出番か。」

「それでは、長きにわたり血と涙を吸ってきた、この歴史あるバトルステージへ、お上がりください。」

ベンの言った、バトルステージは地面の上に三十センチ程の高さで、綺麗に石が敷き詰められている。

まるで石畳のようである。

「ご説明します。まず最初に、魔法の使用は全面禁止でございます。勝者となるには、相手がバトルステージから落ちた、あるいは自らの意思で下りた場合。それから相手が『降参』と、口にした場合。そして、相手が死んでしまった場合でございます。武器は何でも御自由に、お使いください。それでは――」

ベンは一度、カモミール姫の方を見てから、

「始め!」と、叫んだ。



私の初戦は未知なる生物。

「さあ、この小さいのをどうするか。」

とりあえず、私は笑顔で歩み寄ってみた。

グレイタイプの身長は私の半分程しかない。

その身の丈に合わせて、しゃがんでみた。

バキ!

「いでぇ。」

グレイタイプの先制パンチで、あった。

「おのれ!優しく接してやれば、つけ上がりおって!」

私は、グレイタイプの両脇を抱え、

「でぇぇい!」と、遠くまで投げ飛ばしてやった。

ベンは戸惑いながら、

「え、えっと……勝者、デザートイーグル殿。」

私は、まばらな拍手の中、ステージを下りた。

何となく、後味の悪い試合であった。


「それでは、第二戦目。ダンテ・ライオン殿、キキ殿、どうぞ前へ。」

二人は姫様に一礼して、バトルステージへ上がった。

私の師匠であるダンテ・ライオンは剣の達人である。

だが、この勝負の決着は既に見えていた。

「ふっ。師匠は女性に滅法弱いのだ。」

「では、始めてください。」

ベンの掛け声に、キキは後方へ跳び距離をとった。

そして、弓を構え矢を放った。

それを、ダンテ・ライオンは僅かに動いて、余裕で避ける。

「――降参だ。」

「……え?」と、会場は一つになった。

「降参だ。俺は女とは戦わない主義だ。」

ダンテ・ライオンは、そう言ってステージを下りた。

「師匠よ。戦わないではなく、戦えないの間違いでは?」と、私は一人で笑いを堪えるのに必死だった。

「勝者、キキ殿。」


「ふあぁ。御前試合って、なんかつまらないのね。」という、カモミール姫の、ぼやきが聞こえてきた。

確かに、ここまでは酷いものだ。

しかし次は期待できそうである。

「第三戦目。ローマン殿、ディルク殿、こちらへ。」

二人も姫へ一礼し、ステージへと上がる。

カモミール姫も、この組み合わせには興味を示した。

「今度は期待できそうね。なにせグリフォンブルーの騎士の登場ですものね。」

それは姫だけの意見では、なかった。

会場中の観客が、ざわめいている。

「で、でたぞ。グリフォンブルーだ。」

「まさか、奴らの闘いが見られるなんてな。」

私には分からない事であった。

一見すると、ローマンという巨体の男の方が強そうに見える。

「グリフォンブルーとは、一体どんな国なのだ。」と、私の好奇心を、くすぐった。


「それでは、始め!」

ローマンは、その巨体に合った巨大な斧を振り上げた。

「グリフォンブルーが、なんだっていうんだ!」

一方のディルクも剣を抜き右手に持った。

左手には獅子の紋章の入った盾。

「ゆくぞ!」

ローマンは、その巨体に似つかわしくないスピードで、ディルクに斧を降り下ろした――かの様に見せておいて、空中で軌道を変えて真横から斬りかかった。

「フェイントか!」

ディルクの右から、もの凄い勢いで襲いかかる、斧。

「あんなものを、まともに受けたら剣が折れてしまうぞ!」と、私は身を乗り出した。

しかし、ディルクに焦りはなかった。

そして、それは私が瞬きをした、刹那的瞬間に起こった。

なんと、ディルクの剣と盾を持つ手が入れ替わっていたのだ。

バキン!

鈍い音が会場内に響く。

ディルクは盾でローマンの攻撃を防いでいた。

「おい、今の何だ?」

「さ、さあ。魔法じゃないのか?」

会場中が騒然と、なり始める。

しかし、その疑いを晴らしたのはローマンであった。

「いや違う。今のは単純に持つ手を入れ替えただけだ。早すぎて見えなかったかもしれんが、間違いない。」

ローマンの発言にベンも納得し、

「分かりました。それでは再開!」

「恩に着ます、ローマン殿。」

「いや気にしなくていい。本当のことを言っただけだ。」

その、二人のやりとりを見ていた私は胸を熱くさせた。

「いいな。私も、あんな戦いがしたい。」と。


再開してすぐ、今度はディルクが仕掛けた。

それをローマンも正面から受けてたつ。

優勢なのは、ディルクの方だった。

「くっ!そんな細い体で、なんという斬撃だ。」

「お褒めの言葉、ありがたく頂戴します、ローマン殿。」

そして、ディルクの一撃がローマンの肩を捉えた。

「ぐっ……降参だ。」

ローマンの降参宣言に会場内は一瞬静まり返ったが、その後すぐ大波のように割れんばかりの拍手と歓声が、ディルクを讃えた。

そればかりか、この大会で初めてカモミール姫が立ち上がり、惜しみない拍手を贈っていた。

「いいわ素敵よ。やっぱり闘いはこうでなくちゃね。」

興奮していたカモミール姫は、ついにその姿を我々の前に見せた。

「ぶっ!」と、私は思わず飲んでいた水を吹き出した。

私が目にした姫は、その……なんというか……想像とは違って――ブスだった。

しかも相当な、だ。

「いかんいかん。そんなことを思っては、いかん。人は容姿じゃない、中身だ。きっとカモミール姫は天使の様な性格のはずだ。うん、きっとそうだ。」

「おい!そこのガキ!ディルク殿の前に立つな。見えんだろうが!――ああディルク殿。」

「……」

現実とは、残酷なものである。



後編へ続く。

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