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過酷なブイ砂漠
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私が、このブイ砂漠に突入して、もう何時間が経過しただろうか。
ここは見渡すかぎりの砂、砂、砂である。
最初は砂漠の風紋が綺麗だな、なんて呑気なことを思っていたのだけれど、どこまで行っても終わりが見えてこない砂漠に、私は嫌気が差している真っ最中だ。
それに、この暑さ。
「水分補給は、こまめに。」と、私は低級魔法「ウォーター」を唱える。
この魔法も無限に使える訳ではない。
節約しながら、配分を考えなければならない。
「ああ、暑い……!」
その時、私は閃いた。
「そうだ、あれがあった。」
私はすぐさま、低級魔法「冷暖房完備エアーコンディション」を唱えた。
「快適だ。涼しい。」
私の半径一メートル以内は、とても涼しくなった。
――三分後。
「ハァハァ。だ、だめだ。この魔法は魔力と体力を大きく消費してしまう。」
それに、涼しい所から急に暑い所へ戻された、このギャップ。
きっと誰にも分かるまい。
むしろ、魔法を使う前より暑く感じる。
私は、倒れそうになりながら歩いた。
「くそ!風で砂が舞い上がり、口や鼻や目に入ってくる。」
疲れと苛立ちがピークを迎えようとしていた。
そうこうしている内に、やがて夜が訪れた。
私は、ここで砂漠の恐ろしさを改めて知った。
昼間は、あんなに暑かったのに、夜になると今度は寒さが襲いかかってくる。
「さ、さむい。」
私は火の基礎魔法「ファイア」を唱えた……燃やす物が無い。
「このままでは、死んでしまうぞ。」
その時だった。
タッタッタッ、と砂を踏む音がした。
「なにやつ!」
暗闇の中、動く物体を発見した私は、低級魔法「エルイーディ」を唱え、照らした。
「これは――砂猫だ!かわいい。」
砂漠に生息する砂猫は警戒心が強く、めったに人前には姿を見せない、と誰かに聞いたことがある。
その愛らしい姿に、私の心は少し暖まった。
「おいで、おいで。」
ボコッ!
突然、何かが地面の砂を盛り上げた。
それに驚いた砂猫は逃げてしまった。
「なんだ、これは?」
私は、その盛り上がったままの地面を見つめた。
しかし、その後は何も起きず、そのまま朝を迎えた。
この日も暑かった。
前日。殆んど寝ていない私は、既にフラフラ状態である。
ずっと下を向いたまま歩いていた私は、ふと前方を見た。
「あれは!森だ!あそこなら日射しを避けられる。」
私は興奮して走った。
「あと、少しだ。頑張れ、私。」
「そろそろの筈。もう着く筈……なんでだ!」
その森は一向に近づかない。
それでも必死に森を追う。
「ど、どれだけ遠いんだ!?」
一旦、「ウォーター」で水分を補給し、再び森を目指そうと、顔を上げた。
「なんですと!……森が消えた。」
これは、いわゆる蜃気楼である。
「も、もう駄目だ。」
ついに、私は砂の上に倒れた。
すると、倒れた私の目の前の砂が、突然ボコッと盛り上がった。
「またか。もういい、どうせ何も――」
その瞬間、小さく盛り上がった地面が大きくなった。
それは勢いを増し、徐々に大きくなり、ついには巨大な盛り上がりを見せた。
「ギャア!なんだこれは!?」
盛り上がったのは地面ではなかった。
「これは、砂漠の蚯蚓デザートワームだ。」
私は愛読書の「世界の奇妙な生物図鑑」を取りだし、開いた。
「これだ……肉食……わぁぁ!」
ミミズは襲いかかってきた。
私は走った。
全体力を使って、とにかく走った。
しかし、ミミズは余裕で砂を泳ぐようにして、追いついてきた。
「おのれ!やってやる!」
私は剣を抜き、戦う決心をした。
「どこだ!?」
ミミズは砂に潜り、出てこない。
「諦めたのか――」
その時、いきなり私の足元が盛り上がった。
「ぬおぉぉ!」
気がつくと私は、ミミズの頭の上に立っていた。
「これは高いな。遠くまで、よく見える。」
ミミズは私に気付いていない様子だった。
「おっ!あんな所に町っぽいの発見。」
まだ距離は、ありそうだったが、これでようやく砂漠に終わりがみえた。
あとは、このミミズを野郎を、どうするかである。
「そうだ。こいつに乗っていけば、きっと速いぞ。」
私は低級魔法でお馴染みの「ワイヤー」を唱え、その先端に輪っかを作った。
そして、それを犬の首輪のようにミミズにはめた。
更にそれを馬の手綱のように引き、ワイヤー伝いに「スパーク」を唱え、少量の電気を流した。
「ゆけ!」
ミミズは驚き、砂の中に潜ろうとする。
「なんの!そこには行かせない!」
私はワイヤーを力強く引き、ミミズを潜らせない。
「おっと、そっちじゃない。こっちだ。」と、ワイヤーを巧みに扱い、ミミズを町の方へと誘導した。
「よし、そのままだ。やっぱり速いな。」
私は町の近くまで来た所でミミズを解放してやった。
そして、アトラス領へと入った。
そこは、砂漠の町と呼ばれる「サンドリエル」だ。
この町は砂漠の、すぐ側にあるため観光名所として知られている、アトラス北部に位置する場所である。
「なかなか活気のある町だ。」
私はサンドリエルの町に入り、ひとまず休息を取ろうと考えていた。
「どこか食事できる店はないだろうか。」と、辺りをキョロキョロとしていた。
すると、
「随分、早かったな。」と、声を掛けられた。
振り向いてみると、そこには例の女の姿があった。
「ハーブティーだ。うわぁ!――ん?」
私は、いつものように逃亡を図ろうとした。
だがハーブティーの隣にいる男性に目がとまり立ち止まった。
「やあ、元気そうだね。よかった。」
フォンダンさんだ!
フォンダンさんは、ハーブティーの旦那さんである。
とても優しく、気が利く人だ。
そして、私の師匠でもある。
彼は魔法剣の使い手。
魔法剣は、直接魔法を敵に当てるのではなく、強化系の魔法を剣自体にかけて戦う、特殊な種である。
フォンダンさんの腕前は相当なものだ。
だが、妻には頭が上がらない。
つまり、尻に敷かれるタイプである。
昔、フォンダンさんと私は、二人してハーブティーを怒らせて、よく家の外で立たされたものだ。
「まったく、砂漠を越えてくるとは。お前は馬鹿なのか!」と、ハーブティー。
「砂漠を越えるなんて、よく考えたよ。天才だよ。」と、フォンダンさん。
私はフォンダンさんに、すり寄った。
「今回は、お前に同行する。いいな。」
ハーブティーの突然の発言に、私は声なき反対を叫んだ。
「絶対に嫌だ」と、不満気な顔をしていると、
「心配するな。お前に同行するのは、私じゃない。フォンダンだ。」
「やった!フォンダンさんなら大歓迎だ。」
「よろしく。」
私は満面の笑みを浮かべ頷いた。
「一応説明しておこう。まずクレアだが、あいつは現在アトラス西部の小国マディルにいる。クレアは自身の意思で、そこにいる訳ではない。拐われた――と、いうより操られている、と言ったほうがいいだろう」
「操られている?一体どういうことだろうか。」
私は自分の知識を絞りだし、その類いの話しを探ってみた。
その結果、いくつか過去の例に思いあたるものは、あったものの答えを出すには、まだ早いと感じた。
「まだ情報不足な部分が大きい。というより殆んど分からないという方が正しいだろう。そこで、お前たちが直接クレアに会って、確かめてくるのだ。私はクレアが、やってしまった事の後始末をしなきゃならんからな。」
「ん?なんのことだ。」と、思ったが追求はしなかった。
「さあ。じゃあまず、どこかで美味しいものでも食べて行くとしようか。」
フォンダンさんの素敵な提案に私は、子犬の様に尻尾を振って頷いた。
「おい!」
ギクッ!
「今すぐ行きなさい!ご飯なら、これを持っていけ。」
そう言ってハーブティーは包み袋をフォンダンさんに渡した。
「これは?」
「弁当だ。朝早くから作ったんだ。」
「うわ、愛妻弁当だ。ありがとう。」と、フォンダンさんが礼を言うと、ハーブティーは照れている様子だった。
「ハーブティーの手作り弁当……考えただけでもう、お腹一杯になった気がする。」と、私は胃腸の調子が優れなくなった。
「じゃあ行ってくるよ。」
「気を付けてな。」
「この二人の性格が逆なら、それなりに良い夫婦に見えるのだが」と、私は心から、そう思った。
私とフォンダンさんは、マディルを目指し出発した。
それは、遠足にでも行くような軽い気持ちであった。
だが、このあと起こる事は、そんな生半可なものではなかった。
私たちの頭上には禿げ鷲が数羽、旋回していた。
それは、まるで私たちに不吉を運んできたかの様であった。
ここは見渡すかぎりの砂、砂、砂である。
最初は砂漠の風紋が綺麗だな、なんて呑気なことを思っていたのだけれど、どこまで行っても終わりが見えてこない砂漠に、私は嫌気が差している真っ最中だ。
それに、この暑さ。
「水分補給は、こまめに。」と、私は低級魔法「ウォーター」を唱える。
この魔法も無限に使える訳ではない。
節約しながら、配分を考えなければならない。
「ああ、暑い……!」
その時、私は閃いた。
「そうだ、あれがあった。」
私はすぐさま、低級魔法「冷暖房完備エアーコンディション」を唱えた。
「快適だ。涼しい。」
私の半径一メートル以内は、とても涼しくなった。
――三分後。
「ハァハァ。だ、だめだ。この魔法は魔力と体力を大きく消費してしまう。」
それに、涼しい所から急に暑い所へ戻された、このギャップ。
きっと誰にも分かるまい。
むしろ、魔法を使う前より暑く感じる。
私は、倒れそうになりながら歩いた。
「くそ!風で砂が舞い上がり、口や鼻や目に入ってくる。」
疲れと苛立ちがピークを迎えようとしていた。
そうこうしている内に、やがて夜が訪れた。
私は、ここで砂漠の恐ろしさを改めて知った。
昼間は、あんなに暑かったのに、夜になると今度は寒さが襲いかかってくる。
「さ、さむい。」
私は火の基礎魔法「ファイア」を唱えた……燃やす物が無い。
「このままでは、死んでしまうぞ。」
その時だった。
タッタッタッ、と砂を踏む音がした。
「なにやつ!」
暗闇の中、動く物体を発見した私は、低級魔法「エルイーディ」を唱え、照らした。
「これは――砂猫だ!かわいい。」
砂漠に生息する砂猫は警戒心が強く、めったに人前には姿を見せない、と誰かに聞いたことがある。
その愛らしい姿に、私の心は少し暖まった。
「おいで、おいで。」
ボコッ!
突然、何かが地面の砂を盛り上げた。
それに驚いた砂猫は逃げてしまった。
「なんだ、これは?」
私は、その盛り上がったままの地面を見つめた。
しかし、その後は何も起きず、そのまま朝を迎えた。
この日も暑かった。
前日。殆んど寝ていない私は、既にフラフラ状態である。
ずっと下を向いたまま歩いていた私は、ふと前方を見た。
「あれは!森だ!あそこなら日射しを避けられる。」
私は興奮して走った。
「あと、少しだ。頑張れ、私。」
「そろそろの筈。もう着く筈……なんでだ!」
その森は一向に近づかない。
それでも必死に森を追う。
「ど、どれだけ遠いんだ!?」
一旦、「ウォーター」で水分を補給し、再び森を目指そうと、顔を上げた。
「なんですと!……森が消えた。」
これは、いわゆる蜃気楼である。
「も、もう駄目だ。」
ついに、私は砂の上に倒れた。
すると、倒れた私の目の前の砂が、突然ボコッと盛り上がった。
「またか。もういい、どうせ何も――」
その瞬間、小さく盛り上がった地面が大きくなった。
それは勢いを増し、徐々に大きくなり、ついには巨大な盛り上がりを見せた。
「ギャア!なんだこれは!?」
盛り上がったのは地面ではなかった。
「これは、砂漠の蚯蚓デザートワームだ。」
私は愛読書の「世界の奇妙な生物図鑑」を取りだし、開いた。
「これだ……肉食……わぁぁ!」
ミミズは襲いかかってきた。
私は走った。
全体力を使って、とにかく走った。
しかし、ミミズは余裕で砂を泳ぐようにして、追いついてきた。
「おのれ!やってやる!」
私は剣を抜き、戦う決心をした。
「どこだ!?」
ミミズは砂に潜り、出てこない。
「諦めたのか――」
その時、いきなり私の足元が盛り上がった。
「ぬおぉぉ!」
気がつくと私は、ミミズの頭の上に立っていた。
「これは高いな。遠くまで、よく見える。」
ミミズは私に気付いていない様子だった。
「おっ!あんな所に町っぽいの発見。」
まだ距離は、ありそうだったが、これでようやく砂漠に終わりがみえた。
あとは、このミミズを野郎を、どうするかである。
「そうだ。こいつに乗っていけば、きっと速いぞ。」
私は低級魔法でお馴染みの「ワイヤー」を唱え、その先端に輪っかを作った。
そして、それを犬の首輪のようにミミズにはめた。
更にそれを馬の手綱のように引き、ワイヤー伝いに「スパーク」を唱え、少量の電気を流した。
「ゆけ!」
ミミズは驚き、砂の中に潜ろうとする。
「なんの!そこには行かせない!」
私はワイヤーを力強く引き、ミミズを潜らせない。
「おっと、そっちじゃない。こっちだ。」と、ワイヤーを巧みに扱い、ミミズを町の方へと誘導した。
「よし、そのままだ。やっぱり速いな。」
私は町の近くまで来た所でミミズを解放してやった。
そして、アトラス領へと入った。
そこは、砂漠の町と呼ばれる「サンドリエル」だ。
この町は砂漠の、すぐ側にあるため観光名所として知られている、アトラス北部に位置する場所である。
「なかなか活気のある町だ。」
私はサンドリエルの町に入り、ひとまず休息を取ろうと考えていた。
「どこか食事できる店はないだろうか。」と、辺りをキョロキョロとしていた。
すると、
「随分、早かったな。」と、声を掛けられた。
振り向いてみると、そこには例の女の姿があった。
「ハーブティーだ。うわぁ!――ん?」
私は、いつものように逃亡を図ろうとした。
だがハーブティーの隣にいる男性に目がとまり立ち止まった。
「やあ、元気そうだね。よかった。」
フォンダンさんだ!
フォンダンさんは、ハーブティーの旦那さんである。
とても優しく、気が利く人だ。
そして、私の師匠でもある。
彼は魔法剣の使い手。
魔法剣は、直接魔法を敵に当てるのではなく、強化系の魔法を剣自体にかけて戦う、特殊な種である。
フォンダンさんの腕前は相当なものだ。
だが、妻には頭が上がらない。
つまり、尻に敷かれるタイプである。
昔、フォンダンさんと私は、二人してハーブティーを怒らせて、よく家の外で立たされたものだ。
「まったく、砂漠を越えてくるとは。お前は馬鹿なのか!」と、ハーブティー。
「砂漠を越えるなんて、よく考えたよ。天才だよ。」と、フォンダンさん。
私はフォンダンさんに、すり寄った。
「今回は、お前に同行する。いいな。」
ハーブティーの突然の発言に、私は声なき反対を叫んだ。
「絶対に嫌だ」と、不満気な顔をしていると、
「心配するな。お前に同行するのは、私じゃない。フォンダンだ。」
「やった!フォンダンさんなら大歓迎だ。」
「よろしく。」
私は満面の笑みを浮かべ頷いた。
「一応説明しておこう。まずクレアだが、あいつは現在アトラス西部の小国マディルにいる。クレアは自身の意思で、そこにいる訳ではない。拐われた――と、いうより操られている、と言ったほうがいいだろう」
「操られている?一体どういうことだろうか。」
私は自分の知識を絞りだし、その類いの話しを探ってみた。
その結果、いくつか過去の例に思いあたるものは、あったものの答えを出すには、まだ早いと感じた。
「まだ情報不足な部分が大きい。というより殆んど分からないという方が正しいだろう。そこで、お前たちが直接クレアに会って、確かめてくるのだ。私はクレアが、やってしまった事の後始末をしなきゃならんからな。」
「ん?なんのことだ。」と、思ったが追求はしなかった。
「さあ。じゃあまず、どこかで美味しいものでも食べて行くとしようか。」
フォンダンさんの素敵な提案に私は、子犬の様に尻尾を振って頷いた。
「おい!」
ギクッ!
「今すぐ行きなさい!ご飯なら、これを持っていけ。」
そう言ってハーブティーは包み袋をフォンダンさんに渡した。
「これは?」
「弁当だ。朝早くから作ったんだ。」
「うわ、愛妻弁当だ。ありがとう。」と、フォンダンさんが礼を言うと、ハーブティーは照れている様子だった。
「ハーブティーの手作り弁当……考えただけでもう、お腹一杯になった気がする。」と、私は胃腸の調子が優れなくなった。
「じゃあ行ってくるよ。」
「気を付けてな。」
「この二人の性格が逆なら、それなりに良い夫婦に見えるのだが」と、私は心から、そう思った。
私とフォンダンさんは、マディルを目指し出発した。
それは、遠足にでも行くような軽い気持ちであった。
だが、このあと起こる事は、そんな生半可なものではなかった。
私たちの頭上には禿げ鷲が数羽、旋回していた。
それは、まるで私たちに不吉を運んできたかの様であった。
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