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ギアン大陸への帰還
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私は遂にギアン大陸、レガリア国の港町ウールスへと降り立った。
「さあ、魔王退治の英雄の、お帰りだ。盛大に祝ってくれ。」
「……。」
「どうした!レガリアの民よ!私が戻ってきたのだぞ!」
「……。」
「くそう!どうしたのだ。まさか、サプライズパーティーでも企画しているとでもいうのか!?」
私は仕方なく、街を歩いてみた。
「お、おかしい。」
街のどこからも英雄の話題が聞こえてこない。
それどころか、魔王の「ま」の字すら出てこない。
「そうだ、酒場だ!こんな時は酒の席にかぎる。」
私は急ぎ、酒場へと向かった。
酒場は多くの人で賑わっていた。
「昨日、嫁と喧嘩してさあ。」
「くそ!あの上司の奴め、いつかぶん殴ってやる。」
「ああ、彼女欲しいな。」
聞こえてくるのは他愛もない話題ばかりだ。
「最後のコメントには同感である――いや、そうじゃない。いったい魔王や英雄の話しは何処に?」
私は焦りを感じながら、酒を飲み続けた。
すると、どこかの席から、
「やっぱり平和っていいよな。」
「ああ。魔王殺しのクッキー殿には、感謝だな。」
ブーッ!
何ですと!?
私は思わず、酒を吹き出した。
「なんということだ。私が最も恐れていた事態が……おのれクッキー!手柄を横取り、しおった!」
私は今すぐにでもクッキーに低級魔法を浴びせたかったが、もう少し我慢して情報収集に努めた。
「しかし、ここ最近は慌ただしかったな。」
「本当だよ。魔王が出て、クッキー様が討伐してローズ・ガーデンの城主に就任したかと思えば、今度は我が国の王、クレア様が行方不明ときたもんだ。」
「なんかもう、多少のことじゃあ動じなくなったよな。」
「それは俺達だけしゃなくて皆、そうだろうよ。ハハハ。」
情報収集完了!
「クレアめ、さては逃げたな。あの女には放浪癖でもあるのだろうか。まあクレアの事はいい。問題はクッキーだ。そもそもローズ・ガーデンには城など存在しない。考えられるのは、現在建設中ということ。まだ間に合う!」
私は酒場を飛び出て、クレイヴ国のローズ・ガーデンへと向かった。
酒場を出て、ほんの少し歩いた時だった。
「お久しぶり。覚えていますか。」
私の行く手を阻むようにして、一人の男が立っていた。
私は咄嗟に身構えた。
あの時とは、装いが多少異なるが、特徴的な黒くて高いシルクハットは、あの時のまま。
この男は、あのキュクロプスを殺めた――サフィアだ。
「嫌だな。前にも言ったでしょう――」
そう言ってサフィアは以前と同じく、何の初動作もなく私との間合いを一瞬で詰め、私の剣に手を掛けようとした。
私は直感で、スーッと一歩引きサフィアの手をすり抜けた。
「へー。俺の浮き足フロートフットから逃れるなんて、すごい進歩だ。」
私は素早く剣を抜き、奴と対峙した。
「だから、俺は戦う気なんてないよ。今日は、ちょっとあんたと話しが……とは、言っても――」
その時だった。
「待て待て!」
サフィアの言葉を遮るように聞こえた大きな声に、私は振り返った。
すると、そこには二人の男が立っていた。
二人は、どこからどう見ても、どこかの国の騎士のような出で立ちであった。
男たちが手にしている盾には、獅子の紋章。
「レガリアやクレイヴの騎士では、ないな。」
私はサフィアと騎士の間に挟まれ、
「なんか、面倒なことに巻き込まれたのでは、ないのか?」と、不安になってきた。
「ラッシュ兄弟か。面倒なのが出てきたものだ。」
「いや、お前もだ!」と、私はサフィアに突っ込みたくなる。
「そこの剣士殿。この男は極悪人でございますぞ。」
「そうだ。地も涙もない重罪人だ!」
とりあえず、この二人の騎士は私の敵ではなさそうだ。
「ここは、我らにお任せあれ。」
「剣士殿は、お逃げなさい。」
私は願ったり叶ったりと、お言葉に甘えた。
去り際に二人の騎士に一礼し、私は離脱した。
「よかった。あんな訳の分からん連中とは、関わらないにこしたことは、なし!」
私は急ぎ、ローズ・ガーデンへと駆け出したのであった。
レガリアを出てクレイヴ国、領のローズ・ガーデンへと到着した私は、驚くべき光景を目の当たりにした。
「な、なんじゃこりゃあ!」
それは私の知っている以前のローズ・ガーデンとは、大きく様変わりしていた。
街中に咲き誇る、薔薇は以前より随分と増えている。
――もはや薔薇園だ。
そして、街の中心部辺りには大きな建物が、只今建設中であった。
「あれが噂のローズキャッスルか。」
その噂は、隣国レガリアまで及んでいた。
「まだ建設中ではあるが、あの城の完成予想図を思い描いてみても……メルヘンチック過ぎるだろ!」
これでは、お伽噺に出てくる夢のお城である。
私は建設現場へと足を向けた。
すると、そこに設計図を片手に、なにやら作業者に指示を出す男がいた。
「違う!ここは、もっとこんな感じで。そこ!この辺は薔薇をモチーフにして美しく!」
――クッキーである。
私は奴に近づき肩を叩いた。
「今、忙しいから後にしてくれ。」
私は振り向きもしないクッキーの背後から低級魔法を唱えそうになった。
しかし、なんとか堪え、もう一度肩を叩く。
「もう!いったい何の用だ……やあ。」
「『やあ』じゃねえ!」
今度こそ、私は低級魔法を唱え始めた。
「ち、ちょっと待って!とりあえず、話し合おう。僕たち仲間じゃないか、ねっ。」
私はクッキーの安っぽい言葉に仕方なく応じた。
それから二人はクッキープロデュースだという、お洒落なカフェで午後のひとときを優雅に過ごした。
「まず、順を追って話すよ。」と、クッキーは紅茶を一口飲んで言った。
「聞かせてもらおうじゃねーか。ああん!」と、私の心は荒んでいた。
「あの時、僕が目覚めたら君は、もう居なかった。ちょうどそこにクレイヴの軍が、やって来たんだ。そして、どういう訳か僕が魔王バロールを倒したと、彼らは勘違いしちゃったんだ。」
「『しちゃったんだ』じゃねえぞ。この野郎!」と、私の心は更に荒んでいく。
「それで、今後の事も考えて、このローズ・ガーデンに防衛の拠点が必要不可欠だ、ってことになった。そこで、この僕に白羽の矢が立ったという訳なんだ。僕が英雄扱いされちゃって、ごめんね。」
「『ごめんね』だと!この下衆めが!英雄は私だ、私なのだ!」と、私の心は最早爆発寸前だ。
「と、ところで話しは変わるけど、クレアの事はもう聞いたかい?」
クレアが、どこかへ消えたという話しは耳に入っている。
だが、あの気紛れ女が、どうしようと私には関係のないこと。
それよりも今は目の前のペテン師を、どうするかである。
「僕は気になって、師匠にクレアの足取りを追ってもらったんだ。」
「ぬっ!ハーブティーか……嫌な名だ。」と、心底思った。
「師匠の話しによると、クレアはアトラスに入ったみたいなんだ。」
「クレアがアトラスへ行ったから、どうだというのだ。」と、内心思いながら、私は手を上げ、店員を呼びスイーツを注文した。
「師匠からの報告には続きがあって、どうやらクレアは自分の意思でアトラスへ行ったのではなく、拐われた可能性が高いと、いうことなんだ。」
拐われた!?
そうなると随分、話しが変わってくる。
真実なのだろうか?
なんせ、あのハーブティーからの情報だからな――間違いないのだろう。
ハーブティーの情報収集の能力が恐ろしく高いことを、私は知っていた。
「だから、是非とも君にアトラスへ行って欲しいんだ。」
「なにゆえ!?」そう思いながら、私は注文したスイーツが何時くるのか落ち着きなく、辺りをキョロキョロした。
「僕は、この街の……復興に尽力しなくては、いけないから一緒には行けないけど。」
復興って言いやがった!
この街は先の戦いでは、殆んど損傷していない。
それなのに「復興」って言いやがった。
「僕も行きたいのは山々なんだけど。君に任せるよ。僕は君とクレアの無事を毎日祈っている。」
「この野郎!いい加減にしろ!」と、私はクッキーの、一方的言い分と注文したスイーツの遅さに、我慢できず低級魔法を唱え始めた。
「お待たせ致しました。クリームブリュレでございます。」
私は魔法提唱を取り止め、元気よく手を上げた。
「ごゆっくりどうぞ。」
店員の、お姉さんが去った後、クッキーは言った。
「頼んだよ。クレアを無事にレガリアへ連れ帰って。僕たち――仲間なんだから。」
都合が良い男である。
だが、真実でもある。
気紛れ女の救出をイカサマ野郎から頼まれ、断れなかった。
こうして、私は渋々アトラスへ向かうことになったのである。
クレイヴからアトラスへ行くのには通常、一旦南に下りレガリアへ入る。
そこから西に向かうのが、この国の人々にとって常識である。
レガリアからアトラスへの道は整備され、道中には村や町が点在している。
そのため、安心して旅ができるのだ。
だが、最短のルートとなると話しは別だ。
一番近いルートはクレイヴから南下せずに、そのまま西へ突っ切っていくのが最も早い。
しかし、そこには広大なブイ砂漠が待ち受ける。
わざわざ、そんな過酷な道を選択する者は殆んどいない。
私だって、安全安心な道を利用したいのは山々なのだが、
「レガリアには、あの訳の分からん連中が居るからな。」と、迷っている。
悩んだ末、これまで一度も砂漠というものを体験したことのない私は、好奇心も相まって、クレイヴから西へ向かうことをチョイスした。
旅の準備をクッキーから、巻き上げた資金で済ませ、私はアトラスへ向け旅立った。
ローズ・ガーデンより西へ向かい、およそ一日。
私は遂に、人々が立ち入るのを拒否したくなる、ブイ砂漠へと足を踏み入れたのであった。
「さあ、魔王退治の英雄の、お帰りだ。盛大に祝ってくれ。」
「……。」
「どうした!レガリアの民よ!私が戻ってきたのだぞ!」
「……。」
「くそう!どうしたのだ。まさか、サプライズパーティーでも企画しているとでもいうのか!?」
私は仕方なく、街を歩いてみた。
「お、おかしい。」
街のどこからも英雄の話題が聞こえてこない。
それどころか、魔王の「ま」の字すら出てこない。
「そうだ、酒場だ!こんな時は酒の席にかぎる。」
私は急ぎ、酒場へと向かった。
酒場は多くの人で賑わっていた。
「昨日、嫁と喧嘩してさあ。」
「くそ!あの上司の奴め、いつかぶん殴ってやる。」
「ああ、彼女欲しいな。」
聞こえてくるのは他愛もない話題ばかりだ。
「最後のコメントには同感である――いや、そうじゃない。いったい魔王や英雄の話しは何処に?」
私は焦りを感じながら、酒を飲み続けた。
すると、どこかの席から、
「やっぱり平和っていいよな。」
「ああ。魔王殺しのクッキー殿には、感謝だな。」
ブーッ!
何ですと!?
私は思わず、酒を吹き出した。
「なんということだ。私が最も恐れていた事態が……おのれクッキー!手柄を横取り、しおった!」
私は今すぐにでもクッキーに低級魔法を浴びせたかったが、もう少し我慢して情報収集に努めた。
「しかし、ここ最近は慌ただしかったな。」
「本当だよ。魔王が出て、クッキー様が討伐してローズ・ガーデンの城主に就任したかと思えば、今度は我が国の王、クレア様が行方不明ときたもんだ。」
「なんかもう、多少のことじゃあ動じなくなったよな。」
「それは俺達だけしゃなくて皆、そうだろうよ。ハハハ。」
情報収集完了!
「クレアめ、さては逃げたな。あの女には放浪癖でもあるのだろうか。まあクレアの事はいい。問題はクッキーだ。そもそもローズ・ガーデンには城など存在しない。考えられるのは、現在建設中ということ。まだ間に合う!」
私は酒場を飛び出て、クレイヴ国のローズ・ガーデンへと向かった。
酒場を出て、ほんの少し歩いた時だった。
「お久しぶり。覚えていますか。」
私の行く手を阻むようにして、一人の男が立っていた。
私は咄嗟に身構えた。
あの時とは、装いが多少異なるが、特徴的な黒くて高いシルクハットは、あの時のまま。
この男は、あのキュクロプスを殺めた――サフィアだ。
「嫌だな。前にも言ったでしょう――」
そう言ってサフィアは以前と同じく、何の初動作もなく私との間合いを一瞬で詰め、私の剣に手を掛けようとした。
私は直感で、スーッと一歩引きサフィアの手をすり抜けた。
「へー。俺の浮き足フロートフットから逃れるなんて、すごい進歩だ。」
私は素早く剣を抜き、奴と対峙した。
「だから、俺は戦う気なんてないよ。今日は、ちょっとあんたと話しが……とは、言っても――」
その時だった。
「待て待て!」
サフィアの言葉を遮るように聞こえた大きな声に、私は振り返った。
すると、そこには二人の男が立っていた。
二人は、どこからどう見ても、どこかの国の騎士のような出で立ちであった。
男たちが手にしている盾には、獅子の紋章。
「レガリアやクレイヴの騎士では、ないな。」
私はサフィアと騎士の間に挟まれ、
「なんか、面倒なことに巻き込まれたのでは、ないのか?」と、不安になってきた。
「ラッシュ兄弟か。面倒なのが出てきたものだ。」
「いや、お前もだ!」と、私はサフィアに突っ込みたくなる。
「そこの剣士殿。この男は極悪人でございますぞ。」
「そうだ。地も涙もない重罪人だ!」
とりあえず、この二人の騎士は私の敵ではなさそうだ。
「ここは、我らにお任せあれ。」
「剣士殿は、お逃げなさい。」
私は願ったり叶ったりと、お言葉に甘えた。
去り際に二人の騎士に一礼し、私は離脱した。
「よかった。あんな訳の分からん連中とは、関わらないにこしたことは、なし!」
私は急ぎ、ローズ・ガーデンへと駆け出したのであった。
レガリアを出てクレイヴ国、領のローズ・ガーデンへと到着した私は、驚くべき光景を目の当たりにした。
「な、なんじゃこりゃあ!」
それは私の知っている以前のローズ・ガーデンとは、大きく様変わりしていた。
街中に咲き誇る、薔薇は以前より随分と増えている。
――もはや薔薇園だ。
そして、街の中心部辺りには大きな建物が、只今建設中であった。
「あれが噂のローズキャッスルか。」
その噂は、隣国レガリアまで及んでいた。
「まだ建設中ではあるが、あの城の完成予想図を思い描いてみても……メルヘンチック過ぎるだろ!」
これでは、お伽噺に出てくる夢のお城である。
私は建設現場へと足を向けた。
すると、そこに設計図を片手に、なにやら作業者に指示を出す男がいた。
「違う!ここは、もっとこんな感じで。そこ!この辺は薔薇をモチーフにして美しく!」
――クッキーである。
私は奴に近づき肩を叩いた。
「今、忙しいから後にしてくれ。」
私は振り向きもしないクッキーの背後から低級魔法を唱えそうになった。
しかし、なんとか堪え、もう一度肩を叩く。
「もう!いったい何の用だ……やあ。」
「『やあ』じゃねえ!」
今度こそ、私は低級魔法を唱え始めた。
「ち、ちょっと待って!とりあえず、話し合おう。僕たち仲間じゃないか、ねっ。」
私はクッキーの安っぽい言葉に仕方なく応じた。
それから二人はクッキープロデュースだという、お洒落なカフェで午後のひとときを優雅に過ごした。
「まず、順を追って話すよ。」と、クッキーは紅茶を一口飲んで言った。
「聞かせてもらおうじゃねーか。ああん!」と、私の心は荒んでいた。
「あの時、僕が目覚めたら君は、もう居なかった。ちょうどそこにクレイヴの軍が、やって来たんだ。そして、どういう訳か僕が魔王バロールを倒したと、彼らは勘違いしちゃったんだ。」
「『しちゃったんだ』じゃねえぞ。この野郎!」と、私の心は更に荒んでいく。
「それで、今後の事も考えて、このローズ・ガーデンに防衛の拠点が必要不可欠だ、ってことになった。そこで、この僕に白羽の矢が立ったという訳なんだ。僕が英雄扱いされちゃって、ごめんね。」
「『ごめんね』だと!この下衆めが!英雄は私だ、私なのだ!」と、私の心は最早爆発寸前だ。
「と、ところで話しは変わるけど、クレアの事はもう聞いたかい?」
クレアが、どこかへ消えたという話しは耳に入っている。
だが、あの気紛れ女が、どうしようと私には関係のないこと。
それよりも今は目の前のペテン師を、どうするかである。
「僕は気になって、師匠にクレアの足取りを追ってもらったんだ。」
「ぬっ!ハーブティーか……嫌な名だ。」と、心底思った。
「師匠の話しによると、クレアはアトラスに入ったみたいなんだ。」
「クレアがアトラスへ行ったから、どうだというのだ。」と、内心思いながら、私は手を上げ、店員を呼びスイーツを注文した。
「師匠からの報告には続きがあって、どうやらクレアは自分の意思でアトラスへ行ったのではなく、拐われた可能性が高いと、いうことなんだ。」
拐われた!?
そうなると随分、話しが変わってくる。
真実なのだろうか?
なんせ、あのハーブティーからの情報だからな――間違いないのだろう。
ハーブティーの情報収集の能力が恐ろしく高いことを、私は知っていた。
「だから、是非とも君にアトラスへ行って欲しいんだ。」
「なにゆえ!?」そう思いながら、私は注文したスイーツが何時くるのか落ち着きなく、辺りをキョロキョロした。
「僕は、この街の……復興に尽力しなくては、いけないから一緒には行けないけど。」
復興って言いやがった!
この街は先の戦いでは、殆んど損傷していない。
それなのに「復興」って言いやがった。
「僕も行きたいのは山々なんだけど。君に任せるよ。僕は君とクレアの無事を毎日祈っている。」
「この野郎!いい加減にしろ!」と、私はクッキーの、一方的言い分と注文したスイーツの遅さに、我慢できず低級魔法を唱え始めた。
「お待たせ致しました。クリームブリュレでございます。」
私は魔法提唱を取り止め、元気よく手を上げた。
「ごゆっくりどうぞ。」
店員の、お姉さんが去った後、クッキーは言った。
「頼んだよ。クレアを無事にレガリアへ連れ帰って。僕たち――仲間なんだから。」
都合が良い男である。
だが、真実でもある。
気紛れ女の救出をイカサマ野郎から頼まれ、断れなかった。
こうして、私は渋々アトラスへ向かうことになったのである。
クレイヴからアトラスへ行くのには通常、一旦南に下りレガリアへ入る。
そこから西に向かうのが、この国の人々にとって常識である。
レガリアからアトラスへの道は整備され、道中には村や町が点在している。
そのため、安心して旅ができるのだ。
だが、最短のルートとなると話しは別だ。
一番近いルートはクレイヴから南下せずに、そのまま西へ突っ切っていくのが最も早い。
しかし、そこには広大なブイ砂漠が待ち受ける。
わざわざ、そんな過酷な道を選択する者は殆んどいない。
私だって、安全安心な道を利用したいのは山々なのだが、
「レガリアには、あの訳の分からん連中が居るからな。」と、迷っている。
悩んだ末、これまで一度も砂漠というものを体験したことのない私は、好奇心も相まって、クレイヴから西へ向かうことをチョイスした。
旅の準備をクッキーから、巻き上げた資金で済ませ、私はアトラスへ向け旅立った。
ローズ・ガーデンより西へ向かい、およそ一日。
私は遂に、人々が立ち入るのを拒否したくなる、ブイ砂漠へと足を踏み入れたのであった。
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