最強の戦士ここにあり

田仲真尋

文字の大きさ
上 下
17 / 67

人斬り紅龍

しおりを挟む
私は、港町「水辺」に戻っていた。

なんとか帰りの便が、ないものかと当たってみたが上手くはいかなかった。

「どうしたものか……」

私は途方に暮れていた。

そんな私の耳に、ふいに町民たちの噂話しが飛び込んできた。

「人斬りが、また出たってよ。」

「そうらしいな?まったく、ここも物騒になっちまったな。」

人斬り?

そんなものが出るのか。

「同じ剣士として許せん!」と、強くそう思った。



私は、ひとまず漁師のヨハチの手伝いをしながら、帰りの船を探した。

彼には色々と世話になっている。

食事から寝床までだ。

どこまでも親切なヨハチも、人斬りには頭を悩ませていた。

「まったく、紅龍組の連中は、どうにかならんもんかね。おちおち酒も飲みに行けねぇや。」

彼には無人島で救ってもらった恩義がある。

「どれ、私が紅龍組とやらを退治してやるか。」


その夜、人斬りが出没するという神社へと単身出向いた。

目的地に到着すると、なにやら激しい金属音が聞こえた。

「この音は!誰かが戦っているのか!?」

急いで、その場へ駆けつけると既に戦いは終わっている模様だった。

そこには一人の男が立ち尽くしていた。

この国の、鎧らしきものを纏った、男の姿は私にとっては異形の姿であった。

私は、恐る恐る男に近寄った。

「敵か味方か――」

その男は、こちらに気付き、有無をいわさず斬りつけてきた。

「おのれ!人斬りめ!」と、私も剣を抜き、応戦した。

剣を交えて感じた。

「この男、できる!」と。

「ならば――十字砲火クロスファイアで、どうだ!」

キィーン!と、剣と刀が激しく火花を散らした。

すると相手の男は、急に刀を下ろし、そして兜を脱いだ。

「やはり、お主か!拙者だ――小鉄だ。」

「……おお!師匠!」

その初老の男性は、私の剣の師匠である、小鉄であった。

「ヨハチから聞いては、いたのだ。外国の剣士を船に乗せてきた、とな。しかしそれが、お主とはな。」


小鉄師匠と出会ったのは、今から五年ほど前である。

当時、レガリアの東の地、マルカという海沿いの町に立ち寄っていた私は、海辺で倒れている一人の男性を発見した。

その男性は漂流した様子であった。

私は男性を介抱し面倒をみた。

それが小鉄であった。

その間、私は小鉄師匠から剣の手解きと、彼の国の言葉を教えてもらった。

「そうか!ここは小鉄師匠の国。道理で、この国の言葉が理解できたはずだ。」

私は懐かしい顔に安堵した。

「今度はお主が漂流したか。ガハハハ!これも運命なのだろう。よし!拙者の家に来い。あの時の恩返しを致そう。」


私は小鉄の家で厄介になることになった。

小鉄の家は大きな屋敷であった。

家族は居ないらしく、お手伝いさん数人と暮らしているらしい。

小鉄の話しによると、紅龍組は人斬り集団であり、金で人を殺す暗殺集団でもあるとのことだ。

そして小鉄は一人、紅龍組と戦っているらしい。

「さすがに拙者も年でな。奴らの相手をするのも日に日に難しくなってきてのう。お主には迷惑かもしれんが、よかったら手伝ってはくれぬか?」

「何を、おっしゃる師匠よ。私は弟子だ。弟子が師匠に手を貸すのは至極当然のこと。」と、強く思った。

そして師匠の頼みに、私は力強く頷いたのであった。


その晩、二人は運命的再会を祝して酒を酌み交わした。

そして夜も深まった頃、二人は床についた。

「おお!これがフトンというものか。それに、この畳というものも気に入った。」

私は観光旅行気分で就寝した。


――数字間後。

私はハッ!として目を開けた。

「――何かいる。」

すぐに枕元にあった剣を取り、息を殺した。

「……屋根の上か。」

僅かだが足音が聞こえる。

その時だった!

「敵じゃあ!」と、小鉄の叫び声が響き渡った。

次の瞬間、天井が破られ黒装束の人間が屋敷へと侵入してきた。

「夜襲とは卑怯な!」

私は剣を抜き、戦った。

黒装束の敵は素早かった。

私は部屋から部屋へと移動しながら応戦した。

すると、ちょうど目の前に小鉄の姿があった。

「生きとったな。まあ、お主なら当然か。だが用心せい、こやつらは忍だ。飛び道具も持っとるからな。」

その矢先、闇夜に一瞬、光る物体が私を目掛けて飛んできた。

それを難なく払い、私は敵に詰め寄り、倒した。

私は小鉄師匠と共に敵を撃破した。

「刺客を送り込んでくるとは、奴らも必死のようじゃの。」

小鉄は刀を収めて一息ついた。

しかし、それは敵の罠だった!

一旦引いたと見せかけ、実のところ直ぐ側に潜んでいたのだ。

小鉄は敵の吹き矢にやられ、倒れた。

「し、ししょう!」

私は師匠の元へ駆け寄った。



――翌日。

小鉄は、なんとか一命をとりとめた。

吹き矢には毒が塗られていたが、私の低級魔法「セラム」にて、毒を体内から取り去った。

私は師匠を侍女に任せ、立ち上がった。

「お、おぬし、待て。」

「師匠よ、止めても無駄だ。」という決意を、私は目に宿していた。

「奴らは強い。これを、持っていけ。」

そう言って小鉄は、自分の愛刀を渡した。

「お主には不慣れな物かもしれんが、長曾弥虎徹――名刀じゃ。」

私は受け取った刀を手に取り、静かに抜いてみた。

「う、うつくしい。私には分かる。この剣――いや、この刀は紛れもなく名刀だ。」

「お主。死ぬなよ。」



私は師匠の屋敷を出た。

そして、紅龍組が住みかにしているという寺院へと、やって来た。

「あれか。」

寺の敷地に足を一歩踏み入れた瞬間だった。

私の足に何か引っ掛かった。

「なんだ、この紐は?」

そして、乾いた木の音が激しく鳴り響く。

カランカランカラン!

私は驚き、慌てふためいた。

その時だった。

「!」

私は高速で剣を抜き、自分目掛けて飛んできた物を叩き落とした。

「――あそこか。」

木々の陰で、蠢く黒い影。

私は低級魔法「インビシブル・ナイフ」を唱えた。

見えない刃物は忍たちを捉えた。

そして、ついに影は姿を見せ襲いかかってきた。


私と忍たちの戦いは熾烈を極めた。

奴らの素早い動きに私は、翻弄され始める。

「ならば!」

私は低級魔法「ディアーレッグ」を唱え、足を強化して忍と同等――いや、それ以上の脚力で対抗した。

そして一人、また一人と確実に仕留めていく。

残る一人には、私の得意中の得意である、低級魔法「パンチャー」を唱え、ぶん殴ってやった。

「ハァハァ……手強い奴だった。」



続いて現れたのは、これまた手強そうな三人組だった。

「我ら紅龍三人衆を倒せるかな。行くぞ!」

三人は一斉に刀を抜き、斬りかかってきた。

その、凄まじい攻撃は、まるで落雷のように私を襲った。

完全に手数で負けている。

私は防戦一方となった。

「くそ!剣一本では――!」

私は隙をつき、三人から一旦離れて距離をとった。

そして、腰に装備している、もう一本「虎徹」を抜いた。

「さあ、かかってこい!」

三人衆は躊躇うことなく、斬りかかた。

しかし、今度は三人の猛攻を余裕で防いでやった。

そして私は、

「二刀流、十字砲火クロスファイア」を見舞った。

「ぐわぁ!」

「ぎゃあ!」

「ちっくしょう!」

三人衆は、倒れた。

残すは、頭一人だ。


「情けねぇ!俺が相手をしてやる、この紅龍様がな。」

紅龍は刀を抜いた。

「貴様の、その刀。さては小鉄の物だな?面白い、この骨喰い《ほねはみ》の餌食にしてやる。」

紅龍は仕掛けてきた。

それに私も二刀流で応戦する。


「さすがに頭だけは、ある。先程の三人衆とは比べものにならん。」

二人は互角の戦いを繰り広げた。

「俺が何故、人斬りの紅龍と呼ばれているか分かるかい。」

「なんだ突然。そんなの知るか、である。」と、思った。

「見せてやろう。我が暗殺の奥義。」

紅龍は刀を鞘へと収めた。

そして全身の力を抜いたように、自然体のまま無防備に私の方へ歩き寄ってきた。

「さては奥義とは、諦めることだな。」と、思えるほど、今の奴は隙だらけである。

紅龍は、ぐんぐん近付く。

私は底知れぬ不気味さを感じた。

やがて二人の間合いが詰まった時である。

突然、紅龍の全身から凄まじい殺気が放たれ、そして稲妻のような早さで鞘に収まっていた刀を抜き、その勢いのまま斬りかかってきた。

「は、はやい!」

私は紅龍の初撃をかわした。

だが、奴の刀は一撃にとどまらなかった。

返す刀で二撃目。

更に返す刀で三撃目。

そして最後は鋭い突きを放った。

私の体の、あちらこちらを掠めたが、なんとか全てしのいだ。

「ほう。初見で、これをかわすか。見事だ――だが次は、もっと早くなるぞ。」

そう言って、紅龍は不敵に笑った。

私は自分の剣と小鉄師匠の刀を鞘に収めた。

「見えた、奴の弱点!」

「ふん、俺の真似事か?舐めるな!」

私は小鉄師匠の刀「虎徹」に、手をかけた。

「死ね!」

紅龍の初撃は、正に神速であった。

私は、一切の攻撃を諦め、全ての集中力を見切りだけに費やした。

一撃目!

二撃目!

三撃目!

そして最後の突き!

――全て見切った!

「今だ!」

紅龍は最後の突きを放った後、一瞬だけ無防備な体勢になる。

隙だらけなのだ!

ここで私は、全集中力を攻撃へと転じさせ、虎徹を抜き紅龍を斬った。

「ば、ばかな……お見事……だ。」

紙一重の勝利であった。

「この師匠の刀がなかったら……際どかった。」



私は勝利を手土産に小鉄師匠の元へと帰った。

小鉄は、怪我の具合がよいのか、縁側に出て茶を啜っていた。

「勝ったのだな。」

師匠の言葉に、私は親指を立てて応えた。

そして、私は師匠の愛刀を手渡した。

「これは、お主にやった物だが……要らんのか?」

私は自分の剣に手をやり、微笑んで頷いた。


「そうか。お主には、そっちの方が合っとるな――いやぁ良かった。実は後悔しとったんじゃ。さすがに返してくれとは、言えんしな。しかし、やはり拙者の弟子だ。師の心を読みとりおった、ガハハハ!」

「まったく、都合のいい爺さんである。」



小鉄師匠は、私の帰りの船を手配してくれた。

そして、すっかり良くなった小鉄師匠は私の見送りに、港へとやって来た。

「また来い。お主ならいつでも大歓迎じゃ。」

私は頷き、船へと乗り込んだ。

「いい所だった。また是非来たいものだ。」


船はギアン大陸、レガリアへと向け出港した。

船の上から小鉄師匠に手を振り、別れを告げた。

甲板の上は、潮風が心地よく顔を撫でた。

カモメの鳴き声は、新たな旅立ちを祝福した。

そして、海はどこまでも青く澄んで美しかった。

「さあ次は、どんなことが待ち受けているのだろう。」


しかし彼は、すっかり忘れていた――自分が極度の船酔い症であることを。

その後、ふとした瞬間に思い出すことによって、彼はレガリアに到着するまで、船室にて寝込んでしまうことを――彼はまだ知らないのであった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

嘘はあなたから教わりました

菜花
ファンタジー
公爵令嬢オリガは王太子ネストルの婚約者だった。だがノンナという令嬢が現れてから全てが変わった。平気で嘘をつかれ、約束を破られ、オリガは恋心を失った。カクヨム様でも公開中。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

処理中です...