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魔王討伐
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近頃、世間は混沌としている様子だ。
これまでも、魔物は度々人々を恐怖に陥れてきた。
たが今回の騒動は、これまでとは少し質が違うようだ。
風の噂では、どうやら魔物達の王、魔王イカルスが復活を遂げたのだという。
その魔王を倒すべく各地で猛者達が次々と名乗りをあげた。
だが、その多くは見事に返り討ちにあい、民を不安と恐怖が支配していく。
しかし心配は無用である。
理由は「私がいる」から、である。
自分で語るのも少々気が引けるが、事実であるから仕方ない。
私は最強である。
剣を握らせれば世界一。
弓でも斧でも槍でも、あらゆる武器を私は器用に使いこなす。
更には、魔法も得意である。
上級魔法など眠っていても唱えられるし、究極のアルティメット魔法だって難なく習得した。
武勇伝だって数知れずある。
――それなのに、何故私は目立たないのだろうか?
別に地位や名誉や金が欲しい訳ではない。
しかし、少しは皆の注目を集めてもよいのではないか。
今も、こうやって人が多く行き交う往来の、ど真ん中を私は堂々と歩いている、のにもかかわらず誰一人として私に注目していない。
なんなら聞こえる程度のヒソヒソ話しでも構わない。
だが、そんな素振りすら全くない。
そんな賑わう街中に突如、魔物が現れた。
「きゃー!」
「助けて!」
「もう駄目だ……」
そんな人々の悲鳴が辺りに響き渡った。
なんの!心配ご無用。
遂に人々の目の前で活躍する時がきた。
私は剣に手をやった。
――その時だった!
「おい、皆。クレアだ。クレアが来てくれた。」
誰かが大声で、そう叫んだ。
その声に大勢の人々は歓喜した。
クレア――その名は私にも聞き覚えがある。
最近、売り出し中の女剣士だ。
クレアは金色の長い髪をなびかせながら登場し細身の剣を抜いた。
「見せてやる。我が剣の奥義。シンクレア!!」
熊タイプの魔物を自慢の剣で突き刺し、一撃で討伐した。
「皆、安心していい。私が魔王を倒してみせる。」
集まった人々は狂喜乱舞した。
「クレアならきっとやってくれる!」
「クレア!クレア!」
沸き上がるコールをクレアは制してから口を開いた。
「誰か、私と一緒に魔王退治に行く強者はいないか?」
その言葉に、今まで盛り上がっていた群衆は急に声を潜めた。
「共に世界を平和に導こうという者は前に出よ!」
――誰も出てこない。
クレアは少し焦っているようだった。
そんな中、私は一人考えていた。
あんな雑魚に奥義をもって倒すとは……
私なら普通の剣技で充分だ。
魔法なら低級魔法で間に合うだろう。
いや、むしろ素手でもやれる。
確実に私の方が強い!
にもかかわらず民衆はクレアの名を叫ぶ。
私には目もくれず。
私の強さは自信過剰なのか……いや、そんなはずはない。
「おう!戦士が出てきたぞ!」
なに?――気がつくと私はクレアの前に歩み出ていた。
「よくきた!これで我々のパーティーは完成した。これより魔王討伐に向かう。」
成り行きとはいえ、こうして私は女剣士クレアのパーティーに加わった。
私の他にも槍使いのムーンという男と、クッキーだかポッキーとかいう魔法使いがクレアの一行だ。
こんな時にこんな事を言うのは、どうかと思うが言わずには、いられない。
どう考えても、この中で一番強いのは私だろう。
口に出して言いたいのを我慢し、我々は魔王の住むクロシカ山を目指した。
道中、幾多の魔物と遭遇し、戦った。
少しづつ疲れがたまり傷を負う皆――私以外
体力と魔力は減る一方だった――私以外
こうして私達は遂に魔王イカルスの元へとたどり着く。
「いいかい。私が正面から突っ込む。ムーンは左から回り込め。 クッキーは後方支援。そして……お前は右から頼む」
今のクレアの変な間はなんだ?
若干気になるが、とりあえず今は戦闘に集中する。
なにせ、世界を滅亡させようと企む魔王だ。
それなりに強いはずだ。
――三時間後
戦闘は熾烈をきわめた。
味方は全員ボロボロだった。
私は一人浮かない様に皆と同じく弱ってる様にみせる。
本音を言えば「魔王といえど、こんなものか」である。
力尽きそうな我々……いや、私以外の者に対して魔王は言い放った。
「人間の戦士達といえど、こんなものか!ハハハ」
それは、私のセリフである。
その時、クレアは立ち上がり叫んだ。
「みんな、最後の力を振り絞れ!いいかい皆の必殺技を同時にぶつけるんだ。人間の力を見せつけてやろう。」
四人は力強く頷いた。
頷いたのは、いいが私の全力をぶつけてしまったら、ここにいる全員跡形もなく吹き飛んでしまう。
……中級魔法くらいにしておこう。
「いくぞ!だぁぁぁ!」
「うぉぉぉ!」
「どりゃゃあ!」
「よいしょっと」
四人の必殺技が魔王を捉えた。
「おのれ!人間どもめ!……恐るべし」
魔王は倒れ、世界に平和がもたらされた。
「やった。倒した。全員よくやったよ。私は力全て使い果たして起き上がるのもやっとだよ。」
「俺もだ。もう無理だ。」
「僕もそうです。もう一歩も歩けないよ」
「私は全然。なんなら、もう一体くらい魔王倒せますけど。」とは、言うことはできず、ただただ頷いた。
そしてクレアは、ボロボロの身体を引き摺りながら、
「さあ、帰ろう。たくさんの人々が待っているんだから。」
私は待ってました、といわんばかりに飛び起きた。
なんせ腹が減ってたまらなかったのだ。
街へ凱旋すると、噂はもう広まっていた。
「おかえりなさい。勇者達。」
「クレア。クレア。」と、またクレアコールが巻き起こる。
まずい……これでは魔王を倒し世界を救ったのは、
「勇者クレアと、その仲間達になってしまうではないか」と。
もう一度、言うが別に地位や名誉や金が欲しい訳ではない。
「ムーン様もブラボー!」
「クッキー、お疲れ様。ありがとう。」
私はハッ!とした。
それでいい。その労いの言葉で今は満足しよう。
「……よくやったよ。……えーと……ありがとう!」
今のは、私への言葉なのか?
いや、待てよ。
そういえば、この仲間達ですら私の名前を呼んだ事がない。
いや、こいつらだけではない。
街の者からも呼ばれたことが一度もない。
そうか!それが私が、これまで抱えてきた違和感なのかもしれない。
知らぬなら教えてしんぜよう、そして今こそ声高らかに言おう。
我が名を。
「私の名は、ペンカタハカタドラキューリアバンブツリヨウカヤナカラシモツ……長すぎるからか!」
私は空を見上げ、涙が零れないようにした。
涙で滲んだ目には太陽の光が当たり虹色に耀いていた。
――よく晴れた日であった。
これまでも、魔物は度々人々を恐怖に陥れてきた。
たが今回の騒動は、これまでとは少し質が違うようだ。
風の噂では、どうやら魔物達の王、魔王イカルスが復活を遂げたのだという。
その魔王を倒すべく各地で猛者達が次々と名乗りをあげた。
だが、その多くは見事に返り討ちにあい、民を不安と恐怖が支配していく。
しかし心配は無用である。
理由は「私がいる」から、である。
自分で語るのも少々気が引けるが、事実であるから仕方ない。
私は最強である。
剣を握らせれば世界一。
弓でも斧でも槍でも、あらゆる武器を私は器用に使いこなす。
更には、魔法も得意である。
上級魔法など眠っていても唱えられるし、究極のアルティメット魔法だって難なく習得した。
武勇伝だって数知れずある。
――それなのに、何故私は目立たないのだろうか?
別に地位や名誉や金が欲しい訳ではない。
しかし、少しは皆の注目を集めてもよいのではないか。
今も、こうやって人が多く行き交う往来の、ど真ん中を私は堂々と歩いている、のにもかかわらず誰一人として私に注目していない。
なんなら聞こえる程度のヒソヒソ話しでも構わない。
だが、そんな素振りすら全くない。
そんな賑わう街中に突如、魔物が現れた。
「きゃー!」
「助けて!」
「もう駄目だ……」
そんな人々の悲鳴が辺りに響き渡った。
なんの!心配ご無用。
遂に人々の目の前で活躍する時がきた。
私は剣に手をやった。
――その時だった!
「おい、皆。クレアだ。クレアが来てくれた。」
誰かが大声で、そう叫んだ。
その声に大勢の人々は歓喜した。
クレア――その名は私にも聞き覚えがある。
最近、売り出し中の女剣士だ。
クレアは金色の長い髪をなびかせながら登場し細身の剣を抜いた。
「見せてやる。我が剣の奥義。シンクレア!!」
熊タイプの魔物を自慢の剣で突き刺し、一撃で討伐した。
「皆、安心していい。私が魔王を倒してみせる。」
集まった人々は狂喜乱舞した。
「クレアならきっとやってくれる!」
「クレア!クレア!」
沸き上がるコールをクレアは制してから口を開いた。
「誰か、私と一緒に魔王退治に行く強者はいないか?」
その言葉に、今まで盛り上がっていた群衆は急に声を潜めた。
「共に世界を平和に導こうという者は前に出よ!」
――誰も出てこない。
クレアは少し焦っているようだった。
そんな中、私は一人考えていた。
あんな雑魚に奥義をもって倒すとは……
私なら普通の剣技で充分だ。
魔法なら低級魔法で間に合うだろう。
いや、むしろ素手でもやれる。
確実に私の方が強い!
にもかかわらず民衆はクレアの名を叫ぶ。
私には目もくれず。
私の強さは自信過剰なのか……いや、そんなはずはない。
「おう!戦士が出てきたぞ!」
なに?――気がつくと私はクレアの前に歩み出ていた。
「よくきた!これで我々のパーティーは完成した。これより魔王討伐に向かう。」
成り行きとはいえ、こうして私は女剣士クレアのパーティーに加わった。
私の他にも槍使いのムーンという男と、クッキーだかポッキーとかいう魔法使いがクレアの一行だ。
こんな時にこんな事を言うのは、どうかと思うが言わずには、いられない。
どう考えても、この中で一番強いのは私だろう。
口に出して言いたいのを我慢し、我々は魔王の住むクロシカ山を目指した。
道中、幾多の魔物と遭遇し、戦った。
少しづつ疲れがたまり傷を負う皆――私以外
体力と魔力は減る一方だった――私以外
こうして私達は遂に魔王イカルスの元へとたどり着く。
「いいかい。私が正面から突っ込む。ムーンは左から回り込め。 クッキーは後方支援。そして……お前は右から頼む」
今のクレアの変な間はなんだ?
若干気になるが、とりあえず今は戦闘に集中する。
なにせ、世界を滅亡させようと企む魔王だ。
それなりに強いはずだ。
――三時間後
戦闘は熾烈をきわめた。
味方は全員ボロボロだった。
私は一人浮かない様に皆と同じく弱ってる様にみせる。
本音を言えば「魔王といえど、こんなものか」である。
力尽きそうな我々……いや、私以外の者に対して魔王は言い放った。
「人間の戦士達といえど、こんなものか!ハハハ」
それは、私のセリフである。
その時、クレアは立ち上がり叫んだ。
「みんな、最後の力を振り絞れ!いいかい皆の必殺技を同時にぶつけるんだ。人間の力を見せつけてやろう。」
四人は力強く頷いた。
頷いたのは、いいが私の全力をぶつけてしまったら、ここにいる全員跡形もなく吹き飛んでしまう。
……中級魔法くらいにしておこう。
「いくぞ!だぁぁぁ!」
「うぉぉぉ!」
「どりゃゃあ!」
「よいしょっと」
四人の必殺技が魔王を捉えた。
「おのれ!人間どもめ!……恐るべし」
魔王は倒れ、世界に平和がもたらされた。
「やった。倒した。全員よくやったよ。私は力全て使い果たして起き上がるのもやっとだよ。」
「俺もだ。もう無理だ。」
「僕もそうです。もう一歩も歩けないよ」
「私は全然。なんなら、もう一体くらい魔王倒せますけど。」とは、言うことはできず、ただただ頷いた。
そしてクレアは、ボロボロの身体を引き摺りながら、
「さあ、帰ろう。たくさんの人々が待っているんだから。」
私は待ってました、といわんばかりに飛び起きた。
なんせ腹が減ってたまらなかったのだ。
街へ凱旋すると、噂はもう広まっていた。
「おかえりなさい。勇者達。」
「クレア。クレア。」と、またクレアコールが巻き起こる。
まずい……これでは魔王を倒し世界を救ったのは、
「勇者クレアと、その仲間達になってしまうではないか」と。
もう一度、言うが別に地位や名誉や金が欲しい訳ではない。
「ムーン様もブラボー!」
「クッキー、お疲れ様。ありがとう。」
私はハッ!とした。
それでいい。その労いの言葉で今は満足しよう。
「……よくやったよ。……えーと……ありがとう!」
今のは、私への言葉なのか?
いや、待てよ。
そういえば、この仲間達ですら私の名前を呼んだ事がない。
いや、こいつらだけではない。
街の者からも呼ばれたことが一度もない。
そうか!それが私が、これまで抱えてきた違和感なのかもしれない。
知らぬなら教えてしんぜよう、そして今こそ声高らかに言おう。
我が名を。
「私の名は、ペンカタハカタドラキューリアバンブツリヨウカヤナカラシモツ……長すぎるからか!」
私は空を見上げ、涙が零れないようにした。
涙で滲んだ目には太陽の光が当たり虹色に耀いていた。
――よく晴れた日であった。
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