chaos world~battle royal~

田仲真尋

文字の大きさ
上 下
17 / 57
一章~混沌とした世界~

再会

しおりを挟む
緑は凛香をカウンターの奥に潜ませ、立ち上がった。

外では二人の異変者が今にも扉を壊してしまいそうだった。


「凛香ちゃん、そこから出て来たら駄目だからね。」


緑は凛香に怖い思いをして欲しくなかった。

出来るだけ落ち着いたトーンの声で優しく声をかけた。

しかし、それとは裏腹に緑の包丁を持つ手は小刻みに震えていた。

当然、人なんて刺したことはない。

異変者を人間扱いすれば瞬く間に自分が殺られてしまうだろう。

心に鬼を宿さなければ絶対に乗り越えることは出来ない。

緑はそう確信した。


そんな張りついた空気の中、突然場違いなトーンの声が聞こえた。


「あれー、緑じゃん。なに?やっぱり気になって来ちゃった感じ?ってか何で包丁なんか持ってたんだよ。こえー!」


そこにいたのは、バーンだった。

つい数時間前に出会ったばかりの男だった。


「バーンさん?なんでこんな所に?」


「いやいや、それはこっちの台詞。ここは俺の家だから。」


「こ、こんな汚い所に住んでるんですか?」


「おっと失礼な発言。だけど怒らないよ。だって本当のことだから、ハハハ。」


「それよりも僕たち追われているんです。」


緑は店の扉を指差しながら状況を説明した。


「なるほどね。だが大丈夫だ。あの扉はちよっと特別製でね。いくら彼らでもこじ開けるのは無理だ。それよりも緑の発言が気になるな。さっき『僕たち』って言ったろ?他に誰かいるのか?」


緑はバーンの事をあまり信用していない。

だから彼が扉は大丈夫だと言っても半信半疑だった。

しかし、凛香のことは隠す必要はないと判断し、彼女の元へと行った。


そこには暗い物陰にうずくまるようにして、耳を塞ぎ目を瞑っている凛香がいた。

言い付け通りにしている凛香の姿を見て緑は緊張の糸が緩んだ。


「可愛いな。」


思わず本音をポロリと呟いてから凛香の肩を揺すった。


「……み、緑君。終わったの?」


緑は何て答えて良いのか分からず悩んだ。


「おーっ!女子高生!もしかして、もしかして緑の彼女?」


「ち、違います。友達の妹です。」


「ふーん、友達ってもしかして――。」


バーンが言っているのは間違いなく戒のことだ。

緑は慌てて話を逸らした。


「それより、こんな所にあったんですねエルフって。この近くは何度も通ったことがあるけど、この店のことは全く知りませんでした。」


「まあ、地味だしな。それよりお前たちこれからどうするんだい?腹減ってるなら何か作ってやろうか。」


「俺は大丈夫です。」


「私も。」


バーンはちょっと不満そうな顔をして言った。


「そっか、残念。俺のナポリタンはまじで旨いんだけどな。」


三人が中でこんな話をしている間も、外では異変者が店の扉をガタンガタンと鳴らしていた。


「あーっ、うるせえ!これじゃあろくに話もできねえ。奥に行くか。どうせ二人ともすぐには外に出られないぜ。」


緑と凛香は顔を合わせ軽く頷いた。

バーンの言った通り、今外に出るには危険過ぎると判断したからだ。

本当は二人の家族を一刻も早く見つけに行きたかったが、今はそうするしか手はなさそうだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの婚約者は学園の王子さま!

久里
児童書・童話
平凡な女子中学生、野崎莉子にはみんなに隠している秘密がある。実は、学園中の女子が憧れる王子、漣奏多の婚約者なのだ!こんなことを奏多の親衛隊に知られたら、平和な学校生活は望めない!周りを気にしてこの関係をひた隠しにする莉子VSそんな彼女の態度に不満そうな奏多によるドキドキ学園ラブコメ。

手紙屋 ─ending letter─【完結】

Shizukuru
ライト文芸
終わりは突然、別れは必然。人が亡くなるとはそう言う事だ。 亡くなった人の想いの欠片が手紙となる。その手紙を届ける仕事こそ、黒須家で代々受け継がれる家業、"手紙屋"である。 手紙屋の見習いである黒須寧々子(JK)が仕事をこなしている時に、大事な手紙を白猫に取られてしまった! 白猫を探して辿り着いた神社で出会ったのは……金髪、カラコン、バチバチピアスのド派手な美形大学生だった。 顔はいいが、性格に難アリ。ヤダこの人と思ったのに……不思議な縁から始まる物語。

ガルテナ ~私の一番の音楽~

茂庭
ライト文芸
ネットに投稿したオリジナル曲が全く再生されず、密かにヘコんでいた高校二年生の成瀬由香里。 そんな時に設立前の軽音部から作曲のお願いをされる。 それをきっかけにアマチュアガールズバンド日本一を決める大会、ガルテナへの出場を目指すことに。 仲間と共に音楽を奏でる物語。

【完結】病院なんていきたくない

仲 奈華 (nakanaka)
児童書・童話
病院なんていきたくない。 4歳のリナは涙を流しながら、なんとかお母さんへ伝えようとした。 お母さんはいつも忙しそう。 だから、言う通りにしないといけない。 お父さんは仕事で家にいない。 だから迷惑をかけたらいけない。 お婆さんはいつもイライラしている。 仕事で忙しい両親に変わって育児と家事をしているからだ。 苦しくて苦しくて息ができない。 周囲は真っ暗なのに咳がひどくて眠れない。 リナは暗闇の中、洗面器を持って座っている。 目の前の布団には、お母さんと弟が眠っている。 起こしたらダメだと、出来るだけ咳を抑えようとする。 だけど激しくむせ込み、吐いてしまった。 晩御飯で食べたお粥が全部出る。 だけど、咳は治らない。 涙を流しながら、喉の痛みが少しでも減るようにむせ続ける。

北野坂パレット

うにおいくら
ライト文芸
 舞台は神戸・異人館の街北野町。この物語はほっこり仕様になっております。 青春の真っただ中の子供達と青春の残像の中でうごめいている大人たちの物語です。 『高校生になった記念にどうだ?』という酒豪の母・雪乃の訳のわからん理由によって、両親の離婚により生き別れになっていた父・一平に生まれて初めて会う事になったピアノ好きの高校生亮平。   気が付いたら高校生になっていた……というような何も考えずにのほほんと生きてきた亮平が、父親やその周りの大人たちに感化されて成長していく物語。  ある日父親が若い頃は『ピアニストを目指していた』という事を知った亮平は『何故その夢を父親が諦めたのか?』という理由を知ろうとする。  それは亮平にも係わる藤崎家の因縁が原因だった。 それを知った亮平は自らもピアニストを目指すことを決意するが、流石に16年間も無駄飯を食ってきた高校生だけあって考えがヌルイ。脇がアマイ。なかなか前に進めない。   幼馴染の冴子や宏美などに振り回されながら、自分の道を模索する高校生活が始まる。 ピアノ・ヴァイオリン・チェロ・オーケストラそしてスコッチウィスキーや酒がやたらと出てくる小説でもある。主人公がヌルイだけあってなかなか音楽の話までたどり着けないが、8話あたりからそれなりに出てくる模様。若干ファンタージ要素もある模様だが、だからと言って異世界に転生したりすることは間違ってもないと思われる。

隣の古道具屋さん

雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。 幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。 そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。 修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。

仕返し

猫枕
ライト文芸
中学生の頃のイジメで心に傷を負った女性。 大人になっても恨む気持ちは消えなくて。 他

真梅雨怪奇譚 ー 梅雨の日に得た能力

七槻夏木
ライト文芸
 容姿端麗、成績優秀と、才色兼備な女子高生である小崎真梅雨は、愛姫県のお嬢様学校である済栄マリア学園に通っていた。  そんな真梅雨は、突如として能力に目覚めると、謎の二人組みに拉致される。そこで、世界には、能力を持った人間である「憑依者」で構成される、組織があることを知る真梅雨。  呪われた能力を手にした真梅雨は、様々な能略を使役する憑依者との戦いに身を投じていくこととなる。

処理中です...