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park
しおりを挟むフェイトフル・リアルムとザラスの国境にある砦には、似つかわしくない豪華な客室がありました。
来賓をおもてなしする為の部屋でしょう。僕たちは現在、そこでくつろいでいます。
「サーシャ様、このお菓子美味しいですよ。」
「こっちのも、美味しいわ。」
「わーい!」
僕たちは思い思いに、くつろぐというよりはしゃいでいました。
コンコン!
乾いた木製のドアのノック音がして、入って来たのは美しい女性でした。
まさか、この方がパークさん?
僕は胸が踊り出しそうになりました。
「お待たせ致しました。パーク様の部屋へご案内します。」
残念ながら違ったようです。
僕らは彼女に導かれるまま廊下を進みました。
長い廊下の突き当たりに、ダークな茶色の両開きの扉が現れました。
今回は鉄の格子の扉じゃないようなので安心しました。
コンコン!とノックをすると中から「入りなさい。」と、低い渋めの声がしました。
「失礼します。」
中に入ると、広い部屋の奥には大きな机と椅子が置いてありました。
そこに長身で細身の男が立っていました。
白いマントの様なものを身に纏っています。少し長い髪は、真っ白に染まっていました。
知的な銀縁の眼鏡をかけた年配の男性。これが僕たちが探していたパークさんの様ですね。
「待っていたよ。私がパークだ。」
「初めまして。サーシャです。」
「君がサーシャか。おお、確かに父と同じ目をしているな。すると後ろの君がピートか。噂は聞いているぞ、黒い刃。それで、そちらの女性は――!」
「ああ!誰かと思ったらゼロじゃん。久しぶりだから分からなかったわ、ずいぶん年とったわね。」
「シ、シエル!?まさか、シエルとは、あのシエルだったか。これは驚いた、本当に久しいな。」
僕とサーシャ様は混乱していました。シエルさんとは顔見知りのようですが、ゼロとは?
「ねえ、ゼロ、どうしてパークって名乗ってるのよ。」
「しぃー!ここではパークなんだ。あんまり、その名を口にするな。」
僕らはシエルさんを見て、説明してくれるように言いました。
「ゼロは、元々ギアン大陸にある、ある国の将軍だったのよ。でも失態を犯して国を追われたんだよね。その後は転々とする身だったはずよ。どうしてフェイトフル・リアルムのお偉いさんになってるの?」
なるほど、ちょっと犯罪の匂いがしますね。
このパーク――いや、ゼロさんは詐欺師か何かでしょう。
「ま、まあその話しは何れまたな。今日は別件で参ったのだろう?」
おっと、そうでしたね。
僕たちが遥々やって来たのは、サーシャ様の父上のことについて聞きに来たのでした。
サーシャ様は、父上のこと。それから剣のことを訊ねました。
「ディミトリのことは、よく覚えている。あいつは本当に強かった。それに、とても良い奴だった。」
強かったというのは誰しもが口にする台詞です。よっぽど強かったのでしょうね、サーシャ様の父上は。
「それで私に届けてくれた、スパロウティアズはいったい?」
「ああ、それについては、少し説明しとかねばならないな。」
パークさんが語ったのは、ディミトリさんが亡くなる前日まで遡ります。
ちょうどその頃、ディミトリさんはパークさんの世話になっていたそうです。
そして、黄金の剣士ダマンとの試合の前日に、スパロウティアズを預け、娘のサーシャ様に渡してくれと頼まれたそうです。
「私はすぐにサーシャを探した。なかなか骨が折れたが、ようやく見つけだすことができた。ところがそれから、約一年間また見失ってしまってな。最近になってようやく情報が入ったのだ。サーシャがシグレ島に向かったとな。それで直ちに剣を届けた、というわけだ。」
その一年間は、おそらくグラノールさんの修行を受けていた時ですね。あそこは素人には簡単に探せませんからね。
ということは、ちょうどサーシャ様の剣に綻びが出たタイミングで届けられたスパロウティアズは、単なる偶然だったようです。
まあ、それはそうでしょう。そんなことまで計算できるのは、神様くらいでしょうしね。
とりあえず聞くべきことは全て聞きました。
これと言って収穫はありませんでしたが、サーシャ様はパークさんに一言お礼を言えたことに満足そうでした。
だが、パークさんの方は、まだ何か言いたそうです。
「今更、こんなことを言うのは気が引けるが……言わせてもらおう。」
パークさんは意を決したように、話し始めました。
「あの頃のディミトリは誰よりも強かった。もちろんダマンも強かっただろう。だが、あの当時のダマンは、まだ駆出しでな、ようやくレト大陸に彼の名が広まり始めたばっかりだった。私は当時のダマンを見たことがないが、つい最近に彼の戦いぶりを見る機会があったのだ。それを見る限りでは、その当時にダマンがディミトリより強かったとは到底思えなくてな。まあ、私は友人だったから贔屓目にディミトリを見ているのかもしれんが。とにかく、今でも信じられないのだ。」
その時のディミトリさんを知るパークさんだから、そう感じるのでしょうね。
しかし、戦いには強さだけでは勝てません。コンディションが悪かったのかも知れませんし、運に見放されたのかも知れません。
戦いとはそういうものです。
「すまんな、昔話しに付き合わせて。」
「いいえ、今でも父のことをそう思ってもらっているだけで、私は嬉しいです。」
サーシャ様は本当に嬉しそうでした。
そして、もう一つ聞いておきたいことを躊躇いながら口にしました。
「――あの、パークさん。私の、私の母について何か知りませんか?」
「そうか、お前は母を知らなかったな。おそらくディミトリからも何も聞かせてもらってないのだろう。」
サーシャ様は小さく頷きました。
「お前の母とは、私は会ったことがないしディミトリからも聞いていない――だが、名前だけは知っているが、知っているか?」
サーシャ様は、今度は横に首を振りました。
「名前も聞かされていなかったか。お前の母の名は――マリアだ。」
「マリア……。」
名前を聞いただけでは何も分かりませんが、サーシャ様は凄く嬉しそうに、はにかんでいました。
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