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オタム剣技大会~part5~
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一回戦を突破したサーシャ様の次なる相手の偵察に来ています。
正確に言えば今から行われる戦いの勝者が次の対戦相手です。
僕だってたまには、ご主人様のお役に立たねばなりません。従者ですから。
「どうやら間に合ったようだ。」
サーシャ様の試合が早く終わったこともあり、この戦いには余裕で間に合いました。
対戦するのは、バジルとダリルという剣士たちです。
「それではバジル様、ダリル様は前へ!」
二人の登場に会場が湧きます。一見しただけでは詳しいことは言えませんが、バジルは剣と盾を装備した剣士です。対するダリルはロングソード一本を装備しての登場です。このロングソードは恐らく馬上から攻撃するための物でしょう。普段は馬に跨がった騎士なのかもしれません。ただ相性は最悪です。バジルの方に分がありそうです。
進行役の男の始めの合図で両者は後方へ下がり距離をとった。
「そんなに長い剣で、私に勝てるとでも?」
「やってみれば分かるさ。長いだけじゃないってことが、ね!」
先に突っ込んだのはダリルでした。ロングソードを上方に構えると、バジルに向かって降り下ろした。
「ちっ!そんな間合いからでも届くっていうのか。」
バジルとの距離が遠い。しかし、ダリルの攻撃範囲は相当に広かった。明らかにバジルの間合いの外から桁外れの斬撃を放ちました。
しかし、バジルは慌てることはなかった。むしろダリルの攻撃を待っていたかのようである。
「止める!」
ボン!と、まるで何かが弾けたような鈍い音が響きました。
それはバジルがダリルの攻撃を盾で防いだ音です。
「よし!耐えたぞ!」
必殺の一撃を止められたダリルには大きな隙ができていました。それをバジルは見逃したりはしませんでした。
すぐにダリルの懐に飛び込み自分の間合いを作ります。
「終りだ!」
懐が、がら空きだったダリルにバジルの刃が襲いかかりました。
しかし、その時でした!バジルは不敵にも笑みを浮かべ、ロングソードを手放しました。
「なっ!何の真似だ!」
「俺の真の武器を見せてやる。」
ダリルは腰に帯刀していた短剣を抜きました。そしてバジルの剣を避け、彼の腹に短剣を突き刺しました。
「グハッ!ば、ばかな……。」
バジルは、その場で前のめりに倒れました。
「勝者、ダリル様!」
ダリルはロングソードを拾い上げ天に向け掲げました。会場はダリルコールに包まれました。その歓声を背に、彼は会場を足早に去っていきました。
「これは、なかなか手強い相手になりそうですね。」
僕はサーシャ様の元へ急ぎ戻りました。
彼女は脳天気に食事中でした。まったく緊張感の欠片もありはしません。
これは少し脅かしておく必要がありそうです。僕はサーシャ様に、「ただいま戻りました。」と、言って彼女の隣に腰を下ろしました。
「遅かったわね。それで、どうだった?」
僕は、わざと青ざめた顔を作りながら言いました。
「サーシャ様、棄権した方がよいもしれませんね。」
「へー次の相手、そんなに強いのか?」
「ええ、とても。サーシャ様では敵わないでしょうね。秒殺ですよ秒殺――。」
バキッ!
ちょっと調子にのり過ぎたようで、頭を叩かれました。
「そんなのは、どうでもいいからもっと有益な情報をくれないかなピート君。」
一応ダリルがロングソードの使い手だ、ということだけを教えて差し上げました。二刀使いのことは黙っておくことにしました。
これは修行です。突然始まるバトルに事前の情報なんてありません。自分で敵と対峙してみて、情報を読み取らねばなりません。
ここは心を鬼にしてサーシャ様を突き放しておくことが大事なのです。
えっ?頭を叩かれた腹いせですって。そんなことは決してありませんよ。決してね……。
「これより準々決勝戦に移りたいと思います。それではまず、最初の試合を始めたいと思います。サーシャ様、ダリル様、前へ!」
決勝トーナメントからは試合会場が広くなっています。観客の入りも試合が進むにつれ増え続けていました。中にはサーシャ様のファンらしき輩も、ちらほら見かけるようになってきました。
「サーシャちゃん、頑張れ!」
まったく、遠い存在の分際でサーシャ様をサーシャちゃん、などと
気軽に呼ばれると何だか気分が悪くなります。サーシャ様もサーシャ様で、そんな野郎共に愛想よく笑顔で応えています。普段は決して見せない顔です。ちなみに嫉妬しているわけでは、ありませんからね。決して……。
「始めてください!」
試合開始の合図と共に、まずダリルが動きました。今回も初っぱなから一撃を繰り出すのかと思われましたが、どうやら違うようです。どうも間合いを上手く掴みきれないようでブンブンど長い剣を振り回しています。
原因はサーシャ様の軽やかなステップのようです。サーシャ様は前後にステップし、ダリルの間合いを外していました。
意外と考えて戦っているんだなと感心しました。
しかし相手も百戦錬磨の強者です。一瞬サーシャ様がダリルの間合いに足を踏み入れた瞬間を見逃しませんでした。
前回の戦いの折に見せた鋭い一撃を降り下ろします。
だが、サーシャ様はものともぜずに避けます。そして、その隙を狙い、前に出ました。
ダリルはロングソードを手放し腰に差してあった短剣を抜きました。
「かかった!」
罠を仕掛けていたダリルは勝利を確信したように笑みを浮かべます。しかし、高速で抜かれた短剣をサーシャ様は剣で弾き飛ばしました。
さすがはサーシャ様です――ん?これは!
僕は気づいてしまいました。ダリルの違いに。それは前の戦いで見た彼とは様子が違っていました。よく見てみると腰にもう一本短剣を帯刀しているではありませんか!
隠し短剣を弾き飛ばしたサーシャ様は隙だらけです。
「よく対応したな。だが、これで終わりだ!」
ダリルはその短剣でサーシャの喉元を突きにいきました。
「サーシャ様!」
しかしサーシャ様は動くことができません。ダリルの剣先がサーシャ様の喉元へ到達する寸前でした。なんとサーシャ様は上半身を後方へグイッと倒しダリルの攻撃を避けたではありませんか。なんという柔軟性でしょうか。まるでマトリック……やめておきましょう。
「まじか!?」
さすがのダリルもこれには度肝を抜かれたことでしょう。
しかし、それだけではありませんでした。上半身を戻す時のバネが凄い。戻る反動を利用してサーシャ様はダリルの懐に飛び込みました。そして今度は彼の喉元にスパロウティアズの剣先を押し当てました。少しダリルの喉元に刺さった剣を数敵の血が滴り落ちてきています。
「ま、参った。降参だ。」
「ごめんね。ちょっと刺さっちゃった。」
「勝負あり。勝者サーシャ様!」
なんと!サーシャ様が勝ちました。いや、勝てるとは僕も思っていましたよ。ですが、もっと苦戦を強いられると思っていました。サーシャ様は確実に強くなっていた。僕の胸は、そんなサーシャ様を見て高鳴りが抑えられません。
そして次は、いよいよ準決勝です。もしかしたら黄金の剣士ダマンと当たるかもしれません。
そうなることを僕は心のどこかで強く望んでいました。
正確に言えば今から行われる戦いの勝者が次の対戦相手です。
僕だってたまには、ご主人様のお役に立たねばなりません。従者ですから。
「どうやら間に合ったようだ。」
サーシャ様の試合が早く終わったこともあり、この戦いには余裕で間に合いました。
対戦するのは、バジルとダリルという剣士たちです。
「それではバジル様、ダリル様は前へ!」
二人の登場に会場が湧きます。一見しただけでは詳しいことは言えませんが、バジルは剣と盾を装備した剣士です。対するダリルはロングソード一本を装備しての登場です。このロングソードは恐らく馬上から攻撃するための物でしょう。普段は馬に跨がった騎士なのかもしれません。ただ相性は最悪です。バジルの方に分がありそうです。
進行役の男の始めの合図で両者は後方へ下がり距離をとった。
「そんなに長い剣で、私に勝てるとでも?」
「やってみれば分かるさ。長いだけじゃないってことが、ね!」
先に突っ込んだのはダリルでした。ロングソードを上方に構えると、バジルに向かって降り下ろした。
「ちっ!そんな間合いからでも届くっていうのか。」
バジルとの距離が遠い。しかし、ダリルの攻撃範囲は相当に広かった。明らかにバジルの間合いの外から桁外れの斬撃を放ちました。
しかし、バジルは慌てることはなかった。むしろダリルの攻撃を待っていたかのようである。
「止める!」
ボン!と、まるで何かが弾けたような鈍い音が響きました。
それはバジルがダリルの攻撃を盾で防いだ音です。
「よし!耐えたぞ!」
必殺の一撃を止められたダリルには大きな隙ができていました。それをバジルは見逃したりはしませんでした。
すぐにダリルの懐に飛び込み自分の間合いを作ります。
「終りだ!」
懐が、がら空きだったダリルにバジルの刃が襲いかかりました。
しかし、その時でした!バジルは不敵にも笑みを浮かべ、ロングソードを手放しました。
「なっ!何の真似だ!」
「俺の真の武器を見せてやる。」
ダリルは腰に帯刀していた短剣を抜きました。そしてバジルの剣を避け、彼の腹に短剣を突き刺しました。
「グハッ!ば、ばかな……。」
バジルは、その場で前のめりに倒れました。
「勝者、ダリル様!」
ダリルはロングソードを拾い上げ天に向け掲げました。会場はダリルコールに包まれました。その歓声を背に、彼は会場を足早に去っていきました。
「これは、なかなか手強い相手になりそうですね。」
僕はサーシャ様の元へ急ぎ戻りました。
彼女は脳天気に食事中でした。まったく緊張感の欠片もありはしません。
これは少し脅かしておく必要がありそうです。僕はサーシャ様に、「ただいま戻りました。」と、言って彼女の隣に腰を下ろしました。
「遅かったわね。それで、どうだった?」
僕は、わざと青ざめた顔を作りながら言いました。
「サーシャ様、棄権した方がよいもしれませんね。」
「へー次の相手、そんなに強いのか?」
「ええ、とても。サーシャ様では敵わないでしょうね。秒殺ですよ秒殺――。」
バキッ!
ちょっと調子にのり過ぎたようで、頭を叩かれました。
「そんなのは、どうでもいいからもっと有益な情報をくれないかなピート君。」
一応ダリルがロングソードの使い手だ、ということだけを教えて差し上げました。二刀使いのことは黙っておくことにしました。
これは修行です。突然始まるバトルに事前の情報なんてありません。自分で敵と対峙してみて、情報を読み取らねばなりません。
ここは心を鬼にしてサーシャ様を突き放しておくことが大事なのです。
えっ?頭を叩かれた腹いせですって。そんなことは決してありませんよ。決してね……。
「これより準々決勝戦に移りたいと思います。それではまず、最初の試合を始めたいと思います。サーシャ様、ダリル様、前へ!」
決勝トーナメントからは試合会場が広くなっています。観客の入りも試合が進むにつれ増え続けていました。中にはサーシャ様のファンらしき輩も、ちらほら見かけるようになってきました。
「サーシャちゃん、頑張れ!」
まったく、遠い存在の分際でサーシャ様をサーシャちゃん、などと
気軽に呼ばれると何だか気分が悪くなります。サーシャ様もサーシャ様で、そんな野郎共に愛想よく笑顔で応えています。普段は決して見せない顔です。ちなみに嫉妬しているわけでは、ありませんからね。決して……。
「始めてください!」
試合開始の合図と共に、まずダリルが動きました。今回も初っぱなから一撃を繰り出すのかと思われましたが、どうやら違うようです。どうも間合いを上手く掴みきれないようでブンブンど長い剣を振り回しています。
原因はサーシャ様の軽やかなステップのようです。サーシャ様は前後にステップし、ダリルの間合いを外していました。
意外と考えて戦っているんだなと感心しました。
しかし相手も百戦錬磨の強者です。一瞬サーシャ様がダリルの間合いに足を踏み入れた瞬間を見逃しませんでした。
前回の戦いの折に見せた鋭い一撃を降り下ろします。
だが、サーシャ様はものともぜずに避けます。そして、その隙を狙い、前に出ました。
ダリルはロングソードを手放し腰に差してあった短剣を抜きました。
「かかった!」
罠を仕掛けていたダリルは勝利を確信したように笑みを浮かべます。しかし、高速で抜かれた短剣をサーシャ様は剣で弾き飛ばしました。
さすがはサーシャ様です――ん?これは!
僕は気づいてしまいました。ダリルの違いに。それは前の戦いで見た彼とは様子が違っていました。よく見てみると腰にもう一本短剣を帯刀しているではありませんか!
隠し短剣を弾き飛ばしたサーシャ様は隙だらけです。
「よく対応したな。だが、これで終わりだ!」
ダリルはその短剣でサーシャの喉元を突きにいきました。
「サーシャ様!」
しかしサーシャ様は動くことができません。ダリルの剣先がサーシャ様の喉元へ到達する寸前でした。なんとサーシャ様は上半身を後方へグイッと倒しダリルの攻撃を避けたではありませんか。なんという柔軟性でしょうか。まるでマトリック……やめておきましょう。
「まじか!?」
さすがのダリルもこれには度肝を抜かれたことでしょう。
しかし、それだけではありませんでした。上半身を戻す時のバネが凄い。戻る反動を利用してサーシャ様はダリルの懐に飛び込みました。そして今度は彼の喉元にスパロウティアズの剣先を押し当てました。少しダリルの喉元に刺さった剣を数敵の血が滴り落ちてきています。
「ま、参った。降参だ。」
「ごめんね。ちょっと刺さっちゃった。」
「勝負あり。勝者サーシャ様!」
なんと!サーシャ様が勝ちました。いや、勝てるとは僕も思っていましたよ。ですが、もっと苦戦を強いられると思っていました。サーシャ様は確実に強くなっていた。僕の胸は、そんなサーシャ様を見て高鳴りが抑えられません。
そして次は、いよいよ準決勝です。もしかしたら黄金の剣士ダマンと当たるかもしれません。
そうなることを僕は心のどこかで強く望んでいました。
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