もう尽くして耐えるのは辞めます!!

月居 結深

文字の大きさ
上 下
28 / 34
一年間の休息

街歩き3

しおりを挟む
 ジゼル姉は宣言通りお昼を奢ってくれた。『夜明けの猫』での昼食は、それはそれは賑やかで楽しいものだった。

 殿下は、おそらく食べたことがないであろう庶民的な味付けの料理を美味しそうに、且つ興味深そうに食べていて、そんな殿下の様子を面白がったドニおじさん達が、殿下に自分達が食べているものを分け与えていたりしていた。
 私は私で、もっと食べろだなんだと女将さんやジゼル姉に言われ、さっぱりした食べやすい食べ物を成人女性が食べるくらいの量置かれた。でも、結局食べきれなくて、申し訳なさそうにする私を見かねた殿下が食べてくれた。一体その細い体のどこに入っているんだろうと思ってしまうくらい、ペロリと平らげていた。


「ジゼル姉ありがとう!近いうちにまた来るようにするから。」
「ジゼルさんありがとうございました!皆さんも話しかけて下さってありがとうございました。とっても楽しかったです!」
「あら、ブランちゃんもう行っちゃうの?」
「うん、ちょっと行きたいところがあるんだ。」
「そう、なら仕方ないわね。行ってらっしゃい!」

 私が店を出ようとすると、殿下はスッと扉を開けてくれた。エスコートされること自体は慣れているけど、ブランシェの時にされると少し動揺してしまう。
 少しぎこちない私の所作に、殿下はくすくすと笑った。その様子に少しムッとしながらも、何も言えずに店を出た。

「…それで?どこに行きたいの?」
「冒険者ギルドだよ。」
「目的は?」
「冒険者のカードって、身分証になるでしょ?…私、一年間休暇を貰ってて、その間に他国を見て回ろうと思ってるの。でも、私の身分じゃ気ままに他国を渡り歩くなんて出来ないから、別の身分を作ろうと思って。」

 現状、私は公爵令嬢と公爵家次期当主という立場で、貴族という身分だ。それも高位貴族。だから、気軽に国外に出ることは出来ない。国に、土地に縛られているから、身動きが取れない。
 でも、画期的な技術や、知識というものは秘匿されがちなのだ。それを手に入れるために隠密達がいる。

 でも、人伝ての情報ではなく、自分で見たいと思ってしまった。

「なるほどね。ちなみにそれって、僕も付いていっていいやつ?」
「むしろ、魔法関連なんかはノワールの専門分野だし、来てくれるとありがたいよ。それに、自分以外の視点って大切だと思うから。」
「そっか。じゃあ、四人旅かな?」
「うん、四人いればちょっと危ないところも通れるしね。」
「あはは、それはあの二人に止められるんじゃないかな?」
「そうかもね。…ほら、早くギルドに行こ。明日は二人も連れて、軽い依頼でも熟そうか。」
「そうだね。…あの二人は冒険者登録してるのかな?」
「してなければ明日すればいいよ。」
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

だから言ったでしょう?

わらびもち
恋愛
ロザリンドの夫は職場で若い女性から手製の菓子を貰っている。 その行為がどれだけ妻を傷つけるのか、そしてどれだけ危険なのかを理解しない夫。 ロザリンドはそんな夫に失望したーーー。

初恋が綺麗に終わらない

わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。 そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。 今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。 そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。 もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。 ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香
恋愛
生徒会室で、いつものように仕事をしていた私は、婚約者であるフィリップ殿下に「私は運命の相手を見つけたのだ」と一人の令嬢を紹介されました。 運命の相手ですか、それでは邪魔者は不要ですね。 殿下、婚約破棄致しましょう。 第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。 応援して下さった皆様ありがとうございます。 リクエスト頂いたお話の更新はもうしばらくお待ち下さいませ。

処理中です...