25 / 34
一年間の休息
〇〇へ
しおりを挟む
手紙を書くと言ったものの、どこから書こうかと悩む。
実は、書かなければいけない手紙は沢山ある。釣書関連のものはお父様が肩代わりしてくれているが、それを除いてもそれなりの数になるだろう。
宛先は、エヴァリスト様のご両親、これまで私に散々嫌がらせをしてきた御令嬢方、同じく夜会などで散々言い寄ってきた御令息方、それからこの度私の我儘を聞き入れてくださった両陛下だ。
お父様にも書いた方がいいと言われたし、仕事は早く片付けたいタチだ。
正直、御令嬢や御令息への手紙は書くのが面倒だ。でも、これ以上私を、ひいてはバーティン公爵家を舐めてかかられると困るのだ。
正確に言えば、困るのは私ではなくあちらの親御さん達なのだが。自分達の行動がどんな影響を持つのか学ぶいい機会になるだろう。
まずは両陛下へのお礼の手紙を書こうか。
普段、簡単な手紙を書く時は海のような色のガラスペンを使うが、今日は量も多いため、仕事の時に持ち歩く漆黒の万年筆を使うことにする。
両陛下への手紙は、季節の挨拶に始まり、この度の婚約解消で手を煩わせてしまったことに対する謝罪、聞き入れてくださったことへの感謝を綴った。
次に書いたのはエヴァリスト様のご両親に宛てたものだ。
内容としては、今回の件の詳細と、今後の付き合いを考えさせて頂くというもの。有り体に言えば、おたくの息子はこんなことしてましたよ、今までは婚約者という立場だったからある程度便宜を図ってたけど、それももうしないよ、ということだ。
私は何かと手広くやっているし、コネだってある。私が不快だと言えば、皆関わり合いになるのを防ぐだろうし、そうなれば、宰相と雖も厳しくなるだろう。人の上に立つということは、それだけ多くの人と関わらなければならないということだ。
ただでさえ、うちの国は派閥があり対立しているのに、どちらにもそれなりの影響力を持つ私を敵に回したくはないだろう。
まぁ、これでもなんのお咎めもなしなら、この国を出て行くことも視野に入れなければならないかもしれない。
沈みゆく泥舟に乗っていたいと思う程、私はこの国を愛していない。
次に書いたのは、御令嬢方への手紙だ。
ここからが一番骨の折れる作業になるだろう。書くことは大して変わらなくても、いかんせん数が多いのだ。両手両足の指を使っても足りない程の人数に、それなりに気を遣った、尚且つ嫌味な手紙を書かなければいけないのだから。
言葉遊びは貴族の十八番と言っても、この人数になるとボキャブラリーにも限界がある。
でも、私の手紙は絶対お茶会でネタにされるだろうから、それを考慮してウィットに富んだ嫌味を一人一人に贈りたい。
うんうん唸りながら、一人一人にあんなことしてくれましたよね、と想い出を語った手紙はさぞかし嫌味なことだろう。しかも、表向きは友好的な文面で、だ。
最後に御令息方への手紙を書いた。
こちらも御令嬢方といい勝負な数で、宛名を書いていて思わず溜息が出た。
だって、私が手紙を書いた分だけ、私の価値を微塵も理解していない人物がいるということだから。こうして目に見える形にすると、私の努力は無駄だったのかと少し悲しくなる。
彼らへの手紙は、如何に彼らが私から見て論外なのか語った内容だ。ちくちくと針で刺すような嫌味を散りばめもした。それくらいしないと、やってられない数だった。
御令嬢と御令息への手紙には、追伸として家との付き合いを考えさせて頂くようなことを匂わせた。
休暇として貰った一年間。私は本当に休もうなんて露ほども思っていない。
全ては鬱陶しい現状を変えるための一年であり、貴族の私から離れる一年だ。
書いた手紙は全てロザリーに渡し、雪に閉ざされる前に届けて戻って来れる人に託してとお願いした。
実は、書かなければいけない手紙は沢山ある。釣書関連のものはお父様が肩代わりしてくれているが、それを除いてもそれなりの数になるだろう。
宛先は、エヴァリスト様のご両親、これまで私に散々嫌がらせをしてきた御令嬢方、同じく夜会などで散々言い寄ってきた御令息方、それからこの度私の我儘を聞き入れてくださった両陛下だ。
お父様にも書いた方がいいと言われたし、仕事は早く片付けたいタチだ。
正直、御令嬢や御令息への手紙は書くのが面倒だ。でも、これ以上私を、ひいてはバーティン公爵家を舐めてかかられると困るのだ。
正確に言えば、困るのは私ではなくあちらの親御さん達なのだが。自分達の行動がどんな影響を持つのか学ぶいい機会になるだろう。
まずは両陛下へのお礼の手紙を書こうか。
普段、簡単な手紙を書く時は海のような色のガラスペンを使うが、今日は量も多いため、仕事の時に持ち歩く漆黒の万年筆を使うことにする。
両陛下への手紙は、季節の挨拶に始まり、この度の婚約解消で手を煩わせてしまったことに対する謝罪、聞き入れてくださったことへの感謝を綴った。
次に書いたのはエヴァリスト様のご両親に宛てたものだ。
内容としては、今回の件の詳細と、今後の付き合いを考えさせて頂くというもの。有り体に言えば、おたくの息子はこんなことしてましたよ、今までは婚約者という立場だったからある程度便宜を図ってたけど、それももうしないよ、ということだ。
私は何かと手広くやっているし、コネだってある。私が不快だと言えば、皆関わり合いになるのを防ぐだろうし、そうなれば、宰相と雖も厳しくなるだろう。人の上に立つということは、それだけ多くの人と関わらなければならないということだ。
ただでさえ、うちの国は派閥があり対立しているのに、どちらにもそれなりの影響力を持つ私を敵に回したくはないだろう。
まぁ、これでもなんのお咎めもなしなら、この国を出て行くことも視野に入れなければならないかもしれない。
沈みゆく泥舟に乗っていたいと思う程、私はこの国を愛していない。
次に書いたのは、御令嬢方への手紙だ。
ここからが一番骨の折れる作業になるだろう。書くことは大して変わらなくても、いかんせん数が多いのだ。両手両足の指を使っても足りない程の人数に、それなりに気を遣った、尚且つ嫌味な手紙を書かなければいけないのだから。
言葉遊びは貴族の十八番と言っても、この人数になるとボキャブラリーにも限界がある。
でも、私の手紙は絶対お茶会でネタにされるだろうから、それを考慮してウィットに富んだ嫌味を一人一人に贈りたい。
うんうん唸りながら、一人一人にあんなことしてくれましたよね、と想い出を語った手紙はさぞかし嫌味なことだろう。しかも、表向きは友好的な文面で、だ。
最後に御令息方への手紙を書いた。
こちらも御令嬢方といい勝負な数で、宛名を書いていて思わず溜息が出た。
だって、私が手紙を書いた分だけ、私の価値を微塵も理解していない人物がいるということだから。こうして目に見える形にすると、私の努力は無駄だったのかと少し悲しくなる。
彼らへの手紙は、如何に彼らが私から見て論外なのか語った内容だ。ちくちくと針で刺すような嫌味を散りばめもした。それくらいしないと、やってられない数だった。
御令嬢と御令息への手紙には、追伸として家との付き合いを考えさせて頂くようなことを匂わせた。
休暇として貰った一年間。私は本当に休もうなんて露ほども思っていない。
全ては鬱陶しい現状を変えるための一年であり、貴族の私から離れる一年だ。
書いた手紙は全てロザリーに渡し、雪に閉ざされる前に届けて戻って来れる人に託してとお願いした。
181
お気に入りに追加
6,265
あなたにおすすめの小説

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

だから言ったでしょう?
わらびもち
恋愛
ロザリンドの夫は職場で若い女性から手製の菓子を貰っている。
その行為がどれだけ妻を傷つけるのか、そしてどれだけ危険なのかを理解しない夫。
ロザリンドはそんな夫に失望したーーー。

初恋が綺麗に終わらない
わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。
そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。
今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。
そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。
もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。
ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

【完結済み】婚約破棄致しましょう
木嶋うめ香
恋愛
生徒会室で、いつものように仕事をしていた私は、婚約者であるフィリップ殿下に「私は運命の相手を見つけたのだ」と一人の令嬢を紹介されました。
運命の相手ですか、それでは邪魔者は不要ですね。
殿下、婚約破棄致しましょう。
第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。
応援して下さった皆様ありがとうございます。
リクエスト頂いたお話の更新はもうしばらくお待ち下さいませ。

いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる