もう尽くして耐えるのは辞めます!!

月居 結深

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婚約期間

壊れた心

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 そんなことが続いて三年。私は可笑しくなってしまった。ストレスからか、元は青みがかった銀にも見える白髪だったのが完全な白髪になった。元から色がないに等しいから気づいた人間はまずいないだろう。

 次に食事を受け付けなくなった。小さい頃はよく食べる方だったが、成長するにつれ食が細くなり、ここ数年でさらに酷くなった。一日二日食べないのは当たり前で、食べれても少しだけといった具合だ。これには流石に気づかれて、周りにとても心配された。両親もこれには心配した。私が死ねば大事な道具がなくなってしまうからだろうけど。

 食事を受け付けなってからしばらくすると、どうしようもないくらい気分が沈んだ。毎日鬱々とした気持ちになって、軽率に死にたくなった。私の命が私だけのものでないと、私は分かっているのに。それでも、理屈じゃ説明できない衝動だった。実際、私は一度死のうとした。とてもじゃないが、生きてられなかった。愛して欲しい人には愛されないのが私の人生なら、そんなものはいらないと思った。生き地獄の中で生き恥を晒し続けるのなら、ここら辺で強制的に幕引きと行こう、と。

 庭師に頼んで、植えられていた鈴蘭を花瓶に飾ってもらった。庭師はまさか私が死のうとしているなんて思いもしなかっただろう。朝から飾ってもらい、夜一人になってから花を抜いて生けられていた水を飲み干した。

 一時間程すると症状が現れ、元々不健康な私は意識を失った。恐らくではあるが、致死量には達していたと思う。それなのに、運が悪いことに私は生き残った。物音を気にして見に来たメイドに見つかり、迅速な処置を施されたからなのだろう。


その日から私は絶対に一人にされなくなった。どんなに出て行けと叫んでも、私付きのメイドは出て行かなかった。

「御身に何かあればこの国が揺らぎます。ご自愛下さい。」

 ご自愛?笑わせないで。私のどこにそんな価値があるというの?私ごときの存在で国が揺らぐはずないじゃない。そう言いかけてやめた。死ねなかったからといって、何の罪もない彼女に八つ当たりするのは間違っている。

「貴族令嬢という立場の人間はそこらにいるわ。いなくなったって問題ないはずよ。」
「御身はただ一つでございます。代わりなど存在しません。」
「ロザリーにとってそうだとしても、この国にとっては違うわ。貴族令嬢はごまんといる。」
「いいえ、そんなことはありません。お嬢様はただ一人でございます。この国に貴女様の代わりが務まる令嬢はおりません。」

 客観的に見れば、ロザリーの言ってることは正しい。私程の教養を持ち、戦力としても数えられる令嬢はこの国にはいないかと思う。どちらかだけならいるだろうけど、両方ともなれば私だけになるだろう。

 でも、でもね、ロザリー、私は必要じゃないみたいなんだよ。

「ロザリーは私がどれだけ蔑ろにされているか知らないからそんなことを言えるのよ。もう外には出たくないわ。……ねぇ、私ってそんなにダメなのかしら。これでも淑女としても、一臣下としても頑張ったつもりなのよ?私の教育は皇太子妃よりも厳しいと言われたわ。それでも、望んだことだから何一つ手を抜かずに血反吐を吐く思いでこなしたわ。…それでも評価してくれるのは本当に評価して欲しい人じゃない。思いつく限りを精一杯やったのに、これ以上ない程国のため、彼のため、努力を惜しむことなくしたのに。これでもダメなら、もうダメじゃない。私、もう疲れちゃったわ。この国のより良い未来のために、自分に出来ることは何でもしてきたつもりなのよ?………でも、まぁ、自己満足なだけだったのかもしれないわね。」
「お嬢様は疲れてらっしゃるのです。ロザリーはお嬢様が身を粉にして物事に取り組んでいたことを知っております。誰よりも近くで見てまいりました。ですから、このあたりで休憩に致しましょう。お嬢様が一年くらい社交界に現れなくても誰も文句は言えませんよ。それくらい、貴女様は頑張っていらっしゃいました。」
「ロザリーは昔から私を買い被りすぎだわ。私は労られる程出来た人間じゃないのよ?…私の初恋を強制終了させた第二皇女殿下のことを憎くないといえば嘘になるし、噂が耳に入っているはずなのに何もしない両陛下には本当に体制を変えるつもりがあるのかって思うし、命に関わること以外で心配しもしない両親には呆れるし、私の諫言に耳を貸そうともしない婚約者には殆困ってるわ。でも、そんな彼を未だに好きでいる自分に何よりも腹がたつの。………私もうボロボロだわ。令嬢としての尊厳とか矜恃とか、そういうの全部粉々にされた気分。」
「お嬢様……。しばらくは、外にも出なくていいと思います。社交だって休んでしまいましょう。あんなことがあった後です、旦那様も奥様も許して下さるはずです。」
「そうかしら、お前の心が弱いからだと言われないかしら。」
「もしそんなことを言われたら、このロザリーが旦那様に辞表を叩きつけてお嬢様を攫って差し上げます。」
「ふふっ、それは楽しみね。」

 久しぶりに自然に笑ったことに自分でも驚いた。私はまだ笑えたんだと、なんてことないことなのに感動した。
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