死にたい僕と黒銀の魔女

コトノハ

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1章

1 The Magician 〜魔女と僕の出会い3〜

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  彼女は、面倒くさそうに玄関に向かった。
「わかった、うるさい。もう少し静かに人を訪ねら……」
 彼女が話終える前に、ヒールのコツコツとした足音が聞こえた。
 寝室に入って来た女は
「やぁ!君が噂の異世界人だね。早速問診させて貰うからね。」
 そう言うと、僕の枕元に腰掛けて手首を握りしめた。
「ちょっと!いきなり何するんだよ!」
「……何って問診だけど。……あれ、ちょっとかん?もしかして貴女、何も話してないんじゃないかしら?」
「……」
「ちょっと貴女って人は!?なんでそう言葉足らずなの!?」
「そ、それにここの人たちは、誰も名前を名乗らないんだな。」
 僕は、少し気がたっていた。
 元々あまり体を触られるのは慣れていないし、身元も分からない人達に体をいじられるのは流石にに恥ずかしくて気が引けていた。
「私としたことが……ごめんなさいね。
 あたしはヴァニタ・ヘルトよ。医者をしているわ。かんに貴方の身体を見るように言われたの。体調が優れないみたいだから。」
「……かんっていうのがそいつの名前なの?」
「そ、そうだけど……まさかあんた名前、まだ名乗ってなかったの……?」
「……」
 先程から彼女は黙り込んでいる。ヴァニタとかいう女に圧されているようだった。
「……あ、かん。だ。雨宮かん。名前が、かん。」
小さい声でたどたどしく顔を背けながら話した。
「ごめん、怒って悪かった、よろしくお願いします。」
「あ、っえ。良いのよ!大丈夫あたしに任せて。ごめんなさいね、かんも私も説明不足で。かんはちょっと言葉足らず過ぎるけど……」
「ああ、、本当に何も知らない。」
「……」
「人見知りもここまで来ると病気ね。」

 ヴァニタは、検診を終えると僕について幾つか質問した。

「そうだったの。それは災難だったわね、この子に拾われたのが幸いと言うべきなのか、災いなのか。」
「……どういう意味だ。」
彼女は少し機嫌が悪そうに腰掛けた。
「……で、これからどうするの?貴方達。」
どうすればいいのだろう、ここで生きて行く方法など、僕には検討もつかない。
「……そういえば、貴方弟子をとるように言われてなかった?勅命でしょ?どうしたのよ。」
「……まだ決めてない、お前なぜ知っているんだ。機密だぞ?」
「貴方、いっつも書類出しっぱなしなんだもの。」
「……おい、下手すると首が飛ぶぞ?」
「まぁまぁ、そんなことより。あたしいい事思いついたんだけれど!」
「……嫌な予感しかしない。」
「僕もだよ。」
「そう言わずにっ!貴方はこの世界の事情を知らない。かんは弟子を取らないとまずいでしょ?利害の一致じゃないかしら!?どう?僕……魔術師になる気は無いかしら?」
「魔術師……?」
「ええ、この国は人材が不足しているのよ。だから少しでも適性があれば重宝される。この世界で生きていく力になる。」
「魔術に適性があればな。」
かんはキッパリと言った。
「最悪魔法でも。」
「魔法はダメだ。」
「どちらにしろ、弟子をとりなさい。」
「……わかった。おいお前……」
そう言って彼女は顔の近くに手を置いた。
「契約をしよう。お互い平等な関係であれるように。……魔力は感じられるし適性はあるようだな。」
「契約って貴方!そこまでしなくても……」
「駄目だ。」
「……まだ引きずってんのね。」
「さぁ、覚悟を決めろ。取り消すことは出来ないからな。」
「僕はそこまでして生きたいとは思わない。」
「なら、なぜ飯を食べた。死にたくないからだろう。」
確かに、僕には死ぬ度胸は無い。
「分かった。契約……するよ。」

「汝、此処に契約を交わす。生涯を終えるまで弟子とし努めよ。 我此処に生涯必要な知識、衣食住を保証する。」

無茶苦茶だとも思う。
だが、ここまで来ればどうにでもなれとも思った。
身体の周りを青白い光が覆った。
体から出ていくものと、入るものを感じた。

ーーこうして彼女との生活は始まった。
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