上 下
2 / 2

後編

しおりを挟む
 彼は自分の母がしていたことを知らなかったようだった。

「知らなかったんだ! 何も! 知っていたら助けようとしたよ! 間違いなく! だから許して! 僕は悪くないんだ!」

 彼は必死に引き留めようとした。
 けれど無駄な努力だ。
 私の心はとうに決まっている。

「さようなら、アロン」

 こうして婚約は破棄となった。

 その後、私が治安維持組織に提出した虐めの証拠によって、アロンの母が築いてきたものはすべて崩壊した。

 彼女は犯罪者となった。

 それまで彼女を素晴らしい女性だと讃えていた『女性協会』はそれを撤回、関係も解消。また、騙されていたということで、彼女へ償いの金の支払いを求める事態にまで発展する。

 それからもアロンの母は関わりのあった複数の組織から関係解消を告げられる。

 さらに、行いの詳しい内容が世に出るにつれ、彼女を強く批判する者が出現。中には過激な人もいて。家に大量の卵が投げ込まれたり、門に落書きされたり、ごみを庭に山盛りにされたりすることもあったようだ。

 また、時には、当人であるアロンの母のみならずアロンをはじめとする周辺にまで批判の矛先が向くこともあったそうだ。

 一方私はというと。

 婚約破棄後しばらくはいくつかの手続きを同時に行わなくてはならず忙しかったが、その後数年して別の男性と結ばれることができた。

 今は二人の子にも恵まれ穏やかに生活している。

 最近は夫の影響で山菜採りを始めた。
 これが案外楽しくて。
 楽しいこと、趣味があるだけで、日々がより一層煌めくように感じる。


◆終わり◆
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

完結 嫌われ夫人は愛想を尽かす

音爽(ネソウ)
恋愛
請われての結婚だった、でもそれは上辺だけ。

婚約者が裏でこっそり姫と付き合っていました!? ~あの時離れておいて良かったと思います、後悔はありません~

四季
恋愛
婚約者が裏でこっそり姫と付き合っていました!? あの時離れておいて良かったと思います、後悔はありません。

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

やって良かったの声「婚約破棄してきた王太子殿下にざまぁしてやりましたわ!」

家紋武範
恋愛
 ポチャ娘のミゼット公爵令嬢は突然、王太子殿下より婚約破棄を受けてしまう。殿下の後ろにはピンクブロンドの男爵令嬢。  ミゼットは余りのショックで寝込んでしまうのだった。

執着はありません。婚約者の座、譲りますよ

四季
恋愛
ニーナには婚約者がいる。 カインという青年である。 彼は周囲の人たちにはとても親切だが、実は裏の顔があって……。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

私の主張は少しも聞いてくださらないのですね

四季
恋愛
王女マリエラは、婚約者のブラウン王子から、突然婚約破棄を告げられてしまう。 隣国の王族である二人の戦いはやがて大きな渦となり、両国の関係性をも変えてしまうことになって……。

処理中です...