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前編
しおりを挟む我が婚約者ウィールズはとことん身勝手な青年だった。
彼は甘やかされて育った。
そのせいか自分が言ったことは周りの人間がすぐに叶えてくれるのだと思い込んでいる。
それゆえ、思い通りにならないことがあるとすぐに怒り出す。
しかもその怒り方が大変幼稚。
手足をじたばたさせたり、頬をふぐのように大きく膨らませたり、びええと泣いたり――その様はまるで幼児のようである。
そんな彼との付き合いに私はいつも大変苦労していたのだが。
「僕が食べたかったお菓子先に食べたぁぁぁ!! ぶぃいえぇぇぇぇぇぇ!!」
ある日のティータイム中、私がクッキーを一枚口にしたところ、急にそんなことを言われ号泣されてしまって。
「もう嫌! 婚約破棄する! 婚約破棄ぃぃぃぃ! 大嫌い、大嫌い、だいっきらいだああぁぁぁ!」
さらにはそんなことまで言われ。
結果、そんな些細なことを理由に婚約破棄されてしまった。
ウィールズの両親は彼の味方だった。
だから正当な理由なんてないのに力押しで婚約破棄に持ち込まれてしまったのであった。
どうして……。
ただお菓子を食べただけなのに……。
だがしかし、後になってよくよく考えてみれば、この展開は私にとって悪いものではなかったと気づいた。
だって、面倒臭いウィールズから解放されるのだ。
それが悪い展開なはずがない。
幼稚で自分勝手過ぎるウィールズとも、そんな彼の味方ばかりをしていまだに息子を甘やかしているウィールズの両親とも、これで縁を切れる。
そう考えてみれば悪いことばかりではない。
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