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前編

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 私は生まれつき凄まじい魔力を持っていた。
 けれどもそれを使ってはこなかった。
 なぜなら、そのようなことをしたら周りが怯えてしまうからだ。

 幼い頃、大好きだった母に言われた言葉。

『その力を使っては駄目よ、皆を怯えさせてしまうからね』

 私はその言葉を大切に守ってきた。

 大好きな今は亡き母の言葉。
 それは絶対だ。
 あの人が言ったことに逆らうことなんてない。

 そう思っていたのだけれど。

「お前ってさぁ、ほーんとクソだよな。クソって意味分かるか? あ、無理か。脳になーんにも詰まってねーんだもんな。ばーかばーか。お前がそんなんじゃ、親もきっとクソしかねーんだろーな。特におかんな。お前のおかんなんて、どーせ、生きてても酸素無駄遣いするだけの迷惑かけマシーンだったんだろーなぁ」

 婚約者アブリルからそう言われた時、私は耐えられなくなった。

 人間の我慢には限界がある。
 ありとあらゆる物事を許せる者などいない。

 これまで、彼や彼の親や侍女から色々意地悪されてきたけれど、それにはずっと静かに耐えてきた。

 でも母を馬鹿にされては黙っていられない。

 もう我慢できない。
 これ以上耐えることはできない。

 私にだって感情の波はあるのだ。
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