過ぎ去りし、帰らぬ日

四季

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5話

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 唐突に飛び出した問いに、宰次は考え込む。即座に答えを出すことはできなかったのだろう。

 未来に関する問い——それは、答えるのが特に難しい類の問いだ。
 過去のことに関する問いなら、既に事実があるため、それを答えるだけでいい。現在に関する問いでも、今の自分に分かることを分かる範囲で答えればそれで済む。だからそこまで難しくはない。
 けれど未来は、誰も知らない未知なる領域だ。だから答えるのが難しい。

「そうですな……」

 もちろん、答えるだけなら簡単だ。
 ……答えるだけなら。

「未来は分かりませんな。いつ何があってどうなるか分かりませんからな」

 彼の答えに瑞穂はしゅんとした顔をする。

「……まぁ、そうよね」
「しかし『絶対』と言えないだけですからな。僕としては、これからも瑞穂とドーナツを楽しむつもりですよ」
「本当!?」
「もちろん。僕は嘘はつきませんから」

 すると瑞穂は、ほっとしたように勢いよく息を吐き出す。
 強張っていた頬が一気に緩んだ。

「ありがとう! これからも一緒に食べたい!」

 すっかり元気を取り戻した瑞穂。
 先程の問いの答えが彼女にとってどのくらい重要だったのか。それは、今の彼女の喜びようを見れば、誰にでも容易く分かる。

「もちろんそのつもりでいますからな」
「嬉しいわ!」

 そう言ってはしゃぐ瑞穂を横目に、宰次は小さく「何もなければ……ね」と呟く。その顔はどこか寂しげにも見える。

 もっとも、瑞穂がそれに気づくはずもないが。


 ◆


 一年後の冬。
 宰次は一人、芦途駅前のドーナツ専門店に来ていた。

「いらっしゃいませ!」

 彼が入店すると、待ち構えていたアルバイトの女子高校生が元気よく声をかける。彼はその声を無視し、愛想なく注文する。そして、一直線に、一番端の二人席へと向かった。今の彼はあまり他人と関わりたくなかったのだ。

 椅子に腰掛け、白砂糖がまぶされたドーナツを口に運ぶ宰次。

 あの日と同じ時間帯で、あの日と同じ席で、あの日と同じものを食べている。だが、彼へ視線を向ける者は一人もいない。

「……こんなつもりではなかったのですがな」

 白い花は散った。

 一年前、向かいの席で笑っていた彼女は、もういない。


◆終わり◆
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