山中の出会い

四季

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前編

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 あたしには両親と二人の妹がいる。
 第三者から見ればあたしは恵まれているのかもしれないけれど、あたしはこの家族と人生が嫌。

 パラリパ教を信仰する家に生まれたことは置いておくとしても、長女だから良い子であることを求められるのは本当に不愉快。

 そんな思いを抱えて、家出中。

 今夜は星が多い。山中でも多少光が差し込んでくる。それでも十代後半の女子が歩くには物騒な道だけれど。でも、今のあたしは、行く場所の物騒さなんてどうでもいい。背中から二本触手が生えた父親と関わり続けるくらいなら、山中で孤独に夜を明かす方がまだましだ。

 とはいえ、夜道は少々不安。
 一応術書を持ってきたけれど、もし何かに襲われたらと思うと怖さもある。

 それでもあたしは進む。今から引き返して家に帰る、なんていうのは、屈辱過ぎるから。怖くても進む。足を進めることを止めない。

 ◆

 突如、右手側の草むらがガサガサと音を立てた。風は吹いていない。だからなおさら気味が悪い。それでも対策を取ることはできないから、あたしは足を進め続ける。

 だが平穏は破られた。
 先ほど揺れた草むらから、大型の猪のような生き物が現れたのである。

「……っ!?」

 それも、一匹ではなく、数匹いる。

 これはまずい。
 脳内に焦りが広がり、全身の毛穴から汗が噴き出す。

「い……やっ……」

 数匹いるうちの一匹に襲いかかられそうになっていた時、何者かが草むらから飛び出してきた。猪のような生き物の仲間かもと思い、一瞬落ち着きを失いそうになる。が、急に飛び出てきた者は、あたしではなく猪のような生き物の方へと進んでいっていた。

 あたしはもはや何もできず、その場にへたり込む。

 現れたのはどうやら青年のようだった。闇に溶けるような色の髪をしたその青年は、猪のような生き物一体に赤黒い紙切れのようなものを貼り付ける。

「爆!」

 青年が声を放つと、紙切れが爆発。
 猪のような生き物はその爆発に巻き込まれて消滅した。

「大丈夫かい?」

 青年は振り返り、腰を抜かしているあたしへと顔を向ける。左目を色つきの包帯のようなもので隠しているところはミステリアスだが、そこまで悪い人には見えない。

「だ、誰……? どうしてこんなところに……?」
「それはこっちのセリフ。お嬢さんが一人で山道を歩いているなんて激レアだよ」
「放っておいて! べつにアンタには関係なーーって、危ない! 後ろっ!!」

 青年は確かに猪のような生き物を倒した。が、まだ全個体を倒せたわけではない。そして今、青年の背後にまで数匹が迫っていた。口もとの大きな牙で青年に噛み付こうとしている。
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