ある日のこと

四季

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後編

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「ごめんなさい、驚かせたかしら」
「い、いや、べつに。ウタくんが来るとは思っていなかったが……」
「やっぱり驚かせてしまったみたいね」
「いや、そんなことはない。係の者が来たかと思ってどきりとしただけだ」

 ウィクトルはまだしばらく横になっているようにと指示されていた。が、その指示に従わず、ベッドの上で座るような体勢を取っていたのだ。そのため、指示に従っていないところを見られたかと思い、どきりとしたのである。

 もっとも、ウタはそんなことは知らないし、ウィクトルもそのことを説明しなかったのだが。

「そう。なら良かったわ。……それにしても。驚いたわ、貴方が負傷なんて」

 言いながら、ウタはウィクトルの方へと歩み寄る。
 リベルテは後ろで二人を見守るだけ。

「負傷といってもたいしたことはない。ただ流れ弾に当たっただけだ」
「確かに元気そうね」

 変わったところというと首に包帯が巻かれているところくらいのもの。見た感じ大きな変化はない。それに、発する声も弱々しくはないし、意識などにも特に問題はない様子。

「……情けないと思っているのか?」
「いいえ。特にそうは思わないけれど」
「そうか!」
「いきなり大きな声を出さないでちょうだい」
「す……すまん」

 注意されて落ち込み、小さくなるウィクトル。

「怒っているわけじゃないのよ。ただ、怪我しているのに大騒ぎするのは問題でしょう? ……でも、何はともあれ、大丈夫そうで良かったわ」
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