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1話 それは嘘です

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「王子様、この方です! この方が私のことをいつも虐めてくるのです!」

 面と向かってそんなことを言われたのは、晩餐会の最中だった。

 私ーーアリア・フルーレは、その少女の発言にただただ困惑することしかできない。

 婚約者であったはずの王子に寄り添うように立つ少女が私のことを悪く言う。私が虐めた、などと、根拠も何もありはしないことを口にする。しかも、王子はそれを信じているようで、私を悪魔を見るような目で見てくる。
 突然こんなことになってしまってすぐに何が起こっているのか分かる人なんて、多くはいないはず。今の私の立場になったなら、誰だってこの気持ちを理解するだろう。

「ちょっと待って、貴女、何の話をーー」
「聞いてください王子様! 私はずっと嫌がらせを受けてきました。飲み物に雑巾の絞り汁を入れられたり、部屋の花を枯らされたり……信じて下さい……!」

 飲み物に雑巾の絞り汁!? 私雑巾は使わないわよ! そもそもその犯人が私だという根拠がどこに!? もし根拠もなく言っているのだとしたら、なおさらおかしな話だし……。

「それは酷いな、リリーナはこんなに良い子だというのに」
「分かってくださってありがとうございます、王子様……!」

 リリーナとやらは瞳をわざとらしく潤ませながら王子を見つめる。
 小動物のような可愛らしさを意図的に強調しているところがあざとい。
 私だってできればこんなことは言いたくない。が、これはさすがに言わざるを得ない。あざとすぎる、と。だが、騙す方は悪いが、騙される方も騙される方だ。少し頭を使って考えれば、彼女の言い分が不自然であることに気づくだろうに。

「聞いたか、アリア! 今の話を!」
「すべて嘘です」

 はっきりと言わせてもらう。
 私を貶めるための嘘を嘘であると言ってはならない理由なんてないはず。

「嘘なものか! 彼女は嘘をつくような女性ではない」
「大嘘つきです」
「それはお前だろう! アリア・フルーレ!」
「……根拠がありません」

 王子は馬鹿だったのか。
 とても残念、という言葉しか、今は思い浮かばない。

「根拠ならある! リリーナの発言だ!」

 あぁ、この人は本当にそういう人なのだな。そう思った時、私はすべてを諦めた。彼に理解してもらうことは不可能、そう判断した。傍らにいるリリーナがニヤリと笑っていることすら気づいていない王子には、何も言っても無駄だろう。

「よって、アリア・フルーレ! お前との婚約を破棄する!」

 やはりこうなってしまった。でも驚きはしない。気に入らないことがあるとすぐに怒り出す王子だ、いずれそう出てくるだろうと予想はしていた。

 それに、私は知っていたのだ。

 彼がリリーナと肉体関係を持っていることを。
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