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前編

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 その雨降りの日、私は一人の青年に出会った。

 道端に座り込んで泣いていた私に、穏やかな表情で傘を差し出してくれた彼――エルフィン、彼を今も愛している。


 ◆


 あれは梅雨時だった。

 当時の私にはルルゼンという名の婚約者がいてそこそこ上手くやっていた。だが彼には本命の女性がいて。私との婚約は彼の本当の望みではなかった。そうであるかのように言っていたのは、ただ言っていただけであった。

「やはり君と結婚するのはやめることにした」

 その日、ルルゼンは、私にそう告げた。

「家のこともあるから一応君との縁も置いておこうとは思っていたのだが、少し事情が変わった。もう君とは生きてゆけない。よって、婚約は破棄とする。そういうことだから、君とは今日でお別れだ」

 そうして私は切り捨てられた。

 お願い、せめて何か言わせて。そう言いたかったけれど。それすら叶わぬ願いで。その時の私には何か言葉を発する権利はなく。彼の前から去る、それしか選択肢はなかった。

 で、最初のところ、エルフィンとの出会いに至るのだ。

 道端で濡れることも気にせず泣いていたのは、ルルゼンから婚約破棄を告げられたからである。

 その後私は実家へは戻らず、エルフィンのところでお世話になることとなった。

 実家へ戻ればきっと色々言われてしまう。
 そんな気がして。
 親のところへは戻りたくなかったのだ。
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