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後編
しおりを挟む「さようなら、クルドッサンさん」
「ま、待て! 話をしよう! もっと、落ち着いて!」
「落ち着いて? 私は今、冷静ですよ」
「君は混乱している!」
「混乱しているとしたら貴方ですね」
「くっ……」
「ではこれにて、さようなら」
もうこれ以上話をする気はない。
私は静かにクルドッサンの前から去った。
◆
あれからひと月ほどが経ち聞いた話によれば、クルドッサンはあの後婚約破棄されたことに関して友人らに笑われ色々言われてしまったために絶望し、『恥を晒して生きていくのは嫌だ』という書き置きを残して自ら死を選んだそうだ。
何もそこまでしなくていいのに……、と思いつつ、その話を聞いた。
けれども心は揺れなかった。
彼への感情はこの胸にはほぼなかったから。
すべては彼の選択の結果だ。
そして今、私はというと、姉と共に実家に住んでクロワッサン作りを手伝っている。
最近出した新商品――日替わりクロワッサン、それは、毎日違う味がつけられたクロワッサン。
それを考案したのは私だ。
ここのところそれが爆発的に売れているので、恐らく、この店は大きく発展してゆくだろう。
「今日も凄い売れ方だな!」
「姉さま、どのくらい売れたの?」
「百二十」
「午前だけで?」
「そう」
「おおー、なかなかの数ね」
「今日もさすがって感じだな」
少々男性的な喋り方をする姉とは一緒にいて楽しい。彼女と一緒にいればさっぱりした気分でいられるから。ねちねちした要素がないところが心地よい。
「そういえば今度大量の注文が入ってた」
「え! いくつくらい?」
「五百」
「えええー!?」
「さすがに驚くよな」
「また頑張って一気に作らないと……」
「増員しないとな」
「そうね! 頑張らなくっちゃ!」
私は姉と共にこれからもクロワッサンを作り続けてゆく。
◆終わり◆
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