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『パーティーの最中婚約破棄を告げられましたが、彼はその後すぐ落命したようです。』
「フローリア・カテリア・オードレッド! 貴様との婚約、破棄とする!」
婚約者ゼイカルはあるパーティーの最中にそんなことを言ってきた。
彼の隣には知らない女がいる。
くるくると巻いた金髪が目立つ女である。
顔のわきにちょろりと垂らした毛を指でくるくると弄っているあたりがあざとい。
「メリー、彼女を、俺は選ぶ!」
「……本気で仰っているのですか? そのようなこと、皆の前で口にして恥ずかしくはないのでしょうか。浮気を暴露するようなものですけれど……」
「いいんだ! 愛がすべて、愛こそが正義!」
ゼイカルはメリーのことしか見えていないようだ。
「分かりました」
「早くそれを言えよ!」
……いやいや、めちゃくちゃ過ぎるだろう。
何を偉そうにそんなことを言っているのか?
悪いことをしていると気づけないのか?
「じゃあなフローリア、永遠にバイバイ」
その日の晩、ゼイカルはメリーを自室に呼び出しいちゃついていたようだが、雷が落ちて出火しその火に巻き込まれて二人共亡くなってしまったそうだ。
一緒に死ねて幸せだっただろうか?
結婚できなくて不幸だっただろうか?
……その答えは私には分からないけれど。
でも、二人には、結ばれて生きていくという幸せな未来はなかった。
◆
「ママ! これ食べたーい!」
「駄目よ」
「えーっ! なんでー? 駄目なのー?」
あれから数年、私は穏やかな家庭を築いた。
深く愛してくれる人と巡り合い結婚。
そして子にも恵まれて。
今はとても幸せだ。
「フローリア、これ持ってきたよ!」
「あ。ありがとう」
「言ってたやつ、これだよね?」
「ええ、そうよ」
暮らしの中の小さな幸せ、それを大事にして生きてゆきたい。
「ありがとう、助かったわ」
「また何でも言って」
「じゃあお水も貰っていいかしら」
「うん! じゃあ持ってくるよ。ちょっと待っててね!」
◆終わり◆
『その個性のせいでずっと愛されず育ってきました。しかしある時その力が世界を救うこととなり、そこから我が人生は大きく変わっていったのです。』
私は生まれつき普通の女性より腕力があった。
けれどもその個性は私に幸せをもたらしてはくれず、むしろ、悲しみや不幸をもたらすことの方が多かった。
両親は私を化け物だと呼び冷たい目を向けたし、同年代の人たちからも怪物だとか変なやつだとか言われながらずっと生きてきた。理解者はおらず、私はいつだって孤独。誰にも理解されず、誰からも愛されず、それでも死ぬわけにもいかないので息をし続けてきたのである。
そして、婚約者アルハレードからも、愛されはしなかった。
「お前との婚約だが、破棄とすることにした」
ある夏の日にそんなことを告げられて。
「今さらではあるが――ずっとお前のその怪力さにうんざりしていた。それでも付き合ってきたのはお前と同じかそれ以上の条件の女がなかなか見つからなかったからだ。けれどついに見つかった。お前より条件の良い女が。となればもう、お前のような怪物女と付き合う必要性など皆無だ。よって、関係はここで解消する」
はっきりとそこまで言われてしまい、切り捨てられてしまった。
アルハレードもやはり皆と同じだった。
婚約はしていたけれどだからといって私を愛してくれていたわけではなかったのだ。
結局、私を愛してくれる人なんていない……。
もう諦めよう。
そう思った。
愛されようなんて、愛されたいなんて、思うだけ無駄なことだったのだ。
私は一人で生きてゆく。
きっとそれしかない。
選べる道なんてそれ以外には存在しないのだ。
だから私は誰かと共に生きることは諦めたのだが――。
◆
ある時、隕石が降ってきた。
それが地上に当たれば国も世界も吹き飛んでなくなってしまう。世界消滅の危機、人類消滅の危機であった。あらゆる国が叡智を結集させて対処にあたろうとしたが、作戦はことごとく失敗に終わり。もう駄目だ、誰もがそう思うところまで隕石は迫ってくる。
私はそれをバットで撃ち返した。
――そして世界は救われた。
「世界を救ってくださってありがとうございます!」
「神様です!」
「貴女は女神さまですか!? ほんとすごいです!!」
「感謝感謝感謝マジ感謝」
「救世主です!」
私はまたたく間に時の人となる。
「いやもう神やん」
「あり得ねぇパワーだがすげぇ、世界救いやがった」
「感謝です!」
「ありがとうございます! 本当に! 危うく人類の歴史が終わってしまうところでした!」
こうして国のみならず世界を救った私のもとへは多数の王家より結婚希望が殺到――そして私は多数の国の王子を囲った逆ハーレムを形成することとなった。
これからは彼らと共に世界平和についても考えていこう。
人類の歴史とは争いと戦いの歴史だ。
けれども最大の危機を乗り越えた今なら、きっと、誰もが平和というものを大事にしようという心も少しくらいは持てるはず。
だからこそ、私は、世界平和のために歩み出した。
◆
ああそうだ、そういえば、なのだが。
アルハレードは言っていた女性と結婚したようだが幸せにはなれなかったようだ。
というのも、その女性は非常にプライドが高く、また信じられないくらいわがままかつ攻撃的な人だったそうなのである。
そのためアルハレードは結婚後は奴隷のように扱われて。
少しでも気に食わないことがあると罵倒されもっと酷い時には暴力まで奮われる、といったような日々に突入してしまったそうなのだ。
もちろん離婚など許されない。
つまり、その地獄に逃げ道はないのである。
◆終わり◆
「フローリア・カテリア・オードレッド! 貴様との婚約、破棄とする!」
婚約者ゼイカルはあるパーティーの最中にそんなことを言ってきた。
彼の隣には知らない女がいる。
くるくると巻いた金髪が目立つ女である。
顔のわきにちょろりと垂らした毛を指でくるくると弄っているあたりがあざとい。
「メリー、彼女を、俺は選ぶ!」
「……本気で仰っているのですか? そのようなこと、皆の前で口にして恥ずかしくはないのでしょうか。浮気を暴露するようなものですけれど……」
「いいんだ! 愛がすべて、愛こそが正義!」
ゼイカルはメリーのことしか見えていないようだ。
「分かりました」
「早くそれを言えよ!」
……いやいや、めちゃくちゃ過ぎるだろう。
何を偉そうにそんなことを言っているのか?
悪いことをしていると気づけないのか?
「じゃあなフローリア、永遠にバイバイ」
その日の晩、ゼイカルはメリーを自室に呼び出しいちゃついていたようだが、雷が落ちて出火しその火に巻き込まれて二人共亡くなってしまったそうだ。
一緒に死ねて幸せだっただろうか?
結婚できなくて不幸だっただろうか?
……その答えは私には分からないけれど。
でも、二人には、結ばれて生きていくという幸せな未来はなかった。
◆
「ママ! これ食べたーい!」
「駄目よ」
「えーっ! なんでー? 駄目なのー?」
あれから数年、私は穏やかな家庭を築いた。
深く愛してくれる人と巡り合い結婚。
そして子にも恵まれて。
今はとても幸せだ。
「フローリア、これ持ってきたよ!」
「あ。ありがとう」
「言ってたやつ、これだよね?」
「ええ、そうよ」
暮らしの中の小さな幸せ、それを大事にして生きてゆきたい。
「ありがとう、助かったわ」
「また何でも言って」
「じゃあお水も貰っていいかしら」
「うん! じゃあ持ってくるよ。ちょっと待っててね!」
◆終わり◆
『その個性のせいでずっと愛されず育ってきました。しかしある時その力が世界を救うこととなり、そこから我が人生は大きく変わっていったのです。』
私は生まれつき普通の女性より腕力があった。
けれどもその個性は私に幸せをもたらしてはくれず、むしろ、悲しみや不幸をもたらすことの方が多かった。
両親は私を化け物だと呼び冷たい目を向けたし、同年代の人たちからも怪物だとか変なやつだとか言われながらずっと生きてきた。理解者はおらず、私はいつだって孤独。誰にも理解されず、誰からも愛されず、それでも死ぬわけにもいかないので息をし続けてきたのである。
そして、婚約者アルハレードからも、愛されはしなかった。
「お前との婚約だが、破棄とすることにした」
ある夏の日にそんなことを告げられて。
「今さらではあるが――ずっとお前のその怪力さにうんざりしていた。それでも付き合ってきたのはお前と同じかそれ以上の条件の女がなかなか見つからなかったからだ。けれどついに見つかった。お前より条件の良い女が。となればもう、お前のような怪物女と付き合う必要性など皆無だ。よって、関係はここで解消する」
はっきりとそこまで言われてしまい、切り捨てられてしまった。
アルハレードもやはり皆と同じだった。
婚約はしていたけれどだからといって私を愛してくれていたわけではなかったのだ。
結局、私を愛してくれる人なんていない……。
もう諦めよう。
そう思った。
愛されようなんて、愛されたいなんて、思うだけ無駄なことだったのだ。
私は一人で生きてゆく。
きっとそれしかない。
選べる道なんてそれ以外には存在しないのだ。
だから私は誰かと共に生きることは諦めたのだが――。
◆
ある時、隕石が降ってきた。
それが地上に当たれば国も世界も吹き飛んでなくなってしまう。世界消滅の危機、人類消滅の危機であった。あらゆる国が叡智を結集させて対処にあたろうとしたが、作戦はことごとく失敗に終わり。もう駄目だ、誰もがそう思うところまで隕石は迫ってくる。
私はそれをバットで撃ち返した。
――そして世界は救われた。
「世界を救ってくださってありがとうございます!」
「神様です!」
「貴女は女神さまですか!? ほんとすごいです!!」
「感謝感謝感謝マジ感謝」
「救世主です!」
私はまたたく間に時の人となる。
「いやもう神やん」
「あり得ねぇパワーだがすげぇ、世界救いやがった」
「感謝です!」
「ありがとうございます! 本当に! 危うく人類の歴史が終わってしまうところでした!」
こうして国のみならず世界を救った私のもとへは多数の王家より結婚希望が殺到――そして私は多数の国の王子を囲った逆ハーレムを形成することとなった。
これからは彼らと共に世界平和についても考えていこう。
人類の歴史とは争いと戦いの歴史だ。
けれども最大の危機を乗り越えた今なら、きっと、誰もが平和というものを大事にしようという心も少しくらいは持てるはず。
だからこそ、私は、世界平和のために歩み出した。
◆
ああそうだ、そういえば、なのだが。
アルハレードは言っていた女性と結婚したようだが幸せにはなれなかったようだ。
というのも、その女性は非常にプライドが高く、また信じられないくらいわがままかつ攻撃的な人だったそうなのである。
そのためアルハレードは結婚後は奴隷のように扱われて。
少しでも気に食わないことがあると罵倒されもっと酷い時には暴力まで奮われる、といったような日々に突入してしまったそうなのだ。
もちろん離婚など許されない。
つまり、その地獄に逃げ道はないのである。
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