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妹にずっと虐められていましたが、あるパーティーにて王子に見初められまして……? ~時に人生は大きく変化する~
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妹リーファは姉である私のことを虐めることを生きがいとしていた。
そんなある日。
とある王都開催のパーティーの前日のことだ。
「お姉さまったらぁ、ほーんとだっさぁーい。そんなお姉さまには、こういうドレスがお似合いよー。虫を潰して出た汁をドレスに塗っておいて差し上げたわ。あーっはっはっはは! せいぜいそれを着て人前に出なさいな。うっふっふふふふ!」
私は着ていくために用意していたドレスを汚されてしまった。
この日のためにせっかく用意していたのに。ドレスはとんでもない状態に。美しい淡いブルーのドレスだったのだけれど、気持ち悪い汁でめちゃくちゃになってしまった。
「はぁ……」
これはさすがに溜め息が出てしまう。
とはいえ、今さら他のドレスを用意する時間はない――なので私は仕方なくそのドレスを着ていくことに決めて――不快ではあったけれどもそこに付着した汚れを丁寧に布で拭った。
……もっとも、それでも完全に元通りにはできなかったのだけれど。
でもあのままの状態で着るよりかはましだ。
前向きに、そう考えるようにして、私は少しでも希望を見つめようと努力した。
「あらお姉さま、本当にそれを着ていかれるの?」
「まぁそうするしかないもの」
「うふふっ、ま、そうよね。お金持ちじゃないしぃ。もう一着買ってもらえるほど親に愛されてもいないものね」
こんな酷いことをした妹と一緒にパーティー会場へ行かなくてはならないなんて不愉快さしかない。が、姉妹である以上別行動するというわけにもいかないので、妹と行動することになってしまうのは仕方のないことだ。姉妹としてこの世界に生まれ落ちた、それがすべてなのである。
「お姉さまはせいぜいこのわたくしの引き立て役になってちょうだい!」
「私はべつに男性に気に入ってほしいとは思っていないわ」
「なら! ちょうどいいわ! わたくしは良い男を捕まえたい、だからお姉さまはそのために協力してっ」
ドレスを滅茶苦茶にするような人間を支援する? そんな女が良い男を捕まえられるよう協力? ……馬鹿ではないだろうか。
私がどんな思いで今日を迎えたか、彼女は少しも察していないのか。
そういう思いが強くて。
さすがに「ええ協力するわ」とは返せなかった。
◆
そのパーティーにて、衝撃的な事件が起こった。
「わたくしぃ、リーファと申しますぅ。どうか、殿下、よろしくお願いしま――」
「貴女! とても美しい! 心惹かれました!」
王子フレラグンスが妹そっちのけで私のところへやって来たのだ。
「え……」
女性として華やかなのは私より妹のほうだ。だから私に寄ってくる者がいるなんて思っていなかった。それだけにかなり戸惑ってしまう。しかもその寄ってきている人が王子なのだから、なおさら戸惑いは大きい。
「その独創的な色みのドレスが素晴らしいですし、容姿もまとわれている雰囲気もすべて僕の理想の女性だ!」
フレラグンスの熱量はすさまじかった。
「あ、い、いや」
「どうかお名前を! 教えてくださいませんか!?」
「……リッシェリアです」
「おお! お名前までもお美しい!」
「えええ……」
こうして私はフレラグンスに気に入られたのだった。
「よければこの後二人でお茶でも。いかがです?」
「いえ、私は……」
「お嫌ですか?」
「そうではないのですけど……できれば妹も一緒に……」
「それは不要です」
「ええっ」
「僕が惚れているのは貴女なのですよリッシェリア様。ですから貴女と話したいのです」
断ろうと思った。
だって私だけが王子とお茶をしたなんて話になったら妹からもっといじめられそうな気がしたから。
けれども断らせてはもらえず。
やたらと強いフレラグンスの押しに圧倒されて、そのまま二人でお茶をするところにまで持ち込まれてしまった。
以降もフレラグンスより様々な方向からアプローチを受け、最終的に私は彼と結婚することとなる。
私はもう妹に虐められはしない。
なぜって、自由だから。
あの家にいなくてはならない理由なんてなくなったから。
私はフレラグンスのもとへ行った。
それはいじめからの解放でもあった。
◆
あの後妹は親の紹介で知り合ったそこそこお金は持っているものの年齢がかなり上な男性と婚約した。が、あまりにもわがままで。それによって愛想をつかされ、三ヶ月ももたず婚約破棄されてしまったそう。で、それによって妹は評判を悪くしてしまい、以降ある程度以上の条件の男性からはちっとも相手にされないようになってしまったそうだ。
「どうして、どうしてお姉さまができて、わたくしが結婚できないのよぉぉぉぉぉ……ムカつくムカつくムカつくううううううう!! おかしいでしょそんなの! そもそもあんな虫汁付きドレスを着た女に惚れるとか、王子もどうかしてんのよ! 明らかにわたくしのほうが可愛いし綺麗だし女として上でしょうがぁぁぁぁぁ……目節穴過ぎなのよおおおおおお!!」
今、妹の情緒は、かなり滅茶苦茶になってしまっているようだ。
恐らく、ずっと下に見ていた姉に先を越されたダメージが大きかったのだろう。
しかもその姉の結婚相手が王子だというのだから、衝撃はなおさら大きかったに違いない。
ちなみに私はというと、夫となったフレラグンスに大切にしてもらえている。
そしてそのおかげで日々心穏やかに過ごせている。
王城での暮らしにはすぐには慣れなかったけれど、でも、彼が傍にいて支えてくれていたからこそ徐々にでも慣れることができた。
今は、これから少しずつでも彼に恩返しができたら、と考えているところだ。
◆終わり◆
そんなある日。
とある王都開催のパーティーの前日のことだ。
「お姉さまったらぁ、ほーんとだっさぁーい。そんなお姉さまには、こういうドレスがお似合いよー。虫を潰して出た汁をドレスに塗っておいて差し上げたわ。あーっはっはっはは! せいぜいそれを着て人前に出なさいな。うっふっふふふふ!」
私は着ていくために用意していたドレスを汚されてしまった。
この日のためにせっかく用意していたのに。ドレスはとんでもない状態に。美しい淡いブルーのドレスだったのだけれど、気持ち悪い汁でめちゃくちゃになってしまった。
「はぁ……」
これはさすがに溜め息が出てしまう。
とはいえ、今さら他のドレスを用意する時間はない――なので私は仕方なくそのドレスを着ていくことに決めて――不快ではあったけれどもそこに付着した汚れを丁寧に布で拭った。
……もっとも、それでも完全に元通りにはできなかったのだけれど。
でもあのままの状態で着るよりかはましだ。
前向きに、そう考えるようにして、私は少しでも希望を見つめようと努力した。
「あらお姉さま、本当にそれを着ていかれるの?」
「まぁそうするしかないもの」
「うふふっ、ま、そうよね。お金持ちじゃないしぃ。もう一着買ってもらえるほど親に愛されてもいないものね」
こんな酷いことをした妹と一緒にパーティー会場へ行かなくてはならないなんて不愉快さしかない。が、姉妹である以上別行動するというわけにもいかないので、妹と行動することになってしまうのは仕方のないことだ。姉妹としてこの世界に生まれ落ちた、それがすべてなのである。
「お姉さまはせいぜいこのわたくしの引き立て役になってちょうだい!」
「私はべつに男性に気に入ってほしいとは思っていないわ」
「なら! ちょうどいいわ! わたくしは良い男を捕まえたい、だからお姉さまはそのために協力してっ」
ドレスを滅茶苦茶にするような人間を支援する? そんな女が良い男を捕まえられるよう協力? ……馬鹿ではないだろうか。
私がどんな思いで今日を迎えたか、彼女は少しも察していないのか。
そういう思いが強くて。
さすがに「ええ協力するわ」とは返せなかった。
◆
そのパーティーにて、衝撃的な事件が起こった。
「わたくしぃ、リーファと申しますぅ。どうか、殿下、よろしくお願いしま――」
「貴女! とても美しい! 心惹かれました!」
王子フレラグンスが妹そっちのけで私のところへやって来たのだ。
「え……」
女性として華やかなのは私より妹のほうだ。だから私に寄ってくる者がいるなんて思っていなかった。それだけにかなり戸惑ってしまう。しかもその寄ってきている人が王子なのだから、なおさら戸惑いは大きい。
「その独創的な色みのドレスが素晴らしいですし、容姿もまとわれている雰囲気もすべて僕の理想の女性だ!」
フレラグンスの熱量はすさまじかった。
「あ、い、いや」
「どうかお名前を! 教えてくださいませんか!?」
「……リッシェリアです」
「おお! お名前までもお美しい!」
「えええ……」
こうして私はフレラグンスに気に入られたのだった。
「よければこの後二人でお茶でも。いかがです?」
「いえ、私は……」
「お嫌ですか?」
「そうではないのですけど……できれば妹も一緒に……」
「それは不要です」
「ええっ」
「僕が惚れているのは貴女なのですよリッシェリア様。ですから貴女と話したいのです」
断ろうと思った。
だって私だけが王子とお茶をしたなんて話になったら妹からもっといじめられそうな気がしたから。
けれども断らせてはもらえず。
やたらと強いフレラグンスの押しに圧倒されて、そのまま二人でお茶をするところにまで持ち込まれてしまった。
以降もフレラグンスより様々な方向からアプローチを受け、最終的に私は彼と結婚することとなる。
私はもう妹に虐められはしない。
なぜって、自由だから。
あの家にいなくてはならない理由なんてなくなったから。
私はフレラグンスのもとへ行った。
それはいじめからの解放でもあった。
◆
あの後妹は親の紹介で知り合ったそこそこお金は持っているものの年齢がかなり上な男性と婚約した。が、あまりにもわがままで。それによって愛想をつかされ、三ヶ月ももたず婚約破棄されてしまったそう。で、それによって妹は評判を悪くしてしまい、以降ある程度以上の条件の男性からはちっとも相手にされないようになってしまったそうだ。
「どうして、どうしてお姉さまができて、わたくしが結婚できないのよぉぉぉぉぉ……ムカつくムカつくムカつくううううううう!! おかしいでしょそんなの! そもそもあんな虫汁付きドレスを着た女に惚れるとか、王子もどうかしてんのよ! 明らかにわたくしのほうが可愛いし綺麗だし女として上でしょうがぁぁぁぁぁ……目節穴過ぎなのよおおおおおお!!」
今、妹の情緒は、かなり滅茶苦茶になってしまっているようだ。
恐らく、ずっと下に見ていた姉に先を越されたダメージが大きかったのだろう。
しかもその姉の結婚相手が王子だというのだから、衝撃はなおさら大きかったに違いない。
ちなみに私はというと、夫となったフレラグンスに大切にしてもらえている。
そしてそのおかげで日々心穏やかに過ごせている。
王城での暮らしにはすぐには慣れなかったけれど、でも、彼が傍にいて支えてくれていたからこそ徐々にでも慣れることができた。
今は、これから少しずつでも彼に恩返しができたら、と考えているところだ。
◆終わり◆
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