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『可愛い妹が浮気されたうえ婚約破棄されました、なので姉として復讐いたします!』
その日可愛い妹ルルが婚約破棄された。
彼女の婚約者エベバーは美男子だった。しかしそれを利用し複数の女に手を出していたのだ。それも、可愛いルルと婚約しておきながら。婚約者を作っておきながら他の女にもお遊びで手を出す、なんという悪質な男だろうエベバーは。
「お姉ちゃんぅぅぅぅぅ! 悲しい悲しいよおおおお!」
ルルは抱きついてきて号泣。
懐かしい光景だ。
昔はよくこういう場面に遭遇した。
思えばルルはいつだって泣き虫だった。
「ああ、ああ、とにかく落ち着いてルル」
「だってだっでぇぇぇぇぇ!」
でもそんなところも含めてルルだ。
そういう少々面倒臭い感じの部分も合わせて、私は彼女を愛している。
「好きだったんだもぉぉんんんん!」
「エベバーさんのこと?」
「そうだよぉぉぉぉぉ! びええぇぇぇぇぇん! 好きだっだのにぃぃぃぃぃ! 婚約破棄されぢゃっでええぇぇぇぇぇ! 悲しいよぉぉぉぉぉ! びぃぃぃぃぃぃ!」
だから抱きつかれ号泣されてもルルを嫌いになったりはしない。たとえ服が彼女の涙と鼻水でぐしょぐしょになっても。それでも私は姉としてルルのことを想い心から愛している。
……ただ、ルルを傷つけたエベバーのことは許せない。
「エベバーさんと戻りたい?」
「……ぐすっ、ぅ、ううん」
「そうなの?」
「もう……もう、いやだよ、酷いもん……っ……」
ルルはエベバーを愛していた。
けれどももう元の位置に戻りたいとは思っていないようだ。
……ならばやりようはある。
「エベバーさんがどうなっても、もういいのね?」
「……うん」
「後悔しない?」
「……っ、ぅ、うんしないよ……だって、だって、もう……捨てられたんだもん、戻れない……」
分かったわ、と、微笑みかける。
「ルル、待っていて。彼に復讐してあげる」
「お姉ちゃん」
「だからルルはそれまでゆっくりしていなさい」
するとルルは笑った。
「うん! ありがとうお姉ちゃん!」
満面の笑みだ。
ああ、この笑み、これを私は愛しているし守りたい……!
ルルには笑顔が似合う――否、それ以外の表情なんて相応しくない。
彼女の笑顔のためなら私は何だってできる。
私は早速呪いに必要な材料を集めた。そしてそれを使って必要な物を作り上げてゆく。そうして必要な物がすべて揃えば、いよいよ本格的に呪っていく段階へ入る。
相手はルルをあんな風に泣かせた男だ、容赦は必要ない。
――その呪いによってエベバーは死亡した。
呪いを行った翌日のこと。
朝いつも通り散歩に出掛けようとしたところ足もとにいた毒蜘蛛をうっかり踏みそうになりその際に毒蜘蛛に噛まれてしまった。
彼は慌ててかかりつけ医のところへ。
しかしそこで何が起きたのかを説明している最中に急に気を失い、そのまま帰らぬ人となったのだった。
蜘蛛の毒のせいで死んだのか、我が呪いの効果で死んだのか……。
いや、もしかしたら、両方かもしれない。
「お姉ちゃん! 今回もありがとう!」
「どういたしまして」
「ほんとすごいよねお姉ちゃんの呪は!」
「そうかしらね」
「だっていっつも効果抜群だもん~」
「可愛いルルのためだもの、できる限りのことをするわ」
私はこれからも可愛い妹ルルを護って生きてゆく。
……姉妹の絆は誰にも壊せないの。
◆終わり◆
『心ない言葉を浴びせられたうえ婚約破棄宣言までされてしまった日の夕暮れ時……意外な人から想いを告げられまして!?』
婚約者エリムロールから心ない言葉を浴びせられたうえ婚約破棄宣言までされてしまった日の夕暮れ時。
「ナナリーさん! ずっと好きでした!」
一年ほどずっとお世話になっている若い郵便屋さんモッツから想いを告げられた。
「え……」
「婚約破棄されたと聞きまして、それで……想いを伝えるなら今しかない、と!」
けれどその時の私はまともな対応はできなかった。
なぜなら婚約破棄された衝撃で疲れ果てていたからである。
「ええと……すみません。私今そういう気分じゃないので。ではこれで失礼します」
そう言って、その場から離れる。
そんなことしかできなかった。
申し訳ないと思いつつも。
丁寧に対応できるほど心の余裕はなかったのだ。
――しかし彼は諦めなかった。
「ナナリーさん! 茶葉を贈らせてください!」
「え」
「お好きですよね!?」
「あ、はい」
「ああ良かった……」
モッツはまた私に接近しようと行動してくれた。
「そ、それで、ですねっ……今度一緒にお茶とかしませんか!?」
「お茶?」
「飲みましょう! それを! 二人で!」
「ええと……そうですね。また機会があれば、お願いします」
「はい! はい! お願いしますッ」
彼の気持ちには気づいている。
でも上手く応える自信がない。
エリムロールの件をまだ少しひきずっているから。
「こんにちは!」
「あ、こんにちは。今日は良い天気ですね」
ただ、彼の仕事ゆえ毎日顔を合わせるので、段々距離を縮めて関われるようにはなってきた。
「はい! とっても!」
「お仕事お疲れ様です」
すぐには無理でも、徐々には親しくなれる――そんな気はする。
それは多分、彼の想いが真っ直ぐなものだからだろう。
「ありがとうございます! あ、そうでした、ちょっと大丈夫です?」
「はい」
「今度お花を贈りたいのですけど……お好きな種類とかありますか?」
「そうですね、向日葵とか好きですよ」
「おお! 向日葵! 明るくって可愛い、みたいなイメージです。詳しく知らなくて恥ずかしいですが……と、とにかく! ではお贈りするのはそれにしたいと思います!」
――そんな風にして月日は流れ。
「僕と結婚してください!!」
「……ええ、喜んで」
私はモッツと共に行く未来を選んだ。
「思えば、あの絶望から私を救ってくれたのは貴方でした。……感謝しています。貴方が寄り添っていてくれたからこそ、今の私があります」
◆
結婚式から数年が経った今でも私とモッツは仲良しだ。
彼の友人からは超仲良し夫婦なんて冗談めかして言われることもあるほど。
私たちはきっとこれからも仲良しなままで生きてゆくだろう。
ちなみにエリムロールはというと。
あの後女関係で揉め、恨まれ、一人の女に路上で油をかけられたうえ火をつけられてしまい――その事件によって死亡したそうだ。
◆終わり◆
『婚約破棄された日の晩、奇跡が起こりました。~急に大人気になってしまいましたが、私は私が良いと思える人をパートナーに選びます~』
伝説の花が咲いた日、奇跡が起こる。
――この国に伝わっているお話。
ある意味それは伝説のようなもの。
誰も真実とは思っていないが、その一方で心には置いているようなものである。
「お前は何の取り柄もない女だ、よって、婚約は破棄とする」
婚約者で王子のフレッセントは私を急に部屋に呼び出してそんなことを言ってきた。
「え」
あまりにも唐突で戸惑いの声を漏らしてしまう。
「この国の頂点に立つに相応しい女ではないのだ、お前は」
「また急ですね」
「くだらんことを言うな! 態度が悪い!」
「ええ……」
こうして私はフレッセントに捨てられたのだが――その日の晩、私の実家であり自宅でもある家の庭に伝説の花が咲いた。
「う、うそ、これって」
「もしや、伝説に出てくるアレかぁ……?」
両親も驚いていた、そしてもちろん私も。
――それから少しして、私の身には救国の女神が宿っているという事実が発覚する。
それによって私は多くの国の王子たちより求婚を受けた。
その中で誰か一人を選ぶという形になり。
いきなりのことで戸惑い少々混乱しつつではあったが、私はやがて一人の王子を生涯のパートナーとすることを決めた。
自然を重んじる国の王子ラティスリー、彼を選んだ。
「今度庭園を紹介するよ」
「よいのですか!?」
「うん、もちろん。選んでもらえたことだからお礼に。それに、この国の美しいところをもっと見てほしいしね」
「ありがとうございます……!」
ラティスリーは温厚な人で、最初に会った時から他の王子とは違うものを感じていた。
「この国を好きになってもらえたいいんだけど」
その後事件があった。
フレッセントが「あの女は俺の女だったんだ! 返せ!」などと言ってラティスリーらが暮らす城の近くで暴れたのだ。
だがフレッセントは警備兵によってすぐに捕まった。
そして母国へ返還されることはなくそのまま処刑されたのだった。
王子を他国が処刑するというのはかなり珍しいことではある。
だが、まぁ、時にはそういうこともあるのだろう。
なんにせよ私には関係のないことだ。
今さらフレッセントが殺められたところで私には無関係、もう完全にどうでもいいことなのである。
これからはラティスリーと共に生きてゆく。
彼のために、そして、彼の国のために。
そうやって私は生きていくつもりだし、この力も今いる国のために使う。
――過去はもう振り返らない。
◆終わり◆
『身勝手に婚約破棄してくるような人には、天罰を下してしまいましょう。』
「貴様との婚約なんぞ、もうどうでもいいわ。破棄だ!!」
幼馴染みで婚約者であった同じ年齢の彼アドルミッディオ・フォース・アソシエラ・エンヴェリオティッツォレロノーロは何の前触れもなくそんなことを告げてきた。
「婚約破棄、ってこと?」
「ああそういうことだ」
「ええっ、そんな急に? あまりにも急すぎない? 大丈夫?」
「何だよその言い方」
「いきなり過ぎて戸惑うわ……」
アドルミッディオは「もういいだろ、じゃあなばいばい」と言ってそのまま話を終わらせた。
許せない……。
まともな説明もせずに……。
私は覚悟を決める。
彼を許さない、罰を下す、と。
◆
「あっほいしょっほいとれとれほいしょら!」
早速始めよう。
天罰を下すための舞いを。
「しぃしぃしぃしぃほらほら、しょっこれほほほほ! ほほっほっほほら! はいっとほらほら! のろのろのろいのじゅじゅじゅじゅじゅ! アドルミッディオアドルミッディオアドルミッディオあどるどるどるどるどるアドルミッディオアドルミッディオアドルミッディオアドルミッディオアドルミッディオ」
元気に歌いながら舞う。
それこそが呪術。
この町に伝わる伝説の秘術だ。
「あ! ほい! ほ! しょら! あ! ほら! ほら! しょしょ! しょ! しょ! しょ! ら! ほい! らら! しょ! しょらら! しょらしょん! しょい! しょら! あ! ほい! ほ! しょら! ほほほい! ほい! らら! しょら! ほい! あ! あ! あああ! ら! ほ! らら! ほい! らら! ほら! あ! ほい!」
誰にでもできるものではない。
けれども私の母はこれができた。
そして私もその母から教わったので舞える。
「はいしょら! はいよれ! ほほほのほ! うん!はいしょら! はいよれ! ほほほのほ! うん! あい! とら! あい! ほれ! といといとあれれ! はいしょら! ほいほい! ほいよれ! とららら! へい! う! ほ!」
時間はかかるが効果も絶大、と聞いている。
「しぃしぃしぃしぃほらほら、しょっこれほほほほ! ほほっほっほほら! はいっとほらほら! のろのろのろいのじゅじゅじゅじゅじゅ! てぃらてぃらてぃららすみすみみすみすみすてぃらみすすすすすらみてぃてぃてぃ! ほい! しぃしぃしぃしぃほっほらほ~ら~、しょっこれほほほほ! ほほっほっほ~ほら! はいっとほらほら! のろのろのろいのじゅじゅじゅじゅじゅ!」
そうして舞った翌日。
アドルミッディオは自宅で昼寝していたそうなのだが、そこに大量の熊が侵入してきて、熊たちに襲われ死亡したそうだ。
やはり、あの舞いには意味があったのだ。
効果は絶大。
その話は嘘ではなかったようだ。
◆終わり◆
その日可愛い妹ルルが婚約破棄された。
彼女の婚約者エベバーは美男子だった。しかしそれを利用し複数の女に手を出していたのだ。それも、可愛いルルと婚約しておきながら。婚約者を作っておきながら他の女にもお遊びで手を出す、なんという悪質な男だろうエベバーは。
「お姉ちゃんぅぅぅぅぅ! 悲しい悲しいよおおおお!」
ルルは抱きついてきて号泣。
懐かしい光景だ。
昔はよくこういう場面に遭遇した。
思えばルルはいつだって泣き虫だった。
「ああ、ああ、とにかく落ち着いてルル」
「だってだっでぇぇぇぇぇ!」
でもそんなところも含めてルルだ。
そういう少々面倒臭い感じの部分も合わせて、私は彼女を愛している。
「好きだったんだもぉぉんんんん!」
「エベバーさんのこと?」
「そうだよぉぉぉぉぉ! びええぇぇぇぇぇん! 好きだっだのにぃぃぃぃぃ! 婚約破棄されぢゃっでええぇぇぇぇぇ! 悲しいよぉぉぉぉぉ! びぃぃぃぃぃぃ!」
だから抱きつかれ号泣されてもルルを嫌いになったりはしない。たとえ服が彼女の涙と鼻水でぐしょぐしょになっても。それでも私は姉としてルルのことを想い心から愛している。
……ただ、ルルを傷つけたエベバーのことは許せない。
「エベバーさんと戻りたい?」
「……ぐすっ、ぅ、ううん」
「そうなの?」
「もう……もう、いやだよ、酷いもん……っ……」
ルルはエベバーを愛していた。
けれどももう元の位置に戻りたいとは思っていないようだ。
……ならばやりようはある。
「エベバーさんがどうなっても、もういいのね?」
「……うん」
「後悔しない?」
「……っ、ぅ、うんしないよ……だって、だって、もう……捨てられたんだもん、戻れない……」
分かったわ、と、微笑みかける。
「ルル、待っていて。彼に復讐してあげる」
「お姉ちゃん」
「だからルルはそれまでゆっくりしていなさい」
するとルルは笑った。
「うん! ありがとうお姉ちゃん!」
満面の笑みだ。
ああ、この笑み、これを私は愛しているし守りたい……!
ルルには笑顔が似合う――否、それ以外の表情なんて相応しくない。
彼女の笑顔のためなら私は何だってできる。
私は早速呪いに必要な材料を集めた。そしてそれを使って必要な物を作り上げてゆく。そうして必要な物がすべて揃えば、いよいよ本格的に呪っていく段階へ入る。
相手はルルをあんな風に泣かせた男だ、容赦は必要ない。
――その呪いによってエベバーは死亡した。
呪いを行った翌日のこと。
朝いつも通り散歩に出掛けようとしたところ足もとにいた毒蜘蛛をうっかり踏みそうになりその際に毒蜘蛛に噛まれてしまった。
彼は慌ててかかりつけ医のところへ。
しかしそこで何が起きたのかを説明している最中に急に気を失い、そのまま帰らぬ人となったのだった。
蜘蛛の毒のせいで死んだのか、我が呪いの効果で死んだのか……。
いや、もしかしたら、両方かもしれない。
「お姉ちゃん! 今回もありがとう!」
「どういたしまして」
「ほんとすごいよねお姉ちゃんの呪は!」
「そうかしらね」
「だっていっつも効果抜群だもん~」
「可愛いルルのためだもの、できる限りのことをするわ」
私はこれからも可愛い妹ルルを護って生きてゆく。
……姉妹の絆は誰にも壊せないの。
◆終わり◆
『心ない言葉を浴びせられたうえ婚約破棄宣言までされてしまった日の夕暮れ時……意外な人から想いを告げられまして!?』
婚約者エリムロールから心ない言葉を浴びせられたうえ婚約破棄宣言までされてしまった日の夕暮れ時。
「ナナリーさん! ずっと好きでした!」
一年ほどずっとお世話になっている若い郵便屋さんモッツから想いを告げられた。
「え……」
「婚約破棄されたと聞きまして、それで……想いを伝えるなら今しかない、と!」
けれどその時の私はまともな対応はできなかった。
なぜなら婚約破棄された衝撃で疲れ果てていたからである。
「ええと……すみません。私今そういう気分じゃないので。ではこれで失礼します」
そう言って、その場から離れる。
そんなことしかできなかった。
申し訳ないと思いつつも。
丁寧に対応できるほど心の余裕はなかったのだ。
――しかし彼は諦めなかった。
「ナナリーさん! 茶葉を贈らせてください!」
「え」
「お好きですよね!?」
「あ、はい」
「ああ良かった……」
モッツはまた私に接近しようと行動してくれた。
「そ、それで、ですねっ……今度一緒にお茶とかしませんか!?」
「お茶?」
「飲みましょう! それを! 二人で!」
「ええと……そうですね。また機会があれば、お願いします」
「はい! はい! お願いしますッ」
彼の気持ちには気づいている。
でも上手く応える自信がない。
エリムロールの件をまだ少しひきずっているから。
「こんにちは!」
「あ、こんにちは。今日は良い天気ですね」
ただ、彼の仕事ゆえ毎日顔を合わせるので、段々距離を縮めて関われるようにはなってきた。
「はい! とっても!」
「お仕事お疲れ様です」
すぐには無理でも、徐々には親しくなれる――そんな気はする。
それは多分、彼の想いが真っ直ぐなものだからだろう。
「ありがとうございます! あ、そうでした、ちょっと大丈夫です?」
「はい」
「今度お花を贈りたいのですけど……お好きな種類とかありますか?」
「そうですね、向日葵とか好きですよ」
「おお! 向日葵! 明るくって可愛い、みたいなイメージです。詳しく知らなくて恥ずかしいですが……と、とにかく! ではお贈りするのはそれにしたいと思います!」
――そんな風にして月日は流れ。
「僕と結婚してください!!」
「……ええ、喜んで」
私はモッツと共に行く未来を選んだ。
「思えば、あの絶望から私を救ってくれたのは貴方でした。……感謝しています。貴方が寄り添っていてくれたからこそ、今の私があります」
◆
結婚式から数年が経った今でも私とモッツは仲良しだ。
彼の友人からは超仲良し夫婦なんて冗談めかして言われることもあるほど。
私たちはきっとこれからも仲良しなままで生きてゆくだろう。
ちなみにエリムロールはというと。
あの後女関係で揉め、恨まれ、一人の女に路上で油をかけられたうえ火をつけられてしまい――その事件によって死亡したそうだ。
◆終わり◆
『婚約破棄された日の晩、奇跡が起こりました。~急に大人気になってしまいましたが、私は私が良いと思える人をパートナーに選びます~』
伝説の花が咲いた日、奇跡が起こる。
――この国に伝わっているお話。
ある意味それは伝説のようなもの。
誰も真実とは思っていないが、その一方で心には置いているようなものである。
「お前は何の取り柄もない女だ、よって、婚約は破棄とする」
婚約者で王子のフレッセントは私を急に部屋に呼び出してそんなことを言ってきた。
「え」
あまりにも唐突で戸惑いの声を漏らしてしまう。
「この国の頂点に立つに相応しい女ではないのだ、お前は」
「また急ですね」
「くだらんことを言うな! 態度が悪い!」
「ええ……」
こうして私はフレッセントに捨てられたのだが――その日の晩、私の実家であり自宅でもある家の庭に伝説の花が咲いた。
「う、うそ、これって」
「もしや、伝説に出てくるアレかぁ……?」
両親も驚いていた、そしてもちろん私も。
――それから少しして、私の身には救国の女神が宿っているという事実が発覚する。
それによって私は多くの国の王子たちより求婚を受けた。
その中で誰か一人を選ぶという形になり。
いきなりのことで戸惑い少々混乱しつつではあったが、私はやがて一人の王子を生涯のパートナーとすることを決めた。
自然を重んじる国の王子ラティスリー、彼を選んだ。
「今度庭園を紹介するよ」
「よいのですか!?」
「うん、もちろん。選んでもらえたことだからお礼に。それに、この国の美しいところをもっと見てほしいしね」
「ありがとうございます……!」
ラティスリーは温厚な人で、最初に会った時から他の王子とは違うものを感じていた。
「この国を好きになってもらえたいいんだけど」
その後事件があった。
フレッセントが「あの女は俺の女だったんだ! 返せ!」などと言ってラティスリーらが暮らす城の近くで暴れたのだ。
だがフレッセントは警備兵によってすぐに捕まった。
そして母国へ返還されることはなくそのまま処刑されたのだった。
王子を他国が処刑するというのはかなり珍しいことではある。
だが、まぁ、時にはそういうこともあるのだろう。
なんにせよ私には関係のないことだ。
今さらフレッセントが殺められたところで私には無関係、もう完全にどうでもいいことなのである。
これからはラティスリーと共に生きてゆく。
彼のために、そして、彼の国のために。
そうやって私は生きていくつもりだし、この力も今いる国のために使う。
――過去はもう振り返らない。
◆終わり◆
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「婚約破棄、ってこと?」
「ああそういうことだ」
「ええっ、そんな急に? あまりにも急すぎない? 大丈夫?」
「何だよその言い方」
「いきなり過ぎて戸惑うわ……」
アドルミッディオは「もういいだろ、じゃあなばいばい」と言ってそのまま話を終わらせた。
許せない……。
まともな説明もせずに……。
私は覚悟を決める。
彼を許さない、罰を下す、と。
◆
「あっほいしょっほいとれとれほいしょら!」
早速始めよう。
天罰を下すための舞いを。
「しぃしぃしぃしぃほらほら、しょっこれほほほほ! ほほっほっほほら! はいっとほらほら! のろのろのろいのじゅじゅじゅじゅじゅ! アドルミッディオアドルミッディオアドルミッディオあどるどるどるどるどるアドルミッディオアドルミッディオアドルミッディオアドルミッディオアドルミッディオ」
元気に歌いながら舞う。
それこそが呪術。
この町に伝わる伝説の秘術だ。
「あ! ほい! ほ! しょら! あ! ほら! ほら! しょしょ! しょ! しょ! しょ! ら! ほい! らら! しょ! しょらら! しょらしょん! しょい! しょら! あ! ほい! ほ! しょら! ほほほい! ほい! らら! しょら! ほい! あ! あ! あああ! ら! ほ! らら! ほい! らら! ほら! あ! ほい!」
誰にでもできるものではない。
けれども私の母はこれができた。
そして私もその母から教わったので舞える。
「はいしょら! はいよれ! ほほほのほ! うん!はいしょら! はいよれ! ほほほのほ! うん! あい! とら! あい! ほれ! といといとあれれ! はいしょら! ほいほい! ほいよれ! とららら! へい! う! ほ!」
時間はかかるが効果も絶大、と聞いている。
「しぃしぃしぃしぃほらほら、しょっこれほほほほ! ほほっほっほほら! はいっとほらほら! のろのろのろいのじゅじゅじゅじゅじゅ! てぃらてぃらてぃららすみすみみすみすみすてぃらみすすすすすらみてぃてぃてぃ! ほい! しぃしぃしぃしぃほっほらほ~ら~、しょっこれほほほほ! ほほっほっほ~ほら! はいっとほらほら! のろのろのろいのじゅじゅじゅじゅじゅ!」
そうして舞った翌日。
アドルミッディオは自宅で昼寝していたそうなのだが、そこに大量の熊が侵入してきて、熊たちに襲われ死亡したそうだ。
やはり、あの舞いには意味があったのだ。
効果は絶大。
その話は嘘ではなかったようだ。
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フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。
しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。
最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。
それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。
婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。
だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。
これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。
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