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1話「もう何も望まない」

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「まっさかお前のほうと婚約することになっちまうとはなぁ」

 アーロン・ボツムスとの婚約が決まった日。
 私はいきなり彼からそんなことを言われてしまった。

「ほんとーは、さ。お前じゃなくてお前のねーちゃんが良かったんだ」

 始まりの日に外れくじを引いたような言い方をされる。
 そんな悲しいことがあるだろうか。
 本当なら嬉しい日やめでたい日のはずなのに。

「そうなのですか……? では今からでも姉と変わって……」
「そりゃ無理なんだわ」
「どうしてですか?」
「お前の親、ねーちゃんのほうはやれないって」

 ……親のせい、か。

 だがそういうことなら分かる気がする。
 両親はずっと私より姉を大事にしていた。

 ということは、実質、追い出されただけなのか……辛く悲しい。

「で、お前と婚約することになっちまったんだ。分かったか?」
「そうでしたか……」
「あーあ、こりゃちょっと落ち込むわ。ってことなんで、これから普通に他の女の子と遊ぶけど、文句言うなよなー」

 婚約とは人生が決まる第一歩。
 そう言っても過言ではない。
 だからこそ美しいその瞬間であってほしかった。

 でも私には無理だったようだ。

 私は夢を見過ぎていた。

 それからというもの、私は、彼の婚約者でありながら何一つ望まないようになった。
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