上 下
21 / 21

21話「いつかはそこへ至りたい」

しおりを挟む
 個性的な植物モモクサを大切に育てているディアの姿を想像すると何だか可愛らしくて笑ってしまいそうになる。
 もちろん本人の前で実際に笑ったりはしないわけだが、ほっこり感を強く感じてしまうのだ。

 だってそうだろう?

 彼は王子だ。
 王国の未来なのだ。

 なのに育てているのがモモクサ。

 あのような桃のようなキュートな植物を自分の意思で育て、大切に想っている。

 そう考えると面白いではないか。
 まるで彼という人間の人となりがそこに現れているかのよう。

 だが悪いことではないと思う。

 完璧なものやかっこいいもの、偉大なもの――そういったもの以外のものも純粋な心で愛せるというのが彼の美点の一つなのだから。

 人の印象というのは本当に小さなことで左右されるもの。些細なことであっても、良い方向へも悪い方向へも容易く揺れ動く。

 そしてこれもその一つであろう。

 彼がモモクサを育てている、なんていう小さな事実一つだというのに、私の中の彼へのイメージはより良い方向へと変化した。

 彼となら共に歩んでゆけるのではないか、今はそんな風に思える。

 型にはまるだけでない彼となら。
 協力し合いながら進んでゆけるような気がする。

 彼との未来を前向きに考えてみても良いのではないだろうか――心は徐々に前向きな色を滲ませて。

 見つめてみようか。
 彼との明日を。

 いつの間にかそんなことを思っている自分もいる。

 人とは、人の心とは、変わるものだ。
 だから過去では決められなかったことが現在未来でも必ずしも決められないというわけではない。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

知りませんでした?私再婚して公爵夫人になりました。

京月
恋愛
学生時代、家の事情で士爵に嫁がされたコリン。 他国への訪問で伯爵を射止めた幼馴染のミーザが帰ってきた。 「コリン、士爵も大変よね。領地なんてもらえないし、貴族も名前だけ」 「あらミーザ、知りませんでした?私再婚して公爵夫人になったのよ」 「え?」

私の妹と結婚するから婚約破棄する? 私、弟しかいませんけど…

京月
恋愛
 私の婚約者は婚約記念日に突然告白した。 「俺、君の妹のルーと結婚したい。だから婚約破棄してくれ」 「…わかった、婚約破棄するわ。だけどこれだけは言わせて……私、弟しかいないよ」 「え?」

私を捨ててまで王子が妃にしたかった平民女は…彼の理想とは、全然違っていたようです。

coco
恋愛
私が居ながら、平民の女と恋に落ちた王子。 王子は私に一方的に婚約破棄を告げ、彼女を城に迎え入れてしまい…?

私を追い出した妹とその婚約者は没落し、今では牢に住んでいます。

coco
恋愛
妹とその婚約者がグルになって、私をあの家から追い出した。 あの家は、私が居なくなったら終わりなのに。 だってあの家は、私の為のものだもの。 没落した2人は、今では牢に住んでいます。 新しい家が見つかって良かったわ─。

貧乏令嬢の私は婚約破棄されたので、優雅な生活を送りたいと思います。

coco
恋愛
「お前みたいな貧乏人は、もういらない!」 私との婚約を破棄し、金持ちの女に走った婚約者。 貧乏だなんて、いつ私が言いました? あなたに婚約破棄されたので、私は優雅な生活を送りたいと思います─。

ご自分の病気が治ったら私は用無しですか…邪魔者となった私は、姿を消す事にします。

coco
恋愛
病気の婚約者の看病を、必死にしていた私。 ところが…病気が治った途端、彼は私を捨てた。 そして彼は、美しい愛人と結ばれるつもりだったが…?

病の婚約者に、聖女の妹が寄り添う事になり…私は、もう要らないと捨てられてしまいました。

coco
恋愛
病の婚約者を、献身的に看病していた私。 しかし、彼の身体がそうなったのは、私のせいだとされてしまう。 そして彼には、聖女である私の妹が寄り添う事になり…?

【完結】手切れ金頂きましたぁ〜♪

山葵
恋愛
「ジェシカ。まったくお前は愛想もなく身体も貧相、閨の相性も最悪。父上が決めた相手でなければ結婚などしなかった。それに比べてマリーナは、全てにおいて最高な上に、相性もバッチリ。よって、俺はお前と離縁しマリーナと再婚する。これにサインをし、手切れ金を持ってさっさと出て行け!」 テーブルの上に置かれた物に私は目を瞠った。

処理中です...