13 / 25
13話「できることがあるのなら」
しおりを挟む
ディアはあっさりと敵を倒してこちらへ向き直る。
その表情は穏やかそのもので。
晴れの日の草原を想わせる。
「お騒がせしてしまい申し訳ありません」
「いえ……」
謝る必要なんてないのに、なんて思いつつ。
「もしかして……あれが魔物ですか?」
「はい、そうなんです」
「不思議な生き物というかなんというか……怖い感じでしたね」
本心を口にすれば。
「やつらは人類の敵です」
彼は急に冷淡な表情になってそんな風に述べた。
ディアは穏やかな人だ。そして陽だまりのような人でもある。心優しく、思いやりがあって、柔らかさをはらんだ表情を浮かべていることが多い。
だからこそ冷たい表情が際立つ。
魔物との戦いはきっと壮絶なものなのだろう――そんなことを思わされる。
「人類の敵……」
思わず呟くように繰り返していた。
この人の力になれたらいいのに。
そう思わずにはいられない。
傍にいて、関わって、穏やかな時間を共にすればするほどにその思いは強まってゆく。
彼の隣にいるのが私で良いのかはまだ分からないけれど。
「……恐ろしいですね」
「ああ、すみませんエリサさん、深刻な顔をさせてしまい」
「事実恐ろしいことですよね」
「それはそうですね。ですが過度に不安になられる必要はありません。魔物との戦いはこの国においては日常、ゆえに対抗する手段は多くの者が持っています」
貰った花束を抱えたままディアの面をじっと見つめる。
「ですので、お護りできます」
ディアはようやく笑った。
「……本当に、すみません、色々」
「いえいえ」
「ですが護られるだけの私ではいけませんよね。ただ護ってもらうためにここへ来たのではないのですから」
そうだ、私も何かできることを探さなくては。
「私、力になります」
気づけばはっきり言い放っていた。
「え」
ディアは戸惑ったように目を開く。
いきなり過ぎただろうか、なんて思いつつも、もう止まれない――いやそうじゃない、止まる気などないのだ。
「この魔力、ディアさんはこの国のために使いたいです」
「……なんと」
「私はずっと愛されてきませんでした。この魔力は私にとって呪いみたいなもので。それがあるせいで親からも嫌われてきたのです」
この際、もう、話したいことはすべて話そうと思う。
「ですが貴方は心ない扱いはしませんでした。優しく接していただけてとても嬉しかった。初めての経験でした」
逃げないし、ごまかさない。
「それで思ったんです。私はそういう方のために生きたいと。貴方のために、この力を使いたい――今はそれが真実の想いです」
ディアは固まっている。
「なので、力にならせてください」
真っ直ぐに彼を見つめ、真っ直ぐに言葉を発する。
恐れも迷いも抱きはしない。
「……あ、の……それは、結婚してくださるということですか?」
静寂の果て。
想定外の言葉が返ってきて。
「え!?」
驚きの声を漏らしてしまう。
だがそうか……。
よく考えるとそういうことになるか……。
国のため生きることを望むということは、つまりは、そういうことだ。
「すみません、違いましたか?」
「いえ……」
「嫌な思いをさせてしまいましたら謝ります」
「ごめんなさい私その点についてすっかり忘れてしまっていて……」
気まずくて彼の顔を見られない。
「結婚という点?」
「はい」
何とも言えない空気になってしまった。
どうしよう……。
どうすればいいんだろう……。
「そうですか。ではその点は除いてお話する方が良さそうですね」
「本当にすみません、そこまで頭が回っておらず」
「いえいいんですよ。力を使いたい、そう言っていただけるだけでもとても嬉しいことですから。エリサさんのお力を借りられれば、きっと、多くの民の命を救えることでしょう」
そう、そうだ、そういうことなのだ。
私が言いかったのはそういうこと。
「はい! ぜひ力にならせてください!」
その表情は穏やかそのもので。
晴れの日の草原を想わせる。
「お騒がせしてしまい申し訳ありません」
「いえ……」
謝る必要なんてないのに、なんて思いつつ。
「もしかして……あれが魔物ですか?」
「はい、そうなんです」
「不思議な生き物というかなんというか……怖い感じでしたね」
本心を口にすれば。
「やつらは人類の敵です」
彼は急に冷淡な表情になってそんな風に述べた。
ディアは穏やかな人だ。そして陽だまりのような人でもある。心優しく、思いやりがあって、柔らかさをはらんだ表情を浮かべていることが多い。
だからこそ冷たい表情が際立つ。
魔物との戦いはきっと壮絶なものなのだろう――そんなことを思わされる。
「人類の敵……」
思わず呟くように繰り返していた。
この人の力になれたらいいのに。
そう思わずにはいられない。
傍にいて、関わって、穏やかな時間を共にすればするほどにその思いは強まってゆく。
彼の隣にいるのが私で良いのかはまだ分からないけれど。
「……恐ろしいですね」
「ああ、すみませんエリサさん、深刻な顔をさせてしまい」
「事実恐ろしいことですよね」
「それはそうですね。ですが過度に不安になられる必要はありません。魔物との戦いはこの国においては日常、ゆえに対抗する手段は多くの者が持っています」
貰った花束を抱えたままディアの面をじっと見つめる。
「ですので、お護りできます」
ディアはようやく笑った。
「……本当に、すみません、色々」
「いえいえ」
「ですが護られるだけの私ではいけませんよね。ただ護ってもらうためにここへ来たのではないのですから」
そうだ、私も何かできることを探さなくては。
「私、力になります」
気づけばはっきり言い放っていた。
「え」
ディアは戸惑ったように目を開く。
いきなり過ぎただろうか、なんて思いつつも、もう止まれない――いやそうじゃない、止まる気などないのだ。
「この魔力、ディアさんはこの国のために使いたいです」
「……なんと」
「私はずっと愛されてきませんでした。この魔力は私にとって呪いみたいなもので。それがあるせいで親からも嫌われてきたのです」
この際、もう、話したいことはすべて話そうと思う。
「ですが貴方は心ない扱いはしませんでした。優しく接していただけてとても嬉しかった。初めての経験でした」
逃げないし、ごまかさない。
「それで思ったんです。私はそういう方のために生きたいと。貴方のために、この力を使いたい――今はそれが真実の想いです」
ディアは固まっている。
「なので、力にならせてください」
真っ直ぐに彼を見つめ、真っ直ぐに言葉を発する。
恐れも迷いも抱きはしない。
「……あ、の……それは、結婚してくださるということですか?」
静寂の果て。
想定外の言葉が返ってきて。
「え!?」
驚きの声を漏らしてしまう。
だがそうか……。
よく考えるとそういうことになるか……。
国のため生きることを望むということは、つまりは、そういうことだ。
「すみません、違いましたか?」
「いえ……」
「嫌な思いをさせてしまいましたら謝ります」
「ごめんなさい私その点についてすっかり忘れてしまっていて……」
気まずくて彼の顔を見られない。
「結婚という点?」
「はい」
何とも言えない空気になってしまった。
どうしよう……。
どうすればいいんだろう……。
「そうですか。ではその点は除いてお話する方が良さそうですね」
「本当にすみません、そこまで頭が回っておらず」
「いえいいんですよ。力を使いたい、そう言っていただけるだけでもとても嬉しいことですから。エリサさんのお力を借りられれば、きっと、多くの民の命を救えることでしょう」
そう、そうだ、そういうことなのだ。
私が言いかったのはそういうこと。
「はい! ぜひ力にならせてください!」
24
お気に入りに追加
294
あなたにおすすめの小説
妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。
バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。
瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。
そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。
その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。
そして……。
本編全79話
番外編全34話
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
〖完結〗醜い聖女は婚約破棄され妹に婚約者を奪われました。美しさを取り戻してもいいですか?
藍川みいな
恋愛
聖女の力が強い家系、ミラー伯爵家長女として生まれたセリーナ。
セリーナは幼少の頃に魔女によって、容姿が醜くなる呪いをかけられていた。
あまりの醜さに婚約者はセリーナとの婚約を破棄し、妹ケイトリンと婚約するという…。
呪い…解いてもいいよね?
辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜
津ヶ谷
恋愛
ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。
次期公爵との婚約も決まっていた。
しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。
次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。
そう、妹に婚約者を奪われたのである。
そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。
そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。
次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。
これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。
田舎者とバカにされたけど、都会に染まった婚約者様は破滅しました
さこの
恋愛
田舎の子爵家の令嬢セイラと男爵家のレオは幼馴染。両家とも仲が良く、領地が隣り合わせで小さい頃から結婚の約束をしていた。
時が経ちセイラより一つ上のレオが王立学園に入学することになった。
手紙のやり取りが少なくなってきて不安になるセイラ。
ようやく学園に入学することになるのだが、そこには変わり果てたレオの姿が……
「田舎の色気のない女より、都会の洗練された女はいい」と友人に吹聴していた
ホットランキング入りありがとうございます
2021/06/17
【完結】婚約破棄をされたわたしは万能第一王子に溺愛されるようです
葉桜鹿乃
恋愛
婚約者であるパーシバル殿下に婚約破棄を言い渡されました。それも王侯貴族の通う学園の卒業パーティーの日に、大勢の前で。わたしより格下貴族である伯爵令嬢からの嘘の罪状の訴えで。幼少時より英才教育の過密スケジュールをこなしてきたわたしより優秀な婚約者はいらっしゃらないと思うのですがね、殿下。
わたしは国のため早々にこのパーシバル殿下に見切りをつけ、病弱だと言われて全てが秘されている王位継承権第二位の第一王子に望みを託そうと思っていたところ、偶然にも彼と出会い、そこからわたしは昔から想いを寄せられていた事を知り、さらには彼が王位継承権第一位に返り咲こうと動く中で彼に溺愛されて……?
陰謀渦巻く王宮を舞台に動く、万能王太子妃候補の恋愛物語開幕!(ただしバカ多め)
小説家になろう様でも別名義で連載しています。
※感想の取り扱いについては近況ボードを参照してください。
【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?
112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。
目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。
助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。
〖完結〗役立たずの聖女なので、あなた達を救うつもりはありません。
藍川みいな
恋愛
ある日私は、銀貨一枚でスコフィールド伯爵に買われた。母は私を、喜んで売り飛ばした。
伯爵は私を養子にし、仕えている公爵のご子息の治療をするように命じた。私には不思議な力があり、それは聖女の力だった。
セイバン公爵家のご子息であるオルガ様は、魔物に負わされた傷がもとでずっと寝たきり。
そんなオルガ様の傷の治療をしたことで、セイバン公爵に息子と結婚して欲しいと言われ、私は婚約者となったのだが……オルガ様は、他の令嬢に心を奪われ、婚約破棄をされてしまった。彼の傷は、完治していないのに……
婚約破棄をされた私は、役立たずだと言われ、スコフィールド伯爵に邸を追い出される。
そんな私を、必要だと言ってくれる方に出会い、聖女の力がどんどん強くなって行く。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
〖完結〗冤罪で断罪された侯爵令嬢は、やり直しを希望します。
藍川みいな
恋愛
「これより、サンドラ・バークの刑を執行する!」
妹を殺そうとした罪で有罪となった私は、死刑を言い渡されました。ですが、私は何もしていない。
全ては、妹のカレンが仕組んだことでした。
刑が執行され、死んだはずの私は、何故か自分の部屋のベッドの上で目を覚ましたのです。
どうやら時が、一年前に戻ったようです。
もう一度やり直す機会をもらった私は、二度と断罪されないように前とは違う選択をする。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全14話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる