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13話「できることがあるのなら」

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 ディアはあっさりと敵を倒してこちらへ向き直る。

 その表情は穏やかそのもので。
 晴れの日の草原を想わせる。

「お騒がせしてしまい申し訳ありません」
「いえ……」

 謝る必要なんてないのに、なんて思いつつ。

「もしかして……あれが魔物ですか?」
「はい、そうなんです」
「不思議な生き物というかなんというか……怖い感じでしたね」

 本心を口にすれば。

「やつらは人類の敵です」

 彼は急に冷淡な表情になってそんな風に述べた。

 ディアは穏やかな人だ。そして陽だまりのような人でもある。心優しく、思いやりがあって、柔らかさをはらんだ表情を浮かべていることが多い。

 だからこそ冷たい表情が際立つ。

 魔物との戦いはきっと壮絶なものなのだろう――そんなことを思わされる。

「人類の敵……」

 思わず呟くように繰り返していた。

 この人の力になれたらいいのに。
 そう思わずにはいられない。

 傍にいて、関わって、穏やかな時間を共にすればするほどにその思いは強まってゆく。

 彼の隣にいるのが私で良いのかはまだ分からないけれど。

「……恐ろしいですね」
「ああ、すみませんエリサさん、深刻な顔をさせてしまい」
「事実恐ろしいことですよね」
「それはそうですね。ですが過度に不安になられる必要はありません。魔物との戦いはこの国においては日常、ゆえに対抗する手段は多くの者が持っています」

 貰った花束を抱えたままディアの面をじっと見つめる。

「ですので、お護りできます」

 ディアはようやく笑った。

「……本当に、すみません、色々」
「いえいえ」
「ですが護られるだけの私ではいけませんよね。ただ護ってもらうためにここへ来たのではないのですから」

 そうだ、私も何かできることを探さなくては。

「私、力になります」

 気づけばはっきり言い放っていた。

「え」

 ディアは戸惑ったように目を開く。

 いきなり過ぎただろうか、なんて思いつつも、もう止まれない――いやそうじゃない、止まる気などないのだ。

「この魔力、ディアさんはこの国のために使いたいです」
「……なんと」
「私はずっと愛されてきませんでした。この魔力は私にとって呪いみたいなもので。それがあるせいで親からも嫌われてきたのです」

 この際、もう、話したいことはすべて話そうと思う。

「ですが貴方は心ない扱いはしませんでした。優しく接していただけてとても嬉しかった。初めての経験でした」

 逃げないし、ごまかさない。

「それで思ったんです。私はそういう方のために生きたいと。貴方のために、この力を使いたい――今はそれが真実の想いです」

 ディアは固まっている。

「なので、力にならせてください」

 真っ直ぐに彼を見つめ、真っ直ぐに言葉を発する。

 恐れも迷いも抱きはしない。

「……あ、の……それは、結婚してくださるということですか?」

 静寂の果て。
 想定外の言葉が返ってきて。

「え!?」

 驚きの声を漏らしてしまう。

 だがそうか……。
 よく考えるとそういうことになるか……。

 国のため生きることを望むということは、つまりは、そういうことだ。

「すみません、違いましたか?」
「いえ……」
「嫌な思いをさせてしまいましたら謝ります」
「ごめんなさい私その点についてすっかり忘れてしまっていて……」

 気まずくて彼の顔を見られない。

「結婚という点?」
「はい」

 何とも言えない空気になってしまった。

 どうしよう……。
 どうすればいいんだろう……。

「そうですか。ではその点は除いてお話する方が良さそうですね」
「本当にすみません、そこまで頭が回っておらず」
「いえいいんですよ。力を使いたい、そう言っていただけるだけでもとても嬉しいことですから。エリサさんのお力を借りられれば、きっと、多くの民の命を救えることでしょう」

 そう、そうだ、そういうことなのだ。

 私が言いかったのはそういうこと。

「はい! ぜひ力にならせてください!」
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