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5話「嫌われ者は演技する」
しおりを挟むウィージスとの穏やかな時間はまだ続く。
隣の席の客はもう数組変わったけれど、私たちはまだ席を占拠してしまっている。ただ、私は既に二度目の注文を済ませた。何一つ追加注文せず居座るのも申し訳ない気がして、それで、次はアイスティーを頼んだ。
「そうですね! 紅茶とか飲める場所に行くのが好きで」
「そういうことだったんだね」
後から「まぁ、ここのお店だとアイスココアも好きなんですけどね」と苦笑いしながら付け加えておいた。
「ところで、ウィージスさんは紅茶好きなんですか?」
「ま、そうかな。好きだよ。折りながら静かに飲むのが好き」
「え……じゃあ今邪魔してしまってます!?」
「違う違う! ごめん、そう思わせてしまうよね。でも違うんだ。そういうことじゃなくて、一人の時はってことだよ」
その後私たちは別れた。
今日も楽しかった!
純粋にそう思えた。
◆
その頃、城内では――。
「ルビアって、うざくない?」
王子の婚約者となり威張り散らしていたルビアが侍女らから悪口を言われていた。
「あんたも何か言われたの?」
「ええ。なんかさ、食事の準備遅すぎーって。しかもさ、朝食遅めにって言われてたから遅めにしたのにそんなこと言い出すの。……あり得なくない!?」
「うわそれきっつー」
「ないわー」
女性が集まれば悪口大会はわりと開催されるものではあるのだが――それを考慮したとしても、ルビアの振る舞いは身勝手の極みであった。
誰もが彼女を良く思っていない。
だから侍女が隠れもせず悪口を言っていても皆特に注意はせず流しているのだ。
「あたしなんて! ぶっさいく邪魔とか言われてさ! 不細工なの分かってるけどそれでも悲しいよ……」
「サイテー!」
「王子の幼馴染みってだけのくせに、調子乗んなって感じ」
「ホントそれよねー」
「ないわー」
そう、ほとんど誰もが同じことを思っているのだ。
大抵の者は実際に口からは出さないというだけで。
「リメリア様の方がずっと良かったわよね! 上品だったし、あたしたちにも親切だったし!」
「あの笑顔が恋しい~」
「ああそれ~」
「あーんな腹真っ黒け女が将来の王妃だなんて今から憂鬱ね」
「悩みの種だわー」
「ないわー」
そう、この城にルビアの味方はほとんどいない。いるとしたら王子オーツレットだけくらいのもので。それほどにルビアは孤独な状況にある。が、それでもなお堂々としてさらには威張るほどの精神力をルビアは持っていた。彼女は周囲に嫌われ悪口を言われたくらいで大人しくなる女性ではない。
……もっとも、できれば静まってほしいところなのだが。
その頃オーツレットとルビアはというと、オーツレットの自室内にていちゃついていた。
「ルビア、悪口を言われているようだが……大丈夫か?」
神妙な面持ちで尋ねるオーツレット。
「あーん優しいオーツレットぉ」
「どうやら大丈夫そうだな。元気で何より」
するとルビアは瞳を急激に潤ませる。
「……そう、見える?」
急に弱々しい顔つきになった彼女をオーツレットはたまらず抱き締める。
「いや、さっきのは間違いだった。あれこれ言われたら傷つくよな、ルビアだって」
「そうよぉ……」
しかしルビアは演技をしているだけ。
本当は傷ついてなどいない。
弱々しい姿を晒しているのはオーツレットの気を引くため、ただそれだけだ。
オーツレットに抱き締められている時ですら、ルビアの唇には黒い笑みが浮かんでいるのである。
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