上 下
1 / 2

前編

しおりを挟む

 婚約者だった青年ルリフォードから婚約破棄を言いわたされたのは、ほんの数日前のことだ。

 そして現在、私は命の危機に陥っている。

 彼に捨てられた日。
 私は謎の病を発症した。

 異常なほど高熱が出続ける病――医師からは奇病の類だろうと言われたけれど詳しいことは分からなかった。

 ただ、そんな状態になっていてもなお、婚約破棄された瞬間のあの衝撃と絶望感は脳裏に焼き付いて離れない。

 終わってしまったことを考えても意味などないと分かっていてもなお、どうしても、ずっとそれに関して考えてしまうのだ。

「死んでは駄目よ……お願い、生きて……」

 母はいつもベッドの脇に貼りついてくれていた。

 でもその様子はとても辛そうで。
 彼女の存在は、私の中の申し訳ない気持ちを膨らませるだけでしかない。

「ごめん」
「そんなこと言わないで! 貴女は悪くない、悪くないの……」

 母はずっと泣いている。
 それが悲しい。
 つい先日まで普通に暮らせていたのだ、だからこそ悲しみが大きい。

 どうか泣かないで。

 そう言いたい。

 けれども今の私には――そんなことを言う資格はないのだろう。

「母さん……」
「どうなったとしても貴女に罪はない。でも、どうか、何とか生き延びてほしいの。愛する娘に先立たれるなんて嫌よ」
「うん、うん……ありがとう母さん、私、できる限り頑張るから」

 ルリフォードのせい? いいや、それはさすがに理不尽だ。でも、彼の行動が引き金になった可能性はある。無関係? そうだろうか? そうとは思えない。他に何かそれらしい原因があるわけではないし。もちろん、すべての責任がルリフォードにあるとは思わないけれど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

聖女にはなれませんよ? だってその女は性女ですから

真理亜
恋愛
聖女アリアは婚約者である第2王子のラルフから偽聖女と罵倒され、婚約破棄を宣告される。代わりに聖女見習いであるイザベラと婚約し、彼女を聖女にすると宣言するが、イザベラには秘密があった。それは...

王太子に婚約破棄され塔に幽閉されてしまい、守護神に祈れません。このままでは国が滅んでしまいます。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 リドス公爵家の長女ダイアナは、ラステ王国の守護神に選ばれた聖女だった。 守護神との契約で、穢れない乙女が毎日祈りを行うことになっていた。 だがダイアナの婚約者チャールズ王太子は守護神を蔑ろにして、ダイアナに婚前交渉を迫り平手打ちを喰らった。 それを逆恨みしたチャールズ王太子は、ダイアナの妹で愛人のカミラと謀り、ダイアナが守護神との契約を蔑ろにして、リドス公爵家で入りの庭師と不義密通したと罪を捏造し、何の罪もない庭師を殺害して反論を封じたうえで、ダイアナを塔に幽閉してしまった。

魔法を使える私はかつて婚約者に嫌われ婚約破棄されてしまいましたが、このたびめでたく国を護る聖女に認定されました。

四季
恋愛
「穢れた魔女を妻とする気はない! 婚約は破棄だ!!」 今日、私は、婚約者ケインから大きな声でそう宣言されてしまった。

【完結】両親が亡くなったら、婚約破棄されて追放されました。他国に亡命します。

西東友一
恋愛
両親が亡くなった途端、私の家の資産を奪った挙句、婚約破棄をしたエドワード王子。 路頭に迷う中、以前から懇意にしていた隣国のリチャード王子に拾われた私。 実はリチャード王子は私のことが好きだったらしく――― ※※ 皆様に助けられ、応援され、読んでいただき、令和3年7月17日に完結することができました。 本当にありがとうございました。

婚約破棄されたので、契約不履行により、秘密を明かします

tartan321
恋愛
婚約はある種の口止めだった。 だが、その婚約が破棄されてしまった以上、効力はない。しかも、婚約者は、悪役令嬢のスーザンだったのだ。 「へへへ、全部話しちゃいますか!!!」 悪役令嬢っぷりを発揮します!!!

巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~

アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。

処理中です...