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前編

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 暖かな空気が世界を包み込み、数多の花が晴れやかに咲き乱れる、そんな季節のある日。私は婚約者アーデルベームスに「伝えたいことがある」と手紙で言われ、彼の家へ向かった。なるべく早く来てほしいとのことだったので、可能な限り最短の日程で彼のところへ行った。

「お待たせしました」
「遅いよ」
「すみません」

 一応謝っておくが、不満はある。

 これでも頑張って急いだのだ。自分がやりたかったことの予定も変え、少しでも早く彼のところへ行けるように努力した。なのに着くなり遅いとだけ言われたら、あまり良い気はしない。

「で、話だけど」
「はい。何でしょうか」

 彼はひと呼吸空けて、述べる。

「君との婚約を破棄することにした」

 刹那、彼の家の裏山が噴火した。

 凄まじい音と揺れ。
 窓も数枚一気に割れる。

「なっ……!?」
「何でしょう、これ……」
「取り敢えず逃げねば。では! そういうことだから!」

 撤回はないのね。

 だが構わない。
 終わりでも良い。

 石が飛んできて壁に当たる音がする中、私は彼と別れた。
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