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後編

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 ◆


 それからは大騒ぎかつ大忙しだった。

 記憶喪失になったことで親や周囲の人たちからかなり驚かれた。
 さらに、婚約者だと話す男性ヴィヴォからいきなり婚約の破棄を告げられて。
 それもまた騒ぎの種となってしまった。
 私――いや、この身体の女性の状況は、記憶喪失をきっかけとして大きく移り変わってしまったのだ。

「婚約破棄されるなんてねぇ」
「あっははは、気の毒にね」
「ま、いいんじゃない? 記憶喪失らしいし」

 色々言ってくる人はいたけれど、私は、淡々と日々を重ねた。

 そうしているうちにエルフィンと段々仲良くなっていって――。

「エルフィンさん、よければ、一緒に生きてみませんか?」

 ある日、そんなことを言ってみた。

 ぱっと思いついたのだ。

 この身体の女性もきっと誰かと結ばれたいだろう。
 一度は私のせいで捨てられてしまった。
 だからこそ、この身を誰かと幸せにしてあげたいと思ったのだ。

「なっ……」
「あ、ご結婚されていますか?」
「いえ! しておりません!」
「なら良かったです。それで、どうでしょうか……どうします?」
「ええと……」
「あ、もちろん、嫌なら嫌と言ってくださいね」
「……あの、私はその、そういう身分では」

 エルフィンは少し気まずそうにしたけれど。

「嫌ですか?」
「嫌では……ありません」

 そう言ってくれて。

 それによって、無事、エルフィンと結ばれることができた。

 こんな形の結末はおかしかっただろうか?

 でも私はこれもありと思っている。
 個人の勝手な考えではあるけれど。

 ちなみにヴィヴォはというと、あの後一人のナイスバディ美女に惚れ込んで迫ったものの心ない言葉を投げられたうえ強く拒否され、それによってかなりのショックを受けたそうだ。で、その日以降、意味が明瞭でない言葉を一日中呟きたまに大声を出すようなことしかできなくなってしまったそうだ。

 彼は死にはしなかった。
 でも彼の心は死んだも同然。
 あくまで肉体が生きているというだけの話だ。

 彼という人間は、女性の拒否によって崩壊したのだ。


◆終わり◆
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