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『くだらない人生とはさっさとおさらばします。~前世は最悪でしたが、次の人生では幸せを掴めました~』

 人生ってホントくだらない。

 純粋にそう思う。
 さっさと死ねたらどんなにいいか。

 だって、婚約者のためにずっと色々努力してそればかりで生きてきたのに、結局他の女に乗り換えられたうえ婚約破棄されてしまったんだもの。

 彼のために努力してきたのは義務だと思っていたから。楽しくなんてなかったし、やりたくだってなかった。本当は少しだって彼のために努力なんてしたくなかったのだ。当たり前だろう、だって彼なんてどうでもいい存在なのだから。彼のために頑張っていると思うだけで吐き気がするくらいだった。

 でも、それでも、仕方のないことだと。

 そう思って、自分で自分を励まして、孤独に頑張ってきた。

 周囲は悪口しか言わない。
 周囲は否定することしか言わない。

 でもそれでもただ一人孤独に頑張ってきて。

 ――で、この結果である。

 結局、人間、努力なんて無駄なのだ。

 精神をすり減らして頑張ったってなんだかんだでだらしない人間の方が上手くやって生きていっているもの。

 ある意味、そういう人たちは器用なのだろう。

 そういう人たちは完璧を目指さない。それなりで生きている。でも案外そうやって生きている方が上手くいっていたりして。

 だから時折馬鹿馬鹿しくなるのだ。

「あー、死の」

 そんなことを考えているうちにこの世界で生きることに価値はないと思うようになり、私は生を終えた。

 生まれさせられるのは強制なのだ。
 死ぬ時くらい選んでも文句は言われないだろう。

 ……いや、誰も文句を言う権利なんてないのだ。

 苦しみしかない、苦痛でしかない、こんな世界に生まれた。それだけでもう罰を受けたということなのだから。あとは自由にさせてほしい。他者の命を奪うのは問題だろうが自分の命をどうするかくらい個人の自由だろう。

 ――さようなら、世界。


 ◆


 生まれ変わった私は王女であった。

 前世の記憶は持っている。
 そのため前世の私が残念の極みのような人生を歩んできていたということは覚えている。

 でも、それを取り戻せたと思えるくらい、今回の人生は幸せだ。

 だからもう過去についてあれこれ言う気はない。

 私が見つめるのは今の人生だけ。
 今ここにある幸せを確かなものとして全身で感じながら歩んでゆきたいと思っている。

 そうよ、今度こそ幸せになってみせる。

 もう苦しまない。
 もう絶望しない。

 皆に愛されて、幸福の海を泳ぐの。

 ――そんな私は十九の春に隣国の王子のもとへと嫁いだ。

 王子はとても良い人だった。
 彼は私を純粋な瞳で見つめてくれたし心の底から愛してくれていた。

 また、彼の両親もとても温かい人で、よそ者である私にもまるで本物の親であるかのように接してくれる。
 この親に育てられたからこそその息子である王子もこんなにも愛のある人なのだろう――そう確信するほど。

 ……ああそうだ、ちなみに、前世で婚約者であったあの人は今回の人生ではあまり幸せには生きられていないようである。

 何でも、彼は今回奴隷の子として生まれたそうで、生まれた時からずっと奴隷として強制労働させられながら生きているそう。
 また、彼の主である男性は奴隷を極端に見下す性質の持ち主であるそうで、それゆえ毎日のように『奴隷には存在価値がない』といったようなことを言われることとなってしまっているみたいだ。


◆終わり◆


『理不尽に婚約破棄してきた婚約者に罰を下してくれたのは、二つ年下の可愛い可愛い妹でした。』

 私には可愛い妹がいる。
 二つ年下の彼女は魔法使いであり、また、姉である私を心の底から愛してくれる素晴らしい女性でもあるのだ。

 そんな妹は、私が理不尽に婚約破棄されたことに激怒した。

「お前なんてさぁ、ぱっとしねぇ、ただの平凡の極み女だろ? カスだよ。お前みたいなやつ、もうどーでもいーわ。てことで、婚約は破棄な!」

 妹と一緒に参加していた晩餐会の最中、私の婚約者であるウェッヂは突然そんなことを言ってきたのだった。

 その時妹も私の傍にいて。
 即座に殴りかかるようなことはしなかったものの、かなり腹を立ててくれていたようだった。

 それでウェッヂからの婚約破棄宣言の直後に。

「お姉さま、わたし、あの人絶対に許せませんわ」
「……と、言うと?
「このわたしが罰を与えます。今ここで。あの愚かとしか言いようのない男に罰を下すのです」

 妹は真っ直ぐな瞳でこちらを見つめながらそんなことを言ってくる。
 でも私には躊躇いがあった。
 今ここで何か仕返しのようなことをしてしまったら変な目で見られてしまうのではないか、と心配していたのだ。

「お姉さまは嫌なんですの?」
「いいえ、けど……」
「何か?」
「躊躇いがあって」
「それは一体どういうことですの」
「だって、仕返しなんてしたら、変な目で見られてしまうんじゃないかって思って……」

 すると妹は花のように笑みを浮かべた。

「そういうことなら、心配は必要ありませんわ」

 彼女は既に晴れやかな顔をしている。

「誰にもばれませんわよ」

 堂々としている彼女がそこまで言ってくれたので、私は、罰を下すこと――ある意味での復讐、を、彼女に頼むことにした。

「貴女、とても美しいね」
「あ、いえ、そんな。ウェッヂ様ったら、もう」
「惚れてしまったよ」
「ええー? そんな、照れますよ」
「いやいや照れる必要なんてない。悪いことをしているわけではないのだから。……でも意外だな、貴女ほどの女性でも照れたりするのだなと初めて知っ――」

 刹那、ウェッヂのまとっていた衣服が完全に剥げる。

「きゃあああああああああああ!!」

 ウェッヂに口説かれていた女性は高い悲鳴をあげた。
 突如目の前に現れた全裸に心が耐えられなかったようだ。

「いや! いや! あっち行って! 無理無理無理無理……ぅ、キモ、気持ち悪すぎて……いやあああああ! あっち行って! お願い、離れてちょうだい!」

 女性に悲鳴をあげられたうえ拒否されたウェッヂは絶望。その場から走り去った。そしてその駆けている勢いのままにバルコニーへと飛び出し、柵を乗り越え、宙へと身を投げた。

「え……ちょ、嘘、でしょ……」

 そうしてウェッヂはこの世を去ったのだった。


 ◆


 あれから五年。
 私と妹は今も同じ屋根の下で幸せに暮らしている。

 恋をしたことはある。
 でも結婚までは考えてはいない。

 だって私は妹だけを愛しているから。

 結婚するとなれば恐らく妹とは一緒には住めない。どんな形で暮らすにせよ、妹とは恐らく離れることとなってしまう。妹も同居で、なんていうのは、さすがに結婚相手が許さないだろうし。

 だから私は妹と二人でいる道を選んだのだ。


◆終わり◆
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