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前編

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 かつて婚約者の母親から散々無能だ何だと罵られた挙句婚約破棄を宣言され一方的に捨てられてしまった私だが、それから二年八ヶ月が経った今、良き人と巡り会い夫婦となり穏やかな家庭を築けている。

「おはよう、レミー」
「ええおはよう。良い朝ね、ラッシュ」

 新しい朝が来るたび、私たちは穏やかな挨拶を交わす。

 それは互いを想う行為だ。

 毎日同じ家で暮らしているのだから、ある意味、朝出会うのは当たり前のことで。でもそれを当たり前だと思ってしまいたくはなく、だからこそ、敢えてはっきりと挨拶の言葉を交わすのだ。

 共にあれる日を当たり前と思ってしまわないように、すべてを毎朝リセットする。

 新しい心で。
 また新しい日が始まるのだと。

 そう考え、毎日を大切に歩むのだ。

「朝食できてるわよ」
「え、もう!?」
「昨夜ぱぱっと作っておいたの。朝から作るのは大変だし待つ時間もちょっと辛いでしょう」

 ちなみに、かつて私を捨てた元婚約者の彼は、あれから何人かの女性と関わるもそのたびに母親に壊されてしまっているようで――結局、あの悪質な母親のせいで結婚には至らないままだそうだ。

 ただ、最近彼の母親の悪い噂が流れ始めたようで、皆から無視されるなどして彼女は嫌われ始めているらしい。

 それゆえ、いずれはあの心ない母親の方が孤立することになるだろう。

 そうなれば話は変わってくるのかもしれないが……ただ、彼ははっきりとした物言いが得意でない人なので、きっと母親離れはできないだろう。

 つまり、彼に良き女性と結ばれる未来はないのだ。

 きっとこれまでのような同じことを繰り返す。

 そして女性は傷つけられ去ってゆくのだろう。
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