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前編

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 生まれつき特殊な能力を持っていた良家の娘アンナには、美男子という言葉が相応しい三つ年上の婚約者がいたのだが。

「ごめん、きみとはもう終わりにする」

 急にそんなことを言われてしまった。

「待って。どうして? どうしてそんなこと……」
「簡単なことだよ、ぼくにきみは相応しくないと思ってきたんだ」
「相応しく、ない……?」
「そ。ぼくにはもっと美しい人が似合うんだ。きみみたいな中の上じゃつり合わない。だからきみと結婚するのはやめることにしたんだ」

 婚約者ポールは常に穏やかな笑みを浮かべている。

「だからさ、もう終わり。いいね。じゃ、そういうことだから、さようなら。……ま、きみも暇潰しにはなったよ」

 アンナはその場ではそれ以上何も言い返さなかった。

 だが腹は立てていた。
 婚約しておきながら後になって破棄するという無責任さに対して。

 許せない。

 アンナの心にはそんな言葉ばかりが蔓延っていた。
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