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4話「訳が分からない親切さ」
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豪邸には数名の使用人がいた。
彼女らは、いきなり現れた存在である私に対しても、感じ良く接してくれた。
「凄いところですね……」
ヤンバレと隣り合って歩きながら、思わずそんな言葉も漏らしてしまう。
深い意味はないが心からの言葉である。
「こういうところには慣れていらっしゃらないのですか? 聖女様でも?」
「そうですね。元々お金持ちではありませんので」
城で暮らしていたのは、私が聖女と認められていたから。金銭をたくさん持っていたわけではないし、権力を手にしていたわけでもない。苦労のない生活はできていたけれど、特別贅沢かつ優雅な生活をしていたというわけでもない。
「そうでしたか。でも、それはそれで良かったです。家が狭すぎて驚かせてしまったら申し訳ない、と、少し心配していたので」
この家で、しかも別荘で、なのに狭すぎる?
どんな人がそんな意見を言うのだろう。
正直私には想像できない思考だ。私の思考とはかけ離れている。もっとも、広い世の中を探せば中にはそういう人も存在するのだろうけれど。
「聖女様、今日からはしばらくここでお過ごし下さい」
ヤンバレは何の躊躇いもなく笑みを向けてくる。
彼はなぜこうも親切にしてくれるのだろう。こうも見返りなしに親切にされると、段々怪しさすら感じられてくる。ただ、彼の表情には穢れがなくて。だから自然と信じそうになってしまう。
「……良いのですか?」
「はい。もちろん」
私はもう聖女ではない。富も権力もない、ただの一人の娘だ。そんな私に親切にする理由が読めない。私に親切にしても得なんて何もないだろうに。
「えっと……その、ありがとうございます」
「では部屋へ案内しますね」
「部屋? それは……私の部屋、ということですか?」
「はい。お気に召すから分かりませんが」
私はヤンバレに案内されるがままに歩き続ける。
この先に何が待つかなんて分からない。実は罠なのではないかという不安がないわけでもない。けれども、今はただ、ひたすらに前へ進む。待ち受けるのがどんな未来だとしても、一人寂しく死ぬよりかはましな気がする。
彼女らは、いきなり現れた存在である私に対しても、感じ良く接してくれた。
「凄いところですね……」
ヤンバレと隣り合って歩きながら、思わずそんな言葉も漏らしてしまう。
深い意味はないが心からの言葉である。
「こういうところには慣れていらっしゃらないのですか? 聖女様でも?」
「そうですね。元々お金持ちではありませんので」
城で暮らしていたのは、私が聖女と認められていたから。金銭をたくさん持っていたわけではないし、権力を手にしていたわけでもない。苦労のない生活はできていたけれど、特別贅沢かつ優雅な生活をしていたというわけでもない。
「そうでしたか。でも、それはそれで良かったです。家が狭すぎて驚かせてしまったら申し訳ない、と、少し心配していたので」
この家で、しかも別荘で、なのに狭すぎる?
どんな人がそんな意見を言うのだろう。
正直私には想像できない思考だ。私の思考とはかけ離れている。もっとも、広い世の中を探せば中にはそういう人も存在するのだろうけれど。
「聖女様、今日からはしばらくここでお過ごし下さい」
ヤンバレは何の躊躇いもなく笑みを向けてくる。
彼はなぜこうも親切にしてくれるのだろう。こうも見返りなしに親切にされると、段々怪しさすら感じられてくる。ただ、彼の表情には穢れがなくて。だから自然と信じそうになってしまう。
「……良いのですか?」
「はい。もちろん」
私はもう聖女ではない。富も権力もない、ただの一人の娘だ。そんな私に親切にする理由が読めない。私に親切にしても得なんて何もないだろうに。
「えっと……その、ありがとうございます」
「では部屋へ案内しますね」
「部屋? それは……私の部屋、ということですか?」
「はい。お気に召すから分かりませんが」
私はヤンバレに案内されるがままに歩き続ける。
この先に何が待つかなんて分からない。実は罠なのではないかという不安がないわけでもない。けれども、今はただ、ひたすらに前へ進む。待ち受けるのがどんな未来だとしても、一人寂しく死ぬよりかはましな気がする。
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