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前編

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 母が勝手に決めてきた青年ブルーノとの婚約。
 それは一見素敵なもののようでそんなものではなかった。
 というのも、ブルーノは、外面はわりと良いものの近しい人にはたびたび感情的になるところのある人だったのだ。

 彼は当然婚約者となった私にも当たり散らしてきていた。

 ある時は「とろいんだよ! お前!」「いい加減優秀になれよクズ!」などと罵り、ある時は苛立ちの発散のためにわざわざ私を呼び出して花瓶の水をかけてきた。

 ――そんな彼を愛せるはずもなく。

 でも、引くに引けない状態だった。

 なぜなら、母が決めた婚約だからだ。

 私の母は非常にプライドの高い人だ。だから、彼女が選んだ相手が気に入らないと言ったなら、きっと激怒することだろう。だから本当のことは言いづらいのだ。

 母とブルーノならそっくりでお似合いと思うのだが――なんて、ね。

 ――だが、ある日、良いことが起こった。

「お前と付き合うのはもう無理だ! よって、婚約は破棄とする!」

 ブルーノが婚約破棄を宣言してくれたのだ。

 これはありがたいことだった。

「本当に、良いのですか?」
「ああ、もう縁を切りたい」
「分かりました! ありがとうございます! ではこれで、さようなら」

 ブルーノは少し戸惑ったような顔をしていたけれど。

「あ、ああ、そうだな。さよなら」

 そんな風に、終わりの言葉を発した。

 これにて関係はおしまい。
 すべてに幕が下りる。
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