奇跡の歌姫

四季

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173話「ミソカニの生んだ舞台、その成長」

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 初回公演から一週間後、前回とは違った小劇場にて公演が行われることとなった。

 一回目の公演が終わった時、私は次の公演のことを知らなかった。思えば明言されていたわけではないのだけれど、私は勝手に一回きりのものなのだと思い込んでしまっていたのだ。

 耳にした瞬間は驚くと共に焦りも感じた。

 次があるなんて想像していなかった、と。

 けれども、時が経過していくと共に衝撃は薄れていって。今度は逆に、良い方向へ感情が進んでいくのを感じた。

 また、初回公演への評判が私の心を前向きにしてくれたというところもある。というのも、想像より良い評価を得ることができたのだ。

 ファルシエラの民からすれば、これは隣国キエルの人間が制作した作品。それゆえ、あまり良くは思われないかもしれない——私には少しばかりそう思っている部分があった。

 けれども、実際公演を行ってみての感想は、冷ややかなものではなかった。

 演者が未熟という意見もないことはなかったようだ。だが、その多くが、成長を期待してくれるものであった。それに、感動しただとか予想を超える出来だったとか、そういった感想も多くて。

 それを聞いたら、もっと頑張ってみようかなと思えるようになった。
 温かい励ましの言葉が背をそっと押してくれたと言っても過言ではないだろう。


「明日の公演、私は席を取れていない」

 二度目の公演の前日。
 ホーションの外れの家にて、ウィクトルがいきなり口を開いた。

「そうなの?」
「あぁ。前回はあのミソカニという者が手配してくれて何とか席を入手できたが、今回はそうはいかなかった。すまない」

 ウィクトルに見せられないのは残念だ。けれど、たとえ彼が見ていなくとも、私はやってのける自信がある。完璧ではないかもしれないけれど、それでも、前よりは一歩進んでみせるつもりでいる。

「いいのよ、ウィクトル。貴方が客席にいなくても、私は頑張れるわ」

 席が埋まっていることは必要とされていることの証明。
 私を、私の歌を、必要としてくれる人がいる。それだけで私は強くなれる。

「大丈夫か?」
「もちろん! 貴方が応援してくれていると思えるだけで、百人力よ」
「なら安心した。客としては力になれないが……応援という名の思いで君に力を注ごう」

 応援を表明してくれたウィクトルに「ありがとう」と言って、窓の外に広がる空へと視線を向ける。

 晴れやかな空。
 それもまた、私を応援してくれているかのようだ。

 母との死別。生まれた地との離別。帝国内でのいざこざ。決して明るくはない人生だった。この星へ来る前も、来てからも。舞台に立つ時は光を浴びていても、それが終われば現実へ引き戻される。そんな人生だった。

 でも、霖雨を越えて今、私は光の空へ飛び立とうとしている。

 難しいこと、厳しいこと、上手くいかないことだって、これから先もきっとあるだろう。問題の起こらない人生なんてない。

 ——それでも、強く。

 強く生きていこうと思えるのは、ここへ来るまでの道があったから。



 急激に多忙になってしまった。

 小規模な劇場での二度目の公演を終えた後、またしても、次なる公演が決まったからだ。
 それも、今度の公演は数カ所で行う形式らしい。つまり、数回の公演がセットになった形だということ。一度目や二度目のように、一回行って終わりではないのだ。

 ミソカニは公演が順調であることを喜び、非常に機嫌が良い。

 ただ、こだわりはより一層強まったように思う。

 彼は歌唱に関しては何も言わない。それは多分、私の歌を信頼してくれているからなのだろう。それは私にとって幸運だったと言えるだろう。自由に歌うことができるのは、ありがたいことだ。

 ただ、演技の部分に関しては、ミソカニは常にいろんなことを言ってきた。

 しかしそれは不愉快なものではなかった。
 というのも、姑がわざと言うような嫌みではないのだ。

 彼はいつも、具体例や改善方法を提示しつつ、冷静に注文を述べる。そのため、彼が言うことに添って改善していくことが可能で。また、彼の意見を反映することによって自身が変わっていくことも感じられるため、不信感が募ることはなかった。


「五カ所の劇場での公演、いよいよ明日から幕開けネ!」

 ホーション近くの劇場から始まり、全部で五つの劇場を回る。
 ちなみに、一つの会場につき二三回ほど公演が行われる予定だ。

「面倒臭いですね……ま、頑張りましょう」

 フリュイは今日もローテンション。いつものことだが、静かな声。やる気に満ち、自然とテンションが上がっているミソカニとは、真逆の様子である。このあまりやる気がなさそうな青年があれだけ見事な朗読を行うのだから、「人間は見た目がすべてでない」と言われるのも分からないではない。

「ウタさん、どうかしラ? やる気たっぷリ?」
「実はちょっと緊張してます」
「オゥ!? 緊張してる……ま、でも、それは仕方ないわネ。こんな長期にわたってお世話になるなんて、アタイも最初は思ってなかったもノ」

 ホントそれ。
 そう言いたい気分だ。

「でもネ! ウタさん、緊張する必要はないノ!」

 ミソカニは右手でピストルのような形を作り、ウインクしながら、撃つような動きをする。

「ウタさんは普通にしてても凄いワ! マイペースで問題なしなのヨ!」

 妙にはっちゃけた振る舞いをするミソカニを見て、フリュイは呆れたように「何なんですか、そのアクション」と突っ込みを入れる。しかしミソカニは恥じらわない。当然のような顔で「銃パーンとウインクの組み合わせヨ」と述べる。するとフリュイはさらに呆れたような顔つきになって、片手で耳もとを弱く掻く。

「励ましの言葉、ありがとうございます。ミソカニさん。とにかく、できることはすべてやってみますね」

 私は感謝の気持ちを述べておく。
 気持ちなんてものは、抱いていても伝わらなければ台無しだから。

「感謝できる素晴らしい娘ネ!」
「ま、頑張りますか……」

 ミソカニとフリュイはほぼ同時に喋った。
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