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3話
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半年ほどが経過した、秋頃。
彼はまた丘へやって来た。
片腕を失った彼は痛々しい姿になっているのに、そのわりに表情は以前より明るくて。最初に出会った時感じた私との共通点は、消えてなくなっているようだった。
「すみません、忙しくてなかなか来れなくって」
「……待っていませんから」
「え。あの、何か怒ってます? 失礼なこと言ってしまいましたか?」
「気にしないでください」
私が前回以上に無礼な態度を取ってしまったのは、彼が前より幸せそうになっていたからだと思う。
幸せそうな人に近づくのは嫌いだ。
放たれる光で自分が消えてしまいそうな気分になるから。
「もう話すことはないので、帰ってください」
その日、私は本格的に彼を突き放した。
……しかし。
彼は次の日もその次の日も丘へやって来た。来る日も来る日も、休むことなく、私のところへやって来る。また、そのたびに、色々な贈り物を持ってきてくれた。ちなみに、贈り物の内容は、食べ物とか本とか髪飾りとか色々。
「夕陽が綺麗ですね」
絶望の塊みたいな私の隣で、彼はいつも無邪気に笑っている。
どうしてそんなに明るく生きられるのか。
「……なぜこんなにやたらと来るのですか」
「会いたいから、です!」
彼は晴れやかに笑って答えた。
それでも私はすぐには信じられない。残念ながら、嬉しい言葉をすんなり信じられるほどお気楽な心を持ってはいないのだ。
「……嘘は要りません」
反射的に口から言葉が出た。
「えっ。勝手に嘘とか言わないでくださいよ。本当か嘘かなんて、貴女は知らないはずです」
そうだろうか? そういうものだろうか? 私にはよく分からない。根拠もなく信じろなんて言われて信じるのが普通? だとしたら普通がおかしいのではないのか? そんな普通が普通であって、何もおかしくないというのか。
「分かりますよ、それくらい。嘘でしょう。私に会いたい理由がありませんから」
「会いたいことに理由なんて要りますか?」
「……何のなぞなぞですか、それは」
「会いたいのは会いたいから! つまりそういうことです!」
「ごめんなさい、意味不明」
「今はまぁそれで大丈夫です。いつか理解していただけるよう努力します」
その翌日から、彼は丘へ来なくなった。
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