1 / 2
前編
しおりを挟む卒業が近づいた夏の終わり。
学園の庭に設置されているベンチに座り一人泣いている男子学生を発見した。
「あの……どうされたのですか? 大丈夫、ですか?」
思わず声をかけてしまった。
彼のことなんて知らない。顔も、名前も、それ以外のことも。そう私たちは赤の他人だったのだ。もちろんクラスだって一緒だったことはないしすれ違ったことさえほとんどないくらいで。
でも声をかけてしまったのは、一人ぽつんと佇んでいる彼が何となく可哀想だったからだ。
「え……」
「何かあったのですか? ええと……虐められた、とか? あ、いきなりすみません、失礼ですよね。でも……その、ちょっと、気になってしまって。言いたくないことであればもちろん言わなくて大丈夫ですよ」
「ごめんなさい、心配お掛けてしてしまって」
「いえいえ」
「大丈夫です、僕、もう元気なんで!」
彼は笑顔を無理矢理作ってそう言ったけれど、すぐにまた涙を溢れさせてしまう。
作り物の笑顔は一分ももたなかった。
「力になれることがあれば言ってください。話を聞くとか、そのくらいなら、私にもできると思うので」
すると彼は。
「……実は、婚約破棄、されまして」
ようやく口を開いた。
それから彼は辛いことを話した。
一年ほど前から婚約していた女性に捨てられたこと。その際ただそれを伝えるだけではなく侮辱するようなことまで言われてしまったこと。また、説得すらさせてもらえずに切り捨てられてしまったこと。
「それは、大変でしたね」
私に言えることはそのくらいしかなかった。
だってそういうものだろう。
なんせ今日知り合ったばかりなのだ、言えることなど多くはない。
つい先ほどまで知り合いでも友人でもなかったのに気の利いた発言なんてできるはずもない。
ただそれでも。
「ありがとう、聞いていただけて少し心が軽くなりました」
彼は最後少しだけ笑みを滲ませてそう言ってくれたので、力になれたのだと感じられて内心とても嬉しかった。
その男子学生は別れしな自身の名をポートレットと名乗った。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
わがまま妹、自爆する
四季
恋愛
資産を有する家に長女として生まれたニナは、五つ年下の妹レーナが生まれてからというもの、ずっと明らかな差別を受けてきた。父親はレーナにばかり手をかけ可愛がり、ニナにはほとんど見向きもしない。それでも、いつかは元に戻るかもしれないと信じて、ニナは慎ましく生き続けてきた。
そんなある日のこと、レーナに婚約の話が舞い込んできたのだが……?
私の婚約者を狙ってる令嬢から男をとっかえひっかえしてる売女と罵られました
ゆの
恋愛
「ユーリ様!!そこの女は色んな男をとっかえひっかえしてる売女ですのよ!!騙されないでくださいましっ!!」
国王の誕生日を祝う盛大なパーティの最中に、私の婚約者を狙ってる令嬢に思いっきり罵られました。
なにやら証拠があるようで…?
※投稿前に何度か読み直し、確認してはいるのですが誤字脱字がある場合がございます。その時は優しく教えて頂けると助かります(´˘`*)
※勢いで書き始めましたが。完結まで書き終えてあります。
【完結】側妃になってそれからのこと
まるねこ
恋愛
私の名前はカーナ。一応アルナ国の第二側妃。執務後に第一側妃のマイア様とお茶をするのが日課なの。
正妃が働かない分、側妃に執務が回ってくるのは致し方ない。そして今日もマイア様とお茶をしている時にそれは起きた。
第二側妃の私の話。
※正妃や側妃の話です。純愛話では無いので人によっては不快に感じるかも知れません。Uターンをお願いします。
なろう小説、カクヨムにも投稿中。
直接的な物は避けていますがR15指定です。
Copyright©︎2021-まるねこ
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
家に代々伝わる髪色を受け継いでいないからとずっと虐げられてきていたのですが……。
四季
恋愛
メリア・オフトレスは三姉妹の真ん中。
しかしオフトレス家に代々伝わる緑髪を受け継がず生まれたために母や姉妹らから虐げられていた。
だがある時、トレットという青年が現れて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる