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『会うたびにちくちくと嫌みを言ってくる婚約者から解放されて嬉しいです。』

 私には二つ年上の婚約者がいたのだが、彼は会うたびにちくちくと嫌みを言ってくる人で、それゆえ顔を思い出すことさえ嫌に感じるくらい嫌いな人だった。

 そんな彼はある日突然この世を去った。

 彼には昔付き合っていた女性がいたそうなのだが、その女性がかなり妄想系の人であったらしく、以前から『彼、好きなのにそっけなくしてくる』なんて思い込んでいたそうで――そんな彼女に路上で襲われて、彼はこの世を去ったのだった。

 女性は彼を殺す気はなかったと言っているらしい。

 それが本当か否かはよく分からない。
 なんせ私はその女性と知り合いではないから。

 ただ、彼が亡くなったことによって私と彼の婚約は自動的に破棄となったので、思わぬ形で自由の身となることができた。

 怖い女に殺められる、なんて、恐ろしい以外の何物でもない状況だ。
 ただ、彼は心ない人でお世辞にも善良とはいえないような人だったので、そういった理不尽な目に遭ったとしても可哀想とは思わなかった。

 むしろ女性にお礼を言いたいくらいだ。

 彼女の行動によって私は彼から解放されたのだから。

 これでもう自由だ。
 何にも誰にも縛られることはない。

 そしてこれ以上嫌みを言われることもない。

 言葉でちくちくされるというのも結構なストレスだったので、それから解放されると思うとついつい笑みが浮かんでしまう。不謹慎だと言われてしまえばそれはそうなのだけれど。

 ……だがそれが今の私の正直な心なのである。


◆終わり◆


『悲しくはないですが残念です。~可愛くなさに呆れた、とのことで、婚約破棄を告げられました~』

「お前の可愛くなさには呆れた。よって、婚約は破棄とする」

 意味不明な理由で婚約破棄されてしまった。

 婚約者ルドールは女性人気の高い男性。
 ゆえにそんな彼から想いを告げられた時には戸惑った。が、それでも真っ直ぐに想いを告げられたことは嬉しくて。それで彼の想いを受け入れることにして、婚約をした。

 だがそれが間違いだった。

 ルドールは婚約するまではとても良い人だったのだけれど、婚約した途端冷ややかな人に豹変。

 以降、私たちの間に絆は生まれなかった。

 ルドールの周りにいる女性たちはいつも私を冷たい目で見てくるし「相応しくないのよ、あんたなんて」とか「あんたなんて本気で相手にされてないのよ、形だけの婚約者ね」とか言って馬鹿にしたように嗤ってくる。

 そんなだから、ルドールの婚約者である日々は苦痛ばかりだった。

 ……なので婚約破棄されてもそれほどショックではない。

「そうですか。残念です。ですが……分かりました、受け入れます。今までありがとうございました」


 ◆


 あれから数日。
 雨降りの晩、ルドールが住む家に雷が落ち、それによってルドールを含む一家ほぼ全員が亡くなった。

 前に少しだけ喋ったことがあって良い人だった末っ子――ルドールの妹――その人だけはたまたま外出していて巻き込まれず命拾いしたそうだが。

 それについては、良かった、と心から思う。

 彼女にだけは悪い印象を抱いてはいなかったのだ。
 悪人ではない彼女まで巻き込まれていたらそれは少し心が痛むところだった。

 なので彼女に関しては生き延びてくれていて良かった。


◆終わり◆
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